三.
敷島はスワロフから視線をそらし、三笠の言葉に申し訳なさそうに手を合わせた。
「すまねぇな……おれが遅れちまったせいで」
「いや、構わない。それより、何故遅れたんだ?」
「あー……それが、夜に来てくれって言った理由だぜ」
言いながら、敷島は歩き出す。
三笠は背後のスワロフに注意を払いつつ、彼女の隣に並んだ。
「その理由、とは?」
「……妖魔に襲われてたヤツを助けてた」
その言葉に、三笠は息を呑んだ。
敷島は険しい表情で、軽く拳を握る。
「ニュースにもなってるだろ? 最近ホントに多いんだぜ……。ほとんど毎晩のように出てる。だから、おれは店のヤツらと一緒に見回りしてたりしてるんだ」
「妖魔が増えている……?」
三笠は昨夜、狒々のような姿をした妖魔に襲われたことを思い出した。あれも増加の影響で現れたものだろうか。
しかし、三笠の胸に一つの疑問が浮かび上がる。
「しかし……【大襲来】後は妖魔が激減するはずでは」
「おう、おれも朝日からその話を聞いたな。妖魔の出現ってのは一定の周期で激増したり、激減したりするもんだって」
「――単純な話じゃない」
背後のスワロフが冷ややかな声を発し、三笠達は振り返る。
彼女は腕を組み、つんと顎をそらした。
「摂理に従って減退期が終わり、また元の水準に戻りつつあるってことだわ」
「……イヤだな、それ」
敷島がげっそりとした顔になる。
「まぁ【大襲来】の時のような激増はないでしょう。ただ、少なくとも【大襲来】の前くらいのペースには戻るでしょうね」
「うえぇえ……」
呻きながら敷島は歩き出した。
しかし三笠はその場に立ち止まったまま、じっと考え込んでいた。
「――キサマ、何を考えている?」
「ん……」
顔を上げると、スワロフが立ち止まって三笠を見ていた。
いぶかしげに眉を吊り上げている彼女に対し、三笠は「いや」と首を振る。
「大したことじゃないよ」
「フン、嘘ね」
スワロフのまなざしは鋭い。
三笠は肩をすくめ、歩き出した。その何歩か後ろを、スワロフがついてくる。
「ちゃんと答えて。何を考えているの?」
「だから大したことじゃないよ。少し、疑問を感じただけで」
「疑問?」
「あぁ――最近の妖魔は、本当に摂理に従って増加しているのだろうかと」
「……フン」
スワロフは鼻を鳴らしたが、何も言わない。
だが恐らく、かつて彼女も何か違和感を感じているのだろう。
「さて、どうなのか……」
やや眉を寄せて、三笠は空を見上げた。
しばらくして、スワロフがおずおずとした様子で話しかけてきた。
「ねぇ、三笠。さっきの敷島の話……」
「答えることは何もない」
「……そう。今はそういうことにしてあげる」
スワロフのため息が聞こえた。
三笠はなにも言わず、じっと夜空をにらみつけていた。出雲の話では、その暗闇の向こうには六十年周期で回っている巨大な霊獣がいるという。
「……なにも、おかしな事はないと良いんだが」




