表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
弐.凍土の獣と炎の拳
16/114

八.

「……辛気くせぇ話になっちまったな。悪ぃ」

 敷島の言葉に、三笠はハッと顔を上げた。

「い、いや、敷島姉さんは何も悪くない」

「いや、おれが変な話持ち出したからだ」

「敷島姉さん、そんな――」

「――はいっ、この話終わりっ! 辛気くさいのやめっ! 謝り合いもやめだっ!」

 敷島はパンッと手を鳴らして、何かをどけるような仕草をした。そして呆気にとられる三笠に対し、彼女はびしっと人差し指を立ててみせる。

「というか重大な話が一つあったんだぜ」

「あ、あぁ。そういえばそんなことを言っていたな。何があった?」

 三笠は我に返り、敷島に問いかけた。

 すると、敷島は難しい表情で腕を組む。

「朝日がいねぇんだよ。一週間前からずっと」

「……何かおかしいことでも?」

 三笠は反射的にそう返した。

 朝日――それは敷島型マキナの二番鬼で、次女にあたる存在だった。

 その名はいつも、大いなる混乱と共にある。

「あの人が急にいなくなるのはいつものことじゃないか」

「いや、今回はゼッタイになにかおかしい!」

 敷島は語気を強めて言い切った。

「なにがどうおかしいんだ?」

「職場になんの連絡もしてない。あいつはめちゃくちゃな奴だがな、仕事はちゃんとしてるんだよ。フラッと出かけるときも、毎回職場に連絡入れてるらしい」

「職場……たしか、朝日姉さんはまだ霊軍の研究所で働いていたな」

「そうだ。あいつは技術力を買われて残されたんだよ」

「ふむ……それで今回は職場に報告せずにいなくなった……と。間違いないのか?」

「あぁ。おれが確認とったが、一週間前から連絡とれてないらしいぜ」

「ふむ……だが、朝日姉さんならなぁ……」

「まぁ、疑うのも無理はねぇ。あいつは人格がだいぶアレだからな」

 考え込む三笠をよそに、敷島が渋い顔で頭を掻く。

「けど、今回は絶対になんかおかしい。なにかイヤな予感がするんだよ。……変なことに巻き込まれたんじゃねぇか、って」

「どちらかというと、あの人が変なことをしでかしていそうだが」

「……考えてみればそうだな。あいつって善人と悪人の狭間のギリギリのところにいるし」

 敷島が微妙な表情になる。

 三笠は首をかしげ、朝日のことを思い返してみた。

 あれは去年の夏だったろうか。朝日はこのちゃぶ台に突っ伏していた。

 はぁっと深々とため息を吐き、おもむろに三笠の方に顔を向ける。肩まで伸ばした茶髪がさらりと流れ、赤い瞳がけだるげに三笠を見つめた。

 薄紅の唇を開き、朝日はまたため息をつく。

『……はぁ、モルモットがほしい』

 その視線はしっかりと、三笠のことを捉えていた。

 急に背筋に寒気が走って、三笠は肩をさすった。見れば、敷島も同じようにしている。

「……どうする?」

「その、だな……朝日が心配、なんだよ、おれ……」

「私も……朝日姉さんが、なにもやらかしていないか心配だ……」

「あ、朝日を信じようぜ! おれは信じてる! あいつは良い子だ! ちょっと人間的にねじまがってるだけで、根は善良だと思う!」

 断定はできないらしい。三笠はぎこちない表情で笑ってからたずねた。

「それで、どうする?」

「今夜、朝日ん家に行ってみようと思ってる。一緒に来てくれねぇか?」

「夜に行くのか? なんなら今からでも――」

「――いや、夜の方が良いんだ」

 突然、敷島が笑みを消した。彼女は真剣な表情で、柱時計を確認する。

 ちょうど正午だ。同じように時間を確認し、三笠はすっと目を細める。

「……なにかあるのか?」

「ん、あぁ。あいつが夜型ってのもあるんだが……ちょっと、気になることがあってな」

 敷島は言葉を濁しつつゆっくりと立ち上がり、柱時計を指さす。

「そうだな……九時くらいに来てくれ。朝日ん家は知ってるだろ?」

「あぁ。あまり顔を出したことはないが」

「そうか、なら念のためラジオベルに地図を送っといてやるよ。――あと」

 敷島は人差し指を立てた。

 赤い瞳を細め、彼女は低い声でささやいた。

「念のため、武器を持ってこい。あと何があるかわからねぇから、昔の格好で来な」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ