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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
参.死人に口無し
23/114

四.

 そこは、帝都でも有数の高級住宅街だった。

 おしゃれな洋館や重厚な作りの屋敷が並んでいる。どれにも立派な庭があり、さらには噴水やガス灯まで敷地内に置いている家もある。

「……ここが、朝日とやらの家?」

「そうだ」

 やや戸惑った様子のスワロフの声に、三笠が短く答える。

 クリーム色の壁に赤い屋根の、ぱっと見ただけではおしゃれな洋館に見える。しかし、その扉は無骨で重々しい鋼鉄製だ。

 さらに無数の危険を示すステッカーに埋め尽くされ、異様な雰囲気が漂っている。

「……爆発注意のステッカーがあるけど」

「あまり気にしなくていい」

 こそこそとスワロフと話す三笠をよそに、敷島が扉の脇の呼び鈴に手を伸ばした。

「さて、と……とりあえず、呼び鈴鳴らしてみるか」

「そうだな。戻ってきているかもしれないし」

 三笠がうなずくのを見ると、敷島はボタンを押した。

 大きなベルの音が響く。三笠達は固唾を飲んで、目の前のドアをじっと見つめた。

 しかし、開く様子はない。

「……もっかい鳴らしてみるぜ」

 敷島はさらに何度かベルを鳴らした。だが、やはりドアは開かなかった。

「……この状態が続いている、と」

「おう。おれはわりとよく朝日に会いに行くんだが、一週間ずっとこの調子だ。――そういや三笠、お前は最後に朝日にあったのはいつだ?」

「先月かな。私はだいたい、一ヶ月周期で点検を受けているから」

「点検? 魄炉の調子でも悪ぃのか?」

「いや……細かに見ておいた方が、良いと思ってな」

 三笠は言葉を濁した。

 まさか定期的に睡眠薬を処方してもらっている……などと言えるはずがない。そんなことを言えば敷島は心配するだろうし、スワロフも混乱するだろう。

「それよりどうするんだ? 今日はもう帰るのか?」

「いや、そういうわけにもいかねぇ。流石に心配だから、家ン中に入る」

 敷島はそう言うと、ポケットから水晶の角柱にも似た鍵を取り出した。内部には無数の幾何学的な模様が彫り込まれている。

 それを鍵穴に差し込むと、扉の内部で無数の機械が駆動する音が響いた。

 スワロフが息を呑む。

「なかなか複雑な作りのようね……」

「朝日姉さんは霊軍有数の技術士だ。この家も、姉さんが一から作っている」

 説明する三笠の前で、朝日邸の扉がゆっくりと開いていった。


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