十二.
「……お前と私は違う。無理に比較する必要はない」
「そうは考えてくれない人もいるんですよ。あたしは先輩に比べれば、いてもいなくてもどっちでも良い存在なんです」
「お、おい……」
「っと、時間食っちまった。あたしらは警邏に戻ります」
香取はきびすを返した。その後ろから、慌てて二人の部下がついて行く。
三笠はとっさにその背中に呼びかけた。
「香取!」
香取は立ち止まり、三笠に視線を向けた。
なにを言えばいい? 逡巡しつつ、ぎこちなく口を開いた。
「お前は、かけがえのない存在だ。だからそう……自分を、投げるんじゃない」
香取はぴくりと眉を動かした。
しかしすぐに軍帽を目深に被ると、三笠に背を向ける。
三笠はやや苦々しい表情を浮かべ、足早に去っていく香取の姿を見つめた。
「……もっと、うまく言えたはずだ」
「そうね。でも、今更悔やんでも仕方が無いじゃない。それよりキサマ、さっきはよくもワタシの脇腹に肘を――!」
スワロフがぎりりと歯を噛み、睨み付けてくる。
三笠は額を押さえた。
「ここでお前がバルチックの総隊長だと明かしたら、よけいに香取が怪しがるだろう」
「ぐっ……しかし……」
「下手をすれば連邦に送還されるぞ。――それは、困るんじゃないか?」
三笠の言葉に、スワロフは沈黙した。
連邦――スヴェート血盟連邦。アリョール帝国崩壊後、革命派により建てられた国だ。建国より半年が経った今も、かつての帝制派を執拗に追っている。
「だから下手にバルチックの名前を出さない方が良い。わかるな?」
「……えぇ」
スワロフは仏頂面で、銀髪をいじくる。
三笠は「よし」とうなずくと、鳥居の方に向かって歩きだした。
「私達も帰ろう。妖魔に対する警戒を怠らないようにな」
「――ねぇ、聞きたいことがあるのだけど」
「ボーリグラートの事は答えない」
振り返らずに即答すると、背後でスワロフが舌打ちした。




