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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
四.二人のインペラートル
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十七.

 それを察しつつ、三笠は首を振る。

「見苦しい姿だったのは私も同じだ。だがお前の言葉は、その……今の私にとっては、とても必要なものだったと思う」

「三笠……?」

 スワロフは戸惑ったように青い瞳を揺らし、三笠を見つめた。

 三笠は口をつぐむと、慎重に言葉を探した。

「私は……その……」

 次に何を言うか。それ次第で、自分たちの関係は大きく変わる予感がした。

 だが答えを見出すよりも早く――渦巻く霧を、影が切り裂いた。

「――先に謝る! ごめんねスワロフ!」

 気弱な言葉と共に、スワロフの背後に何者かが降り立つ。

「えっ――」

「スワロフ!」

 三笠はとっさに袖の下に手を伸ばし、隠していた鉄針を投げ打とうとした。

 しかし乱入者はそれよりも早く、スワロフの両腕を拘束する。

「くっ……アナタ……!」

「ごめん! 本当にごめんなさい!」

 痛みに喘ぐスワロフに対し、乱入者は謝罪の言葉を繰り返した。

 三笠は鉄針を指に挟んだまま、相手を睨む。

「バルチックだな?」

「そ、そうだよ……」

 三笠の視線に乱入者はわずかに身を縮めた。

 細い体を紺色の軍服に包んだ女だ。頭には何故か水兵帽を被っている。

 ほのかな桃色を帯びた、柔らかそうな金髪が目を引いた。淡い水色の瞳はおどおどとした様子で、三笠の様子をうかがっている。

 見ているうちに女はスワロフの背後に身を隠し、三笠に震える指先を向けた。

「とりあえず動かないでね! 動かれたらいろいろ困るんだよ! ボクもどうすれば良いかわからないんだから!」

「……本当に、バルチックなのか?」

 明らかに怯えのにじむ相手の態度に戸惑い、三笠は念押しするように問いかけた。

 すると、水兵帽の女はぷくっと頬を膨らませる。

「失敬な! ボクは正真正銘バルチックの第三部隊隊長! インペラートル=ニコライⅠ世だぞ! ……まぁⅠ世も何もニコライはボク一人しかいないけど」

「ワタシを離しなさい、ニコライ! ワタシはアナタ達と行動するつもりはないわ!」

 スワロフが拘束を振り解こうともがく。

 ニコライは慌てて彼女の両腕を締め上げつつ、泣きそうな表情で首を振った。

「や、やめてよスワロフ! 暴れられたらボクも困っちゃう!」

「落ち着くんだ、ニコライ君。まずはお互い話し合おうじゃないか」

 この手の手合いはまずは柔らかな態度で様子を見るに限る。

 そのため三笠はやんわりとした口調に切り替え、子供をなだめるように両手を広げた。

 しかし、ニコライは激しく首を振る。

「それは駄目! 敵との交渉に応じちゃ駄目って命じられてるんだ!」

「ニコライ、離しなさい! これは命令よ!」

「だから駄目なんだってば! ボクはスワロフをちゃんと見ておけってサーシャに言われているんだ……言うこと聞かなかったらボクが怒られちゃう」

 ニコライはぶるぶると首を振り、スワロフの命令を拒絶する。


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