五.
しばらくして、三笠は小さな土鍋を載せた盆を手にスワロフの部屋に戻った。
横たわったスワロフが、青い瞳を細める。
「……それは何?」
「玉子雑炊だ。神州での病人食と思ってくれていい」
三笠は慎重に布団の側に座ると、盆を置いた。猛獣の餌やりをしている気分だった。
スワロフはゆっくりと身を起こした。
険しいまなざしで三笠と、目の前に置かれた土鍋とを見比べる。
「そうか、毒ね! さすがは神州人、卑劣なまねをするわ!」
「……そんなわけがないだろう」
若干イラッとしてきたが、三笠は平静を装った。
スワロフはじっと三笠を睨んでいたが、やがてふいっと視線をそらした。
「……ふん、とりあえずいただくとするわ」
「安心して遠慮無く食え」
静かにさじを取り、スワロフは雑炊を口に運ぶ。上品な食べ方だった。
「どうだ?」
「味が薄いわ」
「病人にそんなくどいもの食わせられるか。がまんしろ」
「ヴォトカはないの?」
「ない。私は下戸だ」
ぴたりとスワロフが動きを止め、探るように三笠を見た。
「それはつまり、キサマの弱点と言うことね?」
「まぁ、そういえるな。飲んだらすぐに酔ってしまうんだ。飲めないわけじゃないが」
「フ、これでバルチックはまた勝利に近づいたわ」
「……そうか、よかったな」
勝ち誇ったように笑うスワロフ。
対して、三笠はもう答えることが面倒くさくなってきていた。
しかしふと、あることを思い出した。




