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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
四.二人のインペラートル
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十.

 スワロフは薄く笑って、顎を反らした。

「フ、詳しくて当然よ。何せ私はバル――ぐっ!」

「彼女はバルト海沿岸部から来た留学生だ。呪術について学んでいるから詳しいのさ」

 スワロフの脇腹を強く小突きつつ、三笠は早口で言った。

 警邏兵の女が感心したような声を出す。

「へー、外国ではマキナについても詳しく勉強するんですか」

「まぁ、基本秘密兵器扱いだからねぇ……そんなほいほい学べるモノじゃないけど」

 香取はなおも疑いの目をスワロフに向けている。

 そのスワロフから凄まじい殺意の視線を受けつつ、三笠は肩をすくめた。

「時代は変わるものだ――さて、我々はこれでお暇するよ」

「……あー、ちょっと待ってつかぁさい。朝日さんのことでお話が」

「っ!」

 歩き出そうとしていた三笠は、香取に視線を向けた。

 香取はポケットから手帳を取り出す。

「えーっと……あれ? いつの話だっけ?」

「大尉、一昨日の話です」

「ああ、そうだ。そうだった――えーっと一昨日、霊軍研究所にうちのバカが話を聞きに行ったんですわ」

 警邏兵の女の言葉にうなずきつつ、香取は手帳のあるページを開いた。

 三笠は眉をひそめる。

「霊軍研究所に、河内が……?」

「はい。んで朝日さん関連で色々調べてたら――例の、万魔の剣の資料が見つかったと」

「……あの、盗まれたという」

 これは、かなりまずい情報だ。三笠は背筋に冷や汗がにじむのを感じた。

 香取が意味ありげな視線を送ってくる。

「あのアホがどういう調べ方してるのかは知りませんし、信憑性なんかも怪しいとこですが……一応、お伝えしましたよ」

「た、大尉殿――さすがに河内少佐にそのような罵倒は……」

「うるせぇ。誰かが言ってやらなきゃあのクソガキは理解しないんだよ」

 おずおずと口を挟む警邏兵の男に対し、香取はうっとうしそうに首を振る。

 三笠は軽く頭を下げた。

「ありがとう、香取」

「礼なんざいいです。それよりしばらくは大人しくしててくださいよ」

「あぁ……善処するよ」

 三笠が微笑むと、香取は唇を尖らせた。

「頼みますよ。先輩の存在はある意味、この国の精神的な支柱なんですから。先輩になんかあったら一大事ですよ」

「いや、私は隠居の身だ。これからはお前達が神州の要となるべきだろう」

「……そりゃ、無理ですよ」

 香取の声音が一気に沈む。

 疲れ切ったように肩を落とす彼女に、三笠は目を見開いた。


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