四.
そこは、帝都でも有数の高級住宅街だった。
おしゃれな洋館や重厚な作りの屋敷が並んでいる。どれにも立派な庭があり、さらには噴水やガス灯まで敷地内に置いている家もある。
「……ここが、朝日とやらの家?」
「そうだ」
やや戸惑った様子のスワロフの声に、三笠が短く答える。
クリーム色の壁に赤い屋根の、ぱっと見ただけではおしゃれな洋館に見える。しかし、その扉は無骨で重々しい鋼鉄製だ。
さらに無数の危険を示すステッカーに埋め尽くされ、異様な雰囲気が漂っている。
「……爆発注意のステッカーがあるけど」
「あまり気にしなくていい」
こそこそとスワロフと話す三笠をよそに、敷島が扉の脇の呼び鈴に手を伸ばした。
「さて、と……とりあえず、呼び鈴鳴らしてみるか」
「そうだな。戻ってきているかもしれないし」
三笠がうなずくのを見ると、敷島はボタンを押した。
大きなベルの音が響く。三笠達は固唾を飲んで、目の前のドアをじっと見つめた。
しかし、開く様子はない。
「……もっかい鳴らしてみるぜ」
敷島はさらに何度かベルを鳴らした。だが、やはりドアは開かなかった。
「……この状態が続いている、と」
「おう。おれはわりとよく朝日に会いに行くんだが、一週間ずっとこの調子だ。――そういや三笠、お前は最後に朝日にあったのはいつだ?」
「先月かな。私はだいたい、一ヶ月周期で点検を受けているから」
「点検? 魄炉の調子でも悪ぃのか?」
「いや……細かに見ておいた方が、良いと思ってな」
三笠は言葉を濁した。
まさか定期的に睡眠薬を処方してもらっている……などと言えるはずがない。そんなことを言えば敷島は心配するだろうし、スワロフも混乱するだろう。
「それよりどうするんだ? 今日はもう帰るのか?」
「いや、そういうわけにもいかねぇ。流石に心配だから、家ン中に入る」
敷島はそう言うと、ポケットから水晶の角柱にも似た鍵を取り出した。内部には無数の幾何学的な模様が彫り込まれている。
それを鍵穴に差し込むと、扉の内部で無数の機械が駆動する音が響いた。
スワロフが息を呑む。
「なかなか複雑な作りのようね……」
「朝日姉さんは霊軍有数の技術士だ。この家も、姉さんが一から作っている」
説明する三笠の前で、朝日邸の扉がゆっくりと開いていった。




