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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
四.二人のインペラートル
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十八.

 三笠は眉をひそめた。

「サーシャ……?」

「そう、サーシャ。ボクの上司。怒ると怖いの」

 スワロフの肩越しにニコライが涙目でうなずいてみせる。

 そして三笠をしげしげと眺め、首をかしげた。

「そういえばキミは誰なの? なんだかスワロフを捕まえることよりも、キミの事の方が重要みたいなんだけど」

「私が重要? それは一体どういう――」

「――こういう事ですよ」

 三笠が言葉を終えるよりも早く、霧の中に抑揚のない声が響いた。

 直後、ぞわりと肌が粟立つ。

「何者ッ!」

 冷たい殺気を感じ取り、三笠は声が聞こえた方向めがけて鉄針を投げ打った。

 ギンッ――鋭い金属音が響く。

「ちぃ、弾いたか――!」

 三笠は小さく舌打ちして、鞘ぐるみの刀を構える。

 その瞬間、濃霧の幕が切り裂かれた。

 長身の女が狼の如く躍り出て、両手に構えた半月斧バルディッシュを薙ぎ払う。分厚い刃が三笠の首を刎ね飛ばそうとばかりに迫った。

 三笠はその軌道上にとっさに刀を割り込ませた。

 重い衝撃。三笠はやや眉を寄せつつ、打ち込まれた半月斧を弾きあげた。

 相手はさっと後退し、半月斧を構え直す。

「……片手で受け止めるとは。感嘆しました」

「君は、誰だったかな?」

 鞘付の刀を構え、三笠は低い声で問うた。

 長い金髪を背中に流した、冷ややかな雰囲気の漂う女性だった。スワロフよりもやや年上に見える。白い外套を纏い、頭には毛皮の帽子を被っていた。

 ほのかに輝く薄荷色の瞳を細め、女はじっと三笠を見つめた。

わたくしを忘れましたか? 二度ほど、顔を合わせているはずですが」

「……そういえば最近会ったな」

 抑揚のないその声には覚えがあった。

『足止めをしなさい、【鳳仙花】』――機巧妖魔に襲われたスワロフを助け出した時に聞いた声は、彼女のものだったのだろう。

 それだけではない。あの冷たい薄荷色の瞳には覚えがある。

 六年前――あの崑崙の地で。

 三笠の奇襲に総崩れとなったスワロフの軍を追撃している際、一瞬だけ見た。大混乱に陥ったアリョール軍を立て直そうとしている姿。

「確かアレクサンドル……と言ったかな。バルチック副隊長の」

「覚えておいででしたか。光栄です」

 アレクサンドルは淡々とした口調で言って、豊かな胸元に手を当てた。

「私はボロジノ型二番鬼。マキナとしての識別名をインペラートル=アレクサンドルⅢ世と申します。――そこのクニャージ=スワロフとは姉妹型です」


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