表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
参.死人に口無し
43/114

二十四.

三笠はふと、首をかしげた。

「そういえば、今日は斬りかかってこなかったな」

「なんですって?」

 スワロフが足を止め、振り返る。

 刺すようなまなざしにやや辟易としつつ、三笠は言った。

「見ていて苛立つというわりには、今日は私に一度も刃を向けていないじゃないか。それどころか、さっきは私をかばった」

 八島に攻撃されたあのとき、スワロフは明らかに三笠を助けるために動いていた。

 そのことを指摘した瞬間、彼女は青い瞳をすっと細めた。

「……あら、刃を向けてほしいのかしら?」

 スワロフの声が一気に冷え込む。

 軽はずみな事を言ってしまったようだ。三笠はやや身構えた。

 スワロフの手がゆるりとサーベルの柄にかかり――そのまま、下ろされた。

「フン……」

 鼻を鳴らし、スワロフはそっぽを向く。

 やや拍子抜けした三笠は、何度も目を瞬かせた。

「どうした?」

「……今日は気が乗らないだけよ」

「いや、しかし」

「黙っててちょうだい。いちいち構わないで」

 スワロフはきびすを返した。

 三笠はやや呆気にとられ、夕闇の中を進んでいく彼女の背中を見つめた。

「……なんなんだ、一体」

 ため息をつき、三笠は空を見上げる。

 すると群青に染まりつつある空の片隅に、小さな光を見つけた。

「む……あれがアマツキツネ、かな」

 三笠は目をこらす。

 青白い光の塊が、彗星のように細い尾を引いている。まだかなり小さいが、もう少し日が経てばよりはっきりと見えるようになるだろう。

 あの霊獣が最接近する頃には、朝日は帰ってくるだろうか。――ふと、三笠は考えた。

「キサマ! 何をしているの! さっさと歩きなさい!」

「あ……あぁ、わかった」

 スワロフの怒声に三笠は我に返り、慌てて歩き出した。

 もう一度、アマツキツネを見上げる。

「……朝日姉さんとあれを見てみたいものだ」

 思えばもうずいぶん長い間、敷島型四人が一つの場所に集まったことはなかった。

 できれば四人であの霊獣を見上げたい。

 そう思いながら、三笠は苛立った様子で待っているスワロフの元に急いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ