表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
四.二人のインペラートル
66/114

二十三.

「はぁっ!」

 三笠はすぐに構え直し、アレクサンドルめがけて斬撃を放とうとした。

 しかし、半月斧が円を描いた。

「お退きなさいッ!」

「くっ――!」

 足を狙ったその一撃を、三笠はとっさに下がって避ける。

 半月斧の唸りは止まらない。

「さぁ……いつまで、踊れますか?」

 アレクサンドルは巧みに間合いを保ちつつ、長い柄を自由自在に掌の中で踊らせた。

 必殺の威力を秘めた斧頭が軽やかに舞う。

 その刃は執拗に三笠を追い、左肩をざくりと切り裂いた。

「つっ――」

 三笠は顔をしかめつつも半月斧の動きを読み、距離を取る。

 そして脇を締めると、追撃するアレクサンドルに対し突きの構えを取った。

 それはただ正面を貫くことだけを目的とした、隙の大きい構え。もらったとばかりに、執拗に三笠を追うアレクサンドルの唇が吊り上がる。

 追いついた半月斧が薙ぎ払われ、分厚い刃が左側面から首を狙った。

 その瞬間、三笠は地面ギリギリの所まで屈んだ。

 唸りを上げて頭上を刃が通り過ぎる。

「なっ……」

 アレクサンドルが目を見開く。

 体勢を立て直した三笠はその隙を逃さず、強く一歩踏み出す。

「行くぞ!」

「――隙ありぃ!」

「ッ!」

 首筋に嫌な風を感じた。

 とっさに突きを踏みとどまり、三笠は側面に転がった。一瞬遅れて、それまで彼女がいた場所を、四つの刃が通り抜ける。

「なっ――」

 振り返った三笠は、大きく目を見開いた。

 そこには二人のニコライがいた。どちらも双剣を構え、同じように涙目になっている。

「よ、避けられた……」

「タイミングを計ってたのに……」

 二人のニコライは哀しげな顔で、おのおのの持つ双剣を見つめた。

 三笠は思わず口元を押さえる。

「二人……だと?」

「【白魔の影スネグーラチカ】。全く同じ能力の分身を二人作る特攻鬼装です」

 アレクサンドルが淡々とした口調で言うと、二人のニコライは同時に肩を落とした。

「でもね、この能力……正直言ってどうなのって感じだよね……」

「ボクってばバルチックの中でも能力低めなのに……」

「やめなさい! 全員、今は目の前のことに集中!」

 アレクサンドルがピシッとした口調で言うと、ニコライ達は一斉に姿勢を正した。

 三笠は眉を寄せ、彼女達を見つめた。

「……一気に、三人か」

「貴女を相手にするんですもの。これくらいは当然でしょう――さぁ、行きなさい」

 アレクサンドルが半月斧を三笠に向ける。

「合点承知だよぅ」

「行くよぉ」

 気の抜けた声とともに二人のニコライが双剣を構え、同時に地を蹴った。

 三笠はとっさに大きく後方に飛ぶ。

 直後、四つの刃が彼女めがけて暴風のように襲いかかった。

「ちいっ!」

 三笠は舌打ちしつつ抜刀し、四方八方から押し寄せる斬撃を捌いた。

 火花が上下左右で飛び散った。

 完璧に息の合った双剣の軌道。アレクサンドルの元に突撃しようとしても、それら四つの剣がまるで激流の如く立ちはだかる。

「くそっ、右から左から鬱陶しい……!」

「――十分です、ニコライ」

 三笠が毒づいた瞬間、冷ややかな声が響いた。

 はっと視線を向けると、アレクサンドルの周囲の紋様が煌々と輝いているのが見えた。

「さぁ――今度こそ、悪夢の中で死になさい」

 再び視界が霧に覆い隠された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ