十一.
「痛い痛い! やめてよ! か、香取! あんた部下なんだから助けて!」
「いやです」
「ひどいよこの部下!」
「それより説明しやがれ! なんでいきなり攻撃してきた!」
怒り心頭の敷島に対し、香取が「あー、それはあたしが」と手を上げた。
「見りゃわかりますよね。ちょっとさっき色々ゴタゴタがあったんで、非常配備されてるんですわ。それがちょっとアリョール人絡みだったもので」
「ゴタゴタ?」
「えぇ」」
香取はよっこいせっと立ち上がると、疲れたような目で河内を見下ろした。
「結界楼を破壊しようとした奴がいたんですわ」
「……マジかよ」
敷島は息を呑み、頭上高くそびえる結界楼を見上げた。
結界楼は都市から妖魔を遠ざけるだけでなく、他国の呪詛から国を守る防壁の役目も果たす。もし破壊されれば、神州は呪術に対し無防備になってしまう。
「機巧妖魔を二機連れたアリョール人が結界楼の門扉に攻撃しましてね」
「機巧妖魔、アリョール人……?」
スワロフが大きく目を見開いた。
三笠はそれをちらりと横目で見つつ、香取にたずねた。
「大事なかったのか?」
「まぁ、そんな簡単に壊されるような代物じゃありませんし、このあたりは神宮も近いことがあって巡回も厳しめですし。すぐに警邏兵が機巧妖魔を破壊しました」
「それでアリョール人はどうなったの!?」
「うおっととと」
興奮に頬を紅潮させたスワロフが、勢い込んで香取に詰め寄る。
香取はそれを手で制しつつ、首を振った。
「混乱の隙に首謀者は逃げ切りましたよ。追跡も振り切りました……ありゃなんか訓練積んでる奴ですわ。手際が良すぎる」
「……そう」
スワロフは肩を落とす。
香取は首筋の鬼印を掻きつつ、心底疲れ切った様子でため息をついた。
「アレのせいで河内さん、鬱憤たまってましてねぇ。それでさっき、お連れさんに襲いかかったわけですよ。まったく、アリョール人ってだけで襲うなんてバカですわ」
「……む、そうか」
何か小さな違和感を感じた。
首をかしげる三笠をよそに、敷島がぶすっとした顔で口を開いた。
「それもそうだが、二発目は思いっ切り三笠を狙ってただろ。……なんのつもりだ?」
敷島がバキッとげんこつを鳴らし、河内を見下ろす。
あの不可視の斬撃。河内は途中から明らかに三笠を認識した上で放っていた。
うぐぅ、と河内がうなった。
「だってロマンじゃない……崑崙戦争の英雄と戦うとかさぁ。私も香取も崑崙戦争後にマキナになったものだから、栄誉とかなんにもないもの」
「そ、そんなくだらねぇ理由かよ……」
「くだらないとか言わないで!」
河内が首をひねり、キッと睨みあげてきた。
普段は子供じみた言動が多いが、弩級マキナなだけあってそのまなざしは力強い。三笠はやや感心して、河内を見下ろした。
「私はせっかく神州初の弩級マキナとして改造されたのに……すぐに超弩級とかに追い抜かれちゃって。香取も【大襲来】の時は惨めに留守番してたんだよ?」
「……おれも留守番してたんだけど?」
皇国内で都市防衛を担っていた敷島がやや眉を吊り上げた。




