二十一.
アレクサンドルはうなずいた。
「しかしそれは我々にとっては過程に過ぎません。最終目標はあの忌々しいスヴェート血盟連邦の打倒……そのために、今は我が主に従っているのです」
「……その主の望みが、神州の掌握か」
きつく拳を握りしめつつ、三笠はアレクサンドルを睨む。
「えぇ。我々は利害が一致しておりますので」
「お前の主は誰だ?」
「先ほども申し上げましたとおり、それは守秘義務に触れますのでお答えしかねます」
三笠の鋭い問いに、アレクサンドルは唇に人差し指をあててみせた。
「何度でも言うわ! ふざけないでサーシャ!」
「……スワロフ」
アレクサンドルはわずかに眉を寄せた。
スワロフは白い頬を赤く染め上げつつ、激しくもがきながら怒鳴った。
「自分が何を言っているかわかっているの!? この神州を掌握する? ロマンチストはどちらよ! 夢見事も大概になさい!」
「……私は有意義な夢を見ていますよ、スワロフ。思い出に溺れている貴女と違ってね」
淡々とした口調で言って、アレクサンドルは半月斧をくるりと回した。
そしてその刃を――かつての上官だったスワロフに向ける。
「……サーシャ?」
「もう黙っていなさい、スワロフ。過去の無価値さについては後でいくらでも言って聞かせてあげましょう。予定も詰まっていますので――」
大きく目を見開くスワロフを一瞥してから、アレクサンドルはその刃を三笠に向けた。
アレクサンドルの薄荷色の瞳が輝きを増した。
「今は迅速に、この女の首を主に捧げなければいけない。――ニコライ!」
「ふ、ふぇえ?」
ニコライが素っ頓狂な声と共に背筋を伸ばした。
「仕事です。この女を殺しますよ」
「わ、わかったけど……だからこの人は誰なのさ?」
ずれた水兵帽を直しながら、ニコライは三笠に視線を向ける。
アレクサンドルはやや目を見開いたが、すぐに「ああ」とうなずいた。
「そういえば貴女はこの女とは初対面でしたか。この女は敷島型四番鬼――我がアリョールの仇敵、三笠です」
「三笠!? ちょっと、無理だよ! ボクよりも性能いいじゃないか!」
ニコライが激しく首を横に振る。
アレクサンドルは呆れたようにため息をつきながら、半月斧を地面に突き立てた。
「問題ありません。魄炉を解放なさい。貴女と私の二人なら、この女はたやすく殺せます」
「……油断は命取りになるぞ」
三笠は低い声で言いながら、おもむろに刀の柄に手をかける。




