九.
三笠の言葉に、香取は唇をへの字にした。
「大丈夫ですって。あたしら警邏隊もいつもよりも厳重に配備されてますし。それに結界楼の結界もどんどん改良されてます」
「だが、警邏隊は人員が足りていないんじゃないか?」
三笠が指摘すると、香取は思いきり視線をそらした。
「余計なお世話ですよう。――まぁ正直な話、猫の手も借りたいとこですが」
霊軍は霊能者を主体として構成されているため、陸海軍と比べても規模は小さい。
最近は機巧鬼道の発達により、霊能の弱いモノでも妖魔とある程度戦える武器なども作られている。だが、それでも戦力的には心許ない。
マキナが生み出されたのも、そうした背景からだった。
「ただまぁ、先輩にあんまり暴れられるとあたしの立つ瀬がないんですわ。そんなわけで、もうちょっと大人しくしてもらえませんかね」
「善処する。――そういえば、今日は河内はいないんだな」
「あー、あの野郎ですか? 非番ですわ。うらやましいを通り越して殺意がわきますわ」
香取はガリガリと首筋の鬼印を掻きながら、大きくため息をついた。
三笠は苦笑した。
「そう言ってやるな。彼女もなかなか頑張っているようじゃないか」
「そりゃ、ま……そうですけどね」
香取はやや表情を曇らせ、視線を泳がせた。
すると、側に控えていた警邏兵の男がおずおずと言った様子で口を開いた。
「大尉、こちらのお方は……?」
「あぁ、あたしの先輩さね。人間名は晴波桜さん。マキナとしての名前は三笠さん」
「なっ……こ、この方があの三笠殿ですか!?」
警邏兵の男が息を呑む。女の方も、口元を押さえて三笠のことを見た。
三笠はじろっと香取を睨む。
「……勝手に名前を明かすのはやめてくれ」
「可愛い部下に聞かれたら答えないといけないでしょ。それに同じ軍属だし、別に名前を明かしたところで不利益はないですし」
香取はひょうひょうとした顔で肩をすくめた。
そこで、スワロフが首をひねった。
「……神州でも、マキナの素性というのは伏せられているのかしら?」
「ん、あぁ。私も世間には顔を知られていないよ」
「バンバン顔を出すのは合衆国くらいじゃないですかね? なんかあっちじゃマキナはスタァ扱いで、映画とかにも出演できるらしいし」
香取がどこかうらやましそうにため息をつく。
「フン、あの粗野な開拓民どもには慎ましさがないわ。奴らは勘違いしているのよ。マキナは祖国の闇を振り払う影の宝剣であるべきものよ」
「んー? ……なんかずいぶんマキナに詳しいですね。何者です?」
香取はいぶかしげな視線をスワロフに向ける。




