表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
四.二人のインペラートル
62/114

十九.

「サーシャ……ッ!」

 スワロフが唸るように同型の姉の名を呼ぶ。

 しかしアレクサンドルは眉一つ動かさずに、三笠めがけて恭しく礼をした。

「本日は我が総隊長の引き取りと、六年前に取り損ねた貴女の首の回収に参りました。どうぞご協力願います」

「……私を狙う目的はなんだ? ただの礼参りとも思えないが」

 三笠が鋭く問うとアレクサンドルは顔を上げ、彼女に無機質な視線を向けた。

「主の望みです」

「主だと?」

「えぇ。我が主が貴女の死を望んでいるのです」

「お前の主というのは誰だ? そいつは何故、私の命を狙う?」

「これ以上は守秘義務に触れます。ともかく我が主は、迅速に貴女を殺害することを望んでいるのです。なので――」

「サーシャ!」

 スワロフの鋭い声に、アレクサンドルはぴくりと眉を動かした。

「アナタ、何を考えているの? ワタシに黙って、一体今まで何をしていたの?」

 拘束を振り解こうともがきながら、スワロフは激しい口調で矢継ぎ早に問う。

 アレクサンドルは、そんな彼女に冷たい視線を向けた。

「貴女に出来ない事をやっていました」

「何ですって……?」

 細い眉を吊り上げるスワロフに、アレクサンドルは軽く両手を広げて見せた。

「貴女はロマンチスト過ぎます。過去の栄華の夢しか貴女には見えていない。現在を冷静に直視できていないし、現実に足が着いていません」

「そんなことはないわッ!」

「ちょ、ちょっとスワロフ! 落ち着いてよぉ!」

 ニコライが暴れるスワロフを押さえ込む。

 スワロフはそれに激しく抵抗しつつ、怒りに燃える瞳でアレクサンドルを睨んだ。

「ワタシはバルチックの誇りを捨てず、常に現実と向き合っているわ!」

「……それが現実に足を着いていない、という事よ。貴女は、失われたバルチックの栄光に未だ夢を見続けている」

 アレクサンドルは呆れたように、中空に視線を向けた。

「まぁ……やむを得ませんね。この六年間はお互い辛い事ばかりでしたもの。崑崙戦争には敗れ、前弩級分離の影響で僻地に送られて」

「だから何よ! それくらいでワタシの心は屈しなかったわ!」

「そうね。確かに貴女は折れなかった。四年前も反乱の知らせを聞いた貴女は、皇帝陛下の救援に向かうことをすぐに決意しましたからね」

「……サーシャ」

 スワロフの声音が一気に沈んだ。

 しかし、アレクサンドルは淡々とした口調で言葉を続ける。

「でも私達は……間に合わなかった。私達が首都にたどり着くよりも早く、皇帝一家は処刑されてしまった」

「う……!」

 スワロフは唇をきつく噛みしめ、うつむいた。

「スワロフ……」

 その様子があまりにも痛々しく、三笠は思わず彼女の名を呼んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ