十六.
スワロフは、たった一人でかつての仲間達と決着をつけるつもりなのだろう。
「無茶だ……」
三笠はこめかみを押さえた。
出会った時、スワロフは傷だらけの状態だった。間一髪で三笠が助けに入らなければ、命さえも危うかったかもしれない。
なのに、一人でバルチックと戦うというのか。
『手出しは無用よ、三笠』――スワロフの言葉が頭にこだまする。
自分と彼女は、遠い存在だ。深入りするような仲ではなく、本来は敵対関係だった。そう考えて、三笠はボーリグラートの話をすることを拒んだ。
だから、三笠が関わる必要はない。実際、スワロフも三笠の介入を拒んだ。だから――。
「痛……」
消えたはずの爪痕が微かにうずき、三笠は胸元を押さえた。
キサマは、ワタシの標だったのよ――途端、昨夜の記憶が脳裏に蘇る。
「――馬鹿者が!」
悪態と共に、三笠は霧の中に飛び込んだ。視界が一面白く染まる中、まっすぐに前方を睨んで駆け抜ける。
やがてその目に、黒い影が映った。
「スワロフ!」
「なっ――! キサマ、どうして来たの!」
軽々と追いついた三笠に対し、スワロフが眉を吊り上げる。
「放っておけるわけがないだろう!」
「手出しは無用と言ったはずよ! これはワタシの問題なの!」
カッと頭に血が上った。その勢いと熱にまかせ、三笠は一際大きな声で怒鳴った。
「お前だけの話じゃない!」
「なっ――!」
三笠は数歩先で先で足を止め、スワロフを振り返った。
次に、何を言えば。衝動に任せて怒鳴ったものの、胸には戸惑いが満ちていた。
「この数日で……私達の間には確かな繋がりが出来たと思う」
「……今朝、言っていたことと違うわ」
「ああ、そうだな。――だが、すまないな。その言葉を今訂正したい」
三笠の謝罪に、スワロフはやや眉を寄せた。
その鋭いまなざしを正面から受け止めつつ、三笠はぎこちなく言葉を続ける。
「お前は先日……八島に襲われた私を助けた。そして昨夜は、私を叱ってくれたな」
「……あんな見苦しい姿は、忘れてほしいところね」
スワロフは表情を曇らせ、視線をそらした。
高いプライドを持つ彼女としては、涙を見せたというのは相当な恥なのだろう。




