十七.
「スワロフ……?」
「キサマ、よくも好き勝手にやってくれたものね」
スワロフはサーベルをまっすぐに八島に向け、鋭い口調で言い放った。
「コイツはワタシの獲物よ。三笠に刃をむけて良いのは――ワタシだけだッ!」
「チッ、何をわからんことを」
八島が舌打ちし、無造作に野太刀を薙ぎ払う。スワロフはそれに合わせ、八島めがけてサーベルを突き出した。
二つの刃が真っ向からぶつかりあおうとした瞬間――。
「――おしまいよ」
がちり、と。サーベルと野太刀が交錯する直前で、二つの腕によって止められる。
八島の顔が驚愕の色に染まった。
「なっ――!」
「ひっ……」
スワロフの顔がどんどん青ざめていく。
「な、なにこれ……なんなのよ!」
スワロフは悲鳴のような声を上げ、サーベルを引こうとした。
しかし腕は――白骨化した腕はサーベルを離そうとしない。金属的な光沢をもつそれは宙に浮かび、スワロフがどれだけ暴れても微動だにしなかった。
「……あらあら、そんなにおびえなくても良いじゃない」
「きゃっ――!」
スワロフの腰に細い手が這う。なんの前触れもなく現れた白髪の少女が、スワロフの体をぎゅうっと抱きしめた。
少女を見て、なんとか立ち上がった三笠は目を見開いた。
「は、初瀬……姉さん……」
「ごきげんよう、わたしのかわいい三笠。八島が迷惑かけたわね」
敷島型三番鬼――初瀬は幽かに笑った。
見た目は十代前半の少女にしか見えない。
肩に掛かるほどの白髪。愛らしい顔立ちで、病的なほど白い肌に唇の紅色が鮮やかだった。その左目は、ガーゼ状の眼帯によって隠されている。
フリルをたっぷりあしらったブラウス、スカートに華奢な体を包んでいた。
「は、初瀬……起きたのか」
白骨腕から野太刀を引き抜き、八島が息を呑む。
初瀬は赤い瞳を細めると、目に見えてうろたえた様子の彼女を見つめた。
「おかげさまでね……猿叫ってモーニングコールには最悪ね。目覚めは悪いわ」
「それはその……」
「ばかな八島。あなたがいないせいで、わたしは一人で着替えなきゃいけなかったのよ。これがどれだけの重労働か、わかる?」




