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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
参.死人に口無し
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十一.

「痛い痛い! やめてよ! か、香取! あんた部下なんだから助けて!」

「いやです」

「ひどいよこの部下!」

「それより説明しやがれ! なんでいきなり攻撃してきた!」

 怒り心頭の敷島に対し、香取が「あー、それはあたしが」と手を上げた。

「見りゃわかりますよね。ちょっとさっき色々ゴタゴタがあったんで、非常配備されてるんですわ。それがちょっとアリョール人絡みだったもので」

「ゴタゴタ?」

「えぇ」」

 香取はよっこいせっと立ち上がると、疲れたような目で河内を見下ろした。

「結界楼を破壊しようとした奴がいたんですわ」

「……マジかよ」

 敷島は息を呑み、頭上高くそびえる結界楼を見上げた。

 結界楼は都市から妖魔を遠ざけるだけでなく、他国の呪詛から国を守る防壁の役目も果たす。もし破壊されれば、神州は呪術に対し無防備になってしまう。

「機巧妖魔を二機連れたアリョール人が結界楼の門扉に攻撃しましてね」

「機巧妖魔、アリョール人……?」

 スワロフが大きく目を見開いた。

 三笠はそれをちらりと横目で見つつ、香取にたずねた。

「大事なかったのか?」

「まぁ、そんな簡単に壊されるような代物じゃありませんし、このあたりは神宮も近いことがあって巡回も厳しめですし。すぐに警邏兵が機巧妖魔を破壊しました」

「それでアリョール人はどうなったの!?」

「うおっととと」

 興奮に頬を紅潮させたスワロフが、勢い込んで香取に詰め寄る。

 香取はそれを手で制しつつ、首を振った。

「混乱の隙に首謀者は逃げ切りましたよ。追跡も振り切りました……ありゃなんか訓練積んでる奴ですわ。手際が良すぎる」

「……そう」

 スワロフは肩を落とす。

 香取は首筋の鬼印を掻きつつ、心底疲れ切った様子でため息をついた。

「アレのせいで河内さん、鬱憤たまってましてねぇ。それでさっき、お連れさんに襲いかかったわけですよ。まったく、アリョール人ってだけで襲うなんてバカですわ」

「……む、そうか」

 何か小さな違和感を感じた。

 首をかしげる三笠をよそに、敷島がぶすっとした顔で口を開いた。

「それもそうだが、二発目は思いっ切り三笠を狙ってただろ。……なんのつもりだ?」

 敷島がバキッとげんこつを鳴らし、河内を見下ろす。

 あの不可視の斬撃。河内は途中から明らかに三笠を認識した上で放っていた。

 うぐぅ、と河内がうなった。

「だってロマンじゃない……崑崙戦争の英雄と戦うとかさぁ。私も香取も崑崙戦争後にマキナになったものだから、栄誉とかなんにもないもの」

「そ、そんなくだらねぇ理由かよ……」

「くだらないとか言わないで!」

 河内が首をひねり、キッと睨みあげてきた。

 普段は子供じみた言動が多いが、弩級マキナなだけあってそのまなざしは力強い。三笠はやや感心して、河内を見下ろした。

「私はせっかく神州初の弩級マキナとして改造されたのに……すぐに超弩級とかに追い抜かれちゃって。香取も【大襲来】の時は惨めに留守番してたんだよ?」

「……おれも留守番してたんだけど?」

 皇国内で都市防衛を担っていた敷島がやや眉を吊り上げた。


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