表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
弐.凍土の獣と炎の拳
17/114

九.

 敷島が帰って、いくらか時間が過ぎた。

 三笠は音もなくふすまを開けると、スワロフの部屋に入った。

 布団がこんもりと盛り上がり、ゆっくりと上下していた。どうやら、敷島と話している間にすっかり眠ってしまったらしい。

 しばらく様子を見ていたが、スワロフが起きる気配はない。

「よし……」

 小さく呟き、三笠は部屋の奥にある古いタンスの前に立った。

 引き出しの一つを開け、黒い服を取り出す。

 それは【大襲来】まで霊軍で使われていた、旧式の軍服だ。現行のものとの違いは、肩に金モールの装飾が施されていること。細部には赤い差し色が入っている。

 派手な見た目は、マキナとして妖魔の注意を引くためのものだ。

「久々、だな」

 三笠は複雑な表情で、軍服を見下ろした。

 予備役になって以降、この上着には一度も袖を通していなかった。

 あまり良い思い出はない。この軍服を着ていたときの記憶は、ほとんどが妖魔の影と同胞の血に占められている。

 三笠はやや唇をゆがめ、引き出しに軍服を戻そうとした。

 しかし、敷島の言葉を思い出す。

 霊軍軍服は非常に頑丈な作りだ。さらに個人の能力や性質に合わせて調整されている。何かと戦うなら、これ以上に適した服はないだろう。

「……仕方がない」

 三笠は物憂げに目を伏せると、軍服を腕に抱えて立ち上がった。

 もぞり、とかすかな音がした。

 三笠は息を呑み、再度スワロフの方を見た。

 スワロフはやや掛け布団をはだけた状態で、こちらに顔を向けていた。その両目は閉じられていて、呼吸も深い。

「……まぎらわしい」

 三笠は胸をなで下ろすと、足音を潜めてスワロフの方に近づいた。

 そして慎重に、布団を直してやる。スワロフはなにやら呟き、寝返りを打った。

 三笠はその様子をじっと見つめた。

「……書き置きでも残しておくか」

 宿敵とはいえ、さすがに何も言わずに一人で家に残しておくのは良くないだろう。

 スワロフを刺激しない文面に悩みつつ、三笠は出口に向かう。

 また、背後でスワロフが寝返りを打った気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ