表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
参.死人に口無し
29/114

十.

「おぉ、香取じゃねぇか! なんかひっさびさに顔見た気がする!」

「先週会ったでしょ敷島さん」

「……誰?」

 スワロフが眉をひそめた。

 香取は香取の姿を見ると、いぶかしげな様子で首をひねった。

「え、アリョール人? 三笠先輩の知り合いですかね?」

「知り合い? フ、そんな生やさしいものではないわね。私は三笠の――!」

「あー! バルチック見っけー!」

 突如、三笠達の背後から甲高い声が響いた。

 香取がハッと目を見開く。

「河内さ――ああ、くそッ!」

「なに? なんなの?」

「――ッ!」

 背筋に寒気が走った。三笠は反射的に混乱しているスワロフを強く突き飛ばす。

「きゃあっ! み、三笠、キサマこの――!」

 スワロフの悪態を無視して、三笠は刀を手に振り返った。

 その瞬間――風を切る音が響いた。

 ちょうどスワロフの立っていた位置を、見えないモノが一瞬で通り過ぎた。それは三笠の頬をかすめ、浅く切り裂いた。

 何かが自分を狙っていた事に気づいたのか、スワロフが目を見開く。

「三笠……?」

「ふん……じゃじゃ馬め」

 三笠は頬の血をぬぐい、鼻を鳴らす。

 視線の先で、凶暴な笑みを浮かべた河内がこちらに駆け寄ってきていた。

 魄炉を起動しているのか、瞳が紫色に輝いている。

「外れちゃったか! ならもう一発――!」

「――禁!」

 香取の鋭い叫びが響いた。

 瞬間――右手を振ろうとしていた河内の足に、淡く輝く鎖が蛇の如く巻き付いた。

「ぎぇ!?」

 河内が顔面から地面に転び、小さな悲鳴を上げた。

「……やれやれ」

 香取がほうっとため息をついた。

 その右手は人差し指と中指とを立てて刀印を結んでいた。指先には細い霊気の鎖が絡みつき、河内を捕縛しているモノを制御している。

「このクソボケが……話も聞かずに攻撃しないでくださいよ」

「ま、待って河内……上司にクソボケはダメだと思うよ」

「このアホが」

 香取と河内のやり取りを聞きつつ、三笠はスワロフの元に近づく。そして地面に座り込んだまま放心状態の彼女に対し、そっと手をさしのべた。

「大丈夫か? 突然の事で、少し乱暴に扱ってしまったが」

「えっ……」

「怪我はないか?」

 三笠がたずねると、スワロフは青い瞳を大きく見開いた。

 そして苦い表情を浮かべ、三笠の手を取った。

「……怪我は、ない」

「ならばよかった」

「……腕が鈍ったわ。反応が遅くなってる」

「それは仕方がない、まだ万全の状態じゃないんだ。それより河内――」

「お前このクソボケがっ! このっ! このっ!」

 三笠の言葉をかき消し、敷島の怒鳴り声が響いた。

 見れば、地面に転がったままの河内の頭を小突いていた。その隣には香取がしゃがみ、「もっとやってやってくださいよ」とにやにやと笑っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ