八.
夜闇に、赤い灯火が浮かび上がっている。
煌びやかな繁華街の片隅に埋もれるようにして、その社はあった。ビルに挟まれるようにして色あせた鳥居と古びた社殿が建っている。
『商売繁盛』や『万福将来』などと書かれた大提灯の明かりに、一瞬影が横切った。
きぃいい――と甲高い声が響く。
しなやかな体を泳ぐようにくねらせ、イタチに似た妖魔が三笠めがけて迫る。
「行くぞ……ッ!」
抜刀――解き放たれた刃が灯火に赤く煌めいた。
直後、甲高い金属音が響く。火花と共に、鎌のかけらが闇に飛び散った。
「……ふぅ」
体勢を立て直すと、三笠は刀から軽く血を落とした。
直後、彼女の背後に妖魔の体が落ちる。頭から爪先まで真っ二つになっているにも関わらず、妖魔はギャアギャアと声を上げ、もがき続けている。
「さて、とどめとしよう」
三笠はその側に立つと、刀身にすうっと手を滑らせた。
青白い光がその軌跡に走る。
ぼうっと輝く切っ先を下に向けると、三笠は一息に妖魔の左半身を突き刺した。
核を貫いた確かな手応え。同時に刀身に込められていた微量の霊気がそこに流れ込み、切断された体が何度もけいれんを繰り返す。
最後に一際大きな震えが走った後で、妖魔の体はザラザラと灰と化していった。
「……よし」
「三笠!」
背後から名を呼ばれ、振り返った。
サーベルを肩に担いだスワロフが社殿の向こう側から出てくる。彼女は三笠を見、そして石畳の上で消滅しつつある妖魔の骸を見た。
「終わったの?」
「あぁ。そちらはどうだ?」
「フン、この通りよ」
スワロフは鼻を鳴らすと、サーベルを軽く振るった。
ガツンと音を立て、石畳の上に氷塊が転がる。完全に凍り付いたそれは三笠が倒した物と同じ、イタチ型の妖魔の頭だった。
「チョコマカとうるさかったわ。胴体を氷柱で貫いて、頭を落としてやった。核もちゃんと壊したから、すぐにこいつも消えるわ」
「よろしい。では――」
「あー……まぁた先輩らですか」
だるそうな声が響いた。
振り返ると、軍服姿の香取が呆れたような顔をして鳥居から入ってくる。その背後に、バタバタと男女二人の部下が続いた。
「香取か。早かったな」
「たまたま近くで警邏中だったモノで。――というか、まぁた無茶やってんですか」
じとっとした目で見つめてくる香取に、三笠は肩をすくめて見せた。
「最近妖魔が増えているようだからな。予備役として哨戒に当たっているんだ」
実際、妖魔の数は着実に増えていた。
結界楼のおかげもあってまださほど強力なモノは現われていないが、人々の間には不安が広がっている状態だ。高価な護符が飛ぶように売れているらしい。




