48/114
五.
背後にスワロフの視線を感じる。しかし一切振り返らないまま、自室へ戻った。)
ランプをつけ、姿見を覗いてみる。
「やれやれ……ずいぶん、好き勝手にやってくれたものだな」
三笠はため息をついた。
雪のような肌の上には無数の爪痕が刻まれ、赤い血を薄くにじませていた。三笠はその上に軽く指を滑らせ、そのきりきりとした痛みに顔をしかめた。
明日の朝には全て癒える傷だ。
だがその痛みは肌に留まらず、胸の奥深くにまで染み込んできているような気がした。
ため息をつき、三笠は布団の上に転がる。
天井を見上げていると、先ほどのスワロフの言葉が脳裏に蘇ってきた。
――キサマはワタシの標だったのよ……。
「――何故」
主を失い、バルチックという支柱を失い、スワロフは自分自身のことで精一杯なはず。
三笠を憎み続けていれば、気が楽だろうに。
まっすぐに睨んでくる潤んだ瞳を思い出し、三笠は顔を覆った。
「どうして、私なんかを追いかけるんだ……?」
弱々しい問いかけは誰にも答えられることはなく、薄闇の中に溶けた。




