十四.
脇道に入ると、急に喧噪が遠のいた。左右には洋食屋や宝飾店が軒を連ね、小路全体に欧州の町並みのような雰囲気が漂っている。
「やべぇ、心配になってきた……初瀬、本当にいるのかぁ?」
「絶対にいる――よし、ついたな」
不安げな敷島に答えつつ、三笠は足を止めた。
目の前には、緑のツタに覆われた赤い煉瓦造りの建物があった。軒先には色ガラスをちりばめた角灯を提げていて、しゃれた雰囲気だ。
銅製の看板には『レゾンデートル』という店名が記されている。
「初瀬姉さん、私だ」
三笠は声をかけながら、開店の札がかかった扉を押し開けた。
ネックレスや人形など様々な雑貨を並べた陳列棚が無数にある。衣装棚やトルソーも置かれ、フリルをたっぷりと使ったワンピースなどが展示されていた。
「初瀬姉さん?」
「……おい、これいないんじゃねぇか?」
敷島が不安げに視線をさまよわせた。
一方のスワロフはつかつかと陳列台の一つに近づき、その中をのぞき込んだ。
「ボヘミアのガラス細工ね……魔除けの紋様が入ってる」
「あぁ、ここは呪術道具を主に扱う店なんだ――初瀬姉さん、いないのか?」
三笠はさらに声を張り上げつつ、店の奥へと進む。
カウンターの隣には、『関係者以外立ち入り禁止』のプレートのついたドアがある。この奥はバックヤードだけでなく、初瀬の住居にも通じている。
「初瀬ぇ! 姉ちゃんだぞ! お前の顔、去年の正月から一度も見てねぇんだけど!」
「……本当に嫌われてるのね、キサマ」
「うるせー! 黙ってろ!」
背後で敷島とスワロフががみがみと言い争っている。
三笠は『立ち入り禁止』のドアを開けた。
薄暗い倉庫だった。天井はやや高く、コンクリートの壁が寒々しい。商品の在庫を収めた棚が整然と並び、隅には空箱が雑然と積まれている。
左右と正面にドアがある。それぞれプレートが掲げられているが、はっきりと読めない。
三笠はひとまず明かりをつけようと、中に足を踏み入れた。




