九.
翌日の正午。三笠達は原宿にいた。
和洋入り乱れた雑然とした町並みだ。すぐ近くには荘厳なたたずまいの石橋が見える。もう少し歩けば、皇国神宮の大鳥居と森が見えるだろう。
無数の朱色の楼閣がそびえている。都市を妖魔から護るべく立てられた結界楼だ。
「……なんか、心なしか物々しいぜ」
黒いシャツにカーゴパンツ姿の敷島が辺りをぐるりと見回す。
街のあちこちに軍刀を腰に帯びた霊軍軍人が立ち、行き交う人々に目を光らせている。特に結界楼周辺の警備はいつにもまして厳重だ。
ブラウスに黒のパンツと、洋装に身を包んだ三笠は眉をひそめた。
「……何かあったのか?」
「統一感のない町ね」
スワロフの声に三笠は振り返った。
そしてやや疲れを感じつつ、結界楼を見上げているスワロフの背中を見つめた。相変わらず、三笠のブラウスとパンツを着ている。
「……お前、頼むから大人しくしていてくれよ」
「フン、もう傷はほとんど治ったわ」
スワロフは振り返ると、やや得意げにあごを反らす。
三笠は額を押さえた。
「いや、まだ安静にするべきだ……機巧妖魔の傷は厄介だと知っているだろう?」
まがりなりにも妖魔であるため、機巧妖魔も瘴気をもつ。その瘴気に侵された人間は妖魔と化し、敵味方問わず襲いかかってくる。
マキナは自力で体内の瘴気を浄化できるが、それでも傷の治りは悪くなってしまう。
「機巧妖魔に襲われたのか? こいつ」
「あぁ。先日、神社でな」
目を見張る敷島に対し、三笠がうなずいた。
「マジかよ。この東京で機巧妖魔か。誰にけしかけられたんだ?」
「……キサマになんの関係があるというの?」
眉間にきつく皺を寄せ、スワロフは視線をそらした。
神社での出来事は、彼女にとっては苦い思い出のはずだ。恐らく彼女は、あの場所でバルチックの仲間達と決裂したはずなのだから。
空気を変えようと、三笠は口を開いた。
「――ともかく今からでも遅くはない。早く帰って、家で休んで――」
「問題ないわ」
顔にかかった銀髪を掻き上げ、スワロフは言い切った。
青い瞳がまっすぐに三笠を見つめる。
「置いていこうともムダよ。キサマが地の果てに行こうとも追いかけてやるわ」
「……そうか、わかった」
三笠はやや肩を落とした。
自分を憎む事でスワロフが落ち着くなら良いと思っていたものの、やはり気が重い。
「――あれ、先輩らじゃないですか」
聞き覚えのある声に三笠は振り返った。
クセのある茶髪をいじくりつつ、香取がそこに立っていた。以前にあったときよりも軍服をきっちりと着ているが、やや疲れた顔をしている。




