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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
四.二人のインペラートル
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二十.

「そのすぐ後にバルチックは完全に瓦解してしまいました。ほとんどが革命派に寝返り、なおも帝制を支持していた私達は追われる身に……」

 アレクサンドルの冷ややかな声が耳を打つ。

 かつての上官の悔しげな表情を見てなおも、彼女は眉一つ動かさなかった。

「栄光は失われ、未来さえ見えない……。こんな状態では輝かしい過去にすがりつくほかありませんよね。そうしないと心が保ちませんから」

「……そんなことは、ないわ。ワタシはちゃんと未来を見てる」

 スワロフがアレクサンドルを睨む。青い瞳にはうっすらと涙がにじんでいた。

 アレクサンドルは目を細めた。

「ならばお答えできますね? これから、貴女はどうするおつもりなのか」

「それはっ……」

「たしか、以前は連邦を打倒すると息巻いておりましたね――今は、いかがです?」

 長い人差し指を顎に添え、アレクサンドルは冷ややかに問いかけた。

 スワロフは迷子のように青い瞳を揺らす。

 その視線は霧の中をさまよい、最後に三笠を映した。しかしそれは一瞬のことで、やがてスワロフは悔しげに表情を歪めた。

「……今はまだ……でもバルチックとしての誇りを忘れずに、前に……」

「相変わらず不明瞭な回答ですね。いつものことですが」

 アレクサンドルは薄荷色の瞳を冷たく光らせつつ、スワロフに人差し指を向ける。

「そんな貴女のために、私はあの神社で一つ提案をいたしましたね。――どうやってでも、何をやってでも生き延びるべきだと」

「そしてワタシはあの日拒絶したわ! バルチックが手を汚すわけにはいかないと!」

 スワロフは激しく首を横に振る。

 聞き分けのない子供を相手にした時のように、アレクサンドルはため息をついた。

「えぇ……本当に頑固な方です」

「……手を、汚す?」

 その言葉のもつ不穏な響きに、三笠は眉を寄せた。

「たしかにあまり褒められた手段ではありませんね。ですが過程はどうあれ、最終的に栄光をつかみ取ることが出来れば良いのです」

「……何をするつもりなんだ? お前達が掴む栄光とはなんだ」

「簡単に言えば神州皇国の転覆です」

「なっ――!」

 淡々とした口調で紡がれた恐ろしい言葉に、三笠は目を見開く。


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