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十三.
「違うわ。そっちも知りたいけど――サクラ、というのがキサマの本名なの?」
「ん……あぁ。一応な」
それはこの世に生まれた時、最初に授けられた名前だった。
三笠は小さく笑う。
「正直、その名前で呼ばれても反応しづらいんだ。『三笠』という名前で呼ばれることに、すっかり慣れてしまった」
「エカチェリーナ」
「……ん?」
ぽつりと聞こえた言葉に、三笠は振り返る。
「エカチェリーナ・ペトロヴナ・アレンスカヤ」
呪文のような言葉を歌うように言って、スワロフは三笠の元へと駆けだした。
そして戸惑う三笠に、青い瞳をちらと向ける。
「肝に銘じておきなさい。キサマを倒す女の名よ」
「そ、そうか」
ついっとスワロフは視線をそらすと、きびきびとした足取りで鳥居から出て行く。
取り残された三笠はしばらく呆然としていた。
「あ……あぁ、あいつの本名か。エカチェリーナというのか――言いにくいな」
それでも、名前を明かしてくれた。
三笠はなにやら不思議な満足感を感じつつ、スワロフを追って歩き出した。




