二十三.
「はぁっ!」
三笠はすぐに構え直し、アレクサンドルめがけて斬撃を放とうとした。
しかし、半月斧が円を描いた。
「お退きなさいッ!」
「くっ――!」
足を狙ったその一撃を、三笠はとっさに下がって避ける。
半月斧の唸りは止まらない。
「さぁ……いつまで、踊れますか?」
アレクサンドルは巧みに間合いを保ちつつ、長い柄を自由自在に掌の中で踊らせた。
必殺の威力を秘めた斧頭が軽やかに舞う。
その刃は執拗に三笠を追い、左肩をざくりと切り裂いた。
「つっ――」
三笠は顔をしかめつつも半月斧の動きを読み、距離を取る。
そして脇を締めると、追撃するアレクサンドルに対し突きの構えを取った。
それはただ正面を貫くことだけを目的とした、隙の大きい構え。もらったとばかりに、執拗に三笠を追うアレクサンドルの唇が吊り上がる。
追いついた半月斧が薙ぎ払われ、分厚い刃が左側面から首を狙った。
その瞬間、三笠は地面ギリギリの所まで屈んだ。
唸りを上げて頭上を刃が通り過ぎる。
「なっ……」
アレクサンドルが目を見開く。
体勢を立て直した三笠はその隙を逃さず、強く一歩踏み出す。
「行くぞ!」
「――隙ありぃ!」
「ッ!」
首筋に嫌な風を感じた。
とっさに突きを踏みとどまり、三笠は側面に転がった。一瞬遅れて、それまで彼女がいた場所を、四つの刃が通り抜ける。
「なっ――」
振り返った三笠は、大きく目を見開いた。
そこには二人のニコライがいた。どちらも双剣を構え、同じように涙目になっている。
「よ、避けられた……」
「タイミングを計ってたのに……」
二人のニコライは哀しげな顔で、おのおのの持つ双剣を見つめた。
三笠は思わず口元を押さえる。
「二人……だと?」
「【白魔の影】。全く同じ能力の分身を二人作る特攻鬼装です」
アレクサンドルが淡々とした口調で言うと、二人のニコライは同時に肩を落とした。
「でもね、この能力……正直言ってどうなのって感じだよね……」
「ボクってばバルチックの中でも能力低めなのに……」
「やめなさい! 全員、今は目の前のことに集中!」
アレクサンドルがピシッとした口調で言うと、ニコライ達は一斉に姿勢を正した。
三笠は眉を寄せ、彼女達を見つめた。
「……一気に、三人か」
「貴女を相手にするんですもの。これくらいは当然でしょう――さぁ、行きなさい」
アレクサンドルが半月斧を三笠に向ける。
「合点承知だよぅ」
「行くよぉ」
気の抜けた声とともに二人のニコライが双剣を構え、同時に地を蹴った。
三笠はとっさに大きく後方に飛ぶ。
直後、四つの刃が彼女めがけて暴風のように襲いかかった。
「ちいっ!」
三笠は舌打ちしつつ抜刀し、四方八方から押し寄せる斬撃を捌いた。
火花が上下左右で飛び散った。
完璧に息の合った双剣の軌道。アレクサンドルの元に突撃しようとしても、それら四つの剣がまるで激流の如く立ちはだかる。
「くそっ、右から左から鬱陶しい……!」
「――十分です、ニコライ」
三笠が毒づいた瞬間、冷ややかな声が響いた。
はっと視線を向けると、アレクサンドルの周囲の紋様が煌々と輝いているのが見えた。
「さぁ――今度こそ、悪夢の中で死になさい」
再び視界が霧に覆い隠された。




