十四.
繁華街の喧噪は夜が深まるにつれ、ますます華やかになっていった。
「夜間外出注意令が出ているはずなんだがな……」
昔ながらの遊郭の広告映像を流しているスクリーンを見上げ、三笠はぼやいた。
すると、背後を歩いていたスワロフがフンと鼻を鳴らす。
「注意しろと言うだけで、禁止されているわけではないわ。どんな時でも、むしろこんな時だからこそ遊びたい人間はいるのよ」
「だが――」
「ほら、電車来たわよ。急いで」
「むぅ……」
三笠はやや腑に落ちない思いで足を速めた。
ちょうど停車した路面電車に乗り込む。車内にはそれなりに乗客がいるが、革張りの座席にはまだいくらか空きがあった。
「そういえば、今日は敷島はどうしたのよ?」
隣の席に座り、スワロフはたずねた。
「ん……あぁ、午前中に連絡があった。急に大人数の予約が入ったらしくてな。今日は店を空けるわけにはいかないらしい」
「ワタシ達を巻き込んでおいて無責任なヤツね」
「そういうな。時間をもてあましている私と違って、あの人は元々忙しい身なんだ」
「フン、大方キサマは時間の使い方を知らないだけでしょう」
「……何故そう思うんだ?」
三笠は思わず聞き返した。
スワロフは僅かに顎をそらし、呆れたような目で三笠を見つめる。
「キサマの家を見れば誰だってわかるわ。まるで物がない。あっても軍とか、過去の作戦に関わるものばかり。大方仕事だけで生きていたんでしょう」
すぐに言い返そうとした。
だが言葉が浮かばない。生きる目的など、ずっと見失ったままだった。
三笠は逃げるように、窓に視線を向ける。
「……そう、だな」
おぼろげな月を雲が覆い隠しつつあった。




