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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
弐.凍土の獣と炎の拳
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四.

「スワロフ、起きたのか――っと」

 ふすまを開けたところで凄まじい殺気を浴びせられた。

 三笠は一瞬首をすくめつつ、畳の上に転がっている宿敵の姿を見つめた。

「……大丈夫か? 余計な傷が増えたんじゃないか?」

「それがどうしたというの? ……くっ」

 白い寝巻を着たスワロフは呻きつつ、姿勢を正した。全身包帯と絆創膏にまみれだ。

「横になっていろ」

「うるさい。人外細胞の作用で、もうほとんど治っているわ」

 体内の魄炉によって、マキナの細胞はほとんどが人外のモノと化している。

 魄炉は霊力のエンジンであるだけでなく、人外細胞を維持する役割もある。そのためどれだけ傷を受けようと、魄炉さえ無事ならマキナは死なない。

 もっとも、回復能力にも限界はあるのだが。

 スワロフは体を起こしきり、三笠を射殺すような目で睨み付けた。

「キサマ、ワタシの剣をどうした?」

「片付けてある。別に今、必要なものじゃないだろう」

「……たしかに」

 初めて意見を肯定され、三笠は心の中で「おぉ」と感嘆の声を漏らした。

 スワロフがばっと立ち上がり、拳を構えた。

「キサマなど、ワタシの手で……うぅっ!」

「……やめておけ、傷が開くぞ」

 案の定、スワロフは右肩の傷を押さえて膝をつく。

 三笠は呆れつつ、とりあえず傷の具合を見てやろうとスワロフの元に近づいた。

「近づかないで!」

「落ち着け。自分の体の状態がわからないほど、アリョール軍人は愚鈍じゃないだろう」

「……くッ」

 流石にその言葉は応えたらしい。スワロフは唇をきつく噛み、うつむく。

 三笠はスワロフの隣に膝をついた。

「傷はどうだ?」

「……昨日よりは動ける」

「そのようだな。いちおうできうる限りで治療したが、アリョールのマキナについては私もわからないことが多い。何か特殊な治療は必要か?」

「……別に」

「食欲は?」

「……無いこともない」

「そうか。なら、とりあえず寝てろ。何か飯を作ってくるから」

「……屈辱だわ……ッ」

「そんなことを言っていても仕方がないだろう――そら、横になれ」

 ギリギリと歯をかみしめるスワロフを、三笠は慎重に布団に横たえてやる。

 怒りに燃える青い瞳がきつく睨みつけてきた。

「覚えていなさい、すぐにでもキサマを殺して――い、たぁあッ!」

「まったく、本当に話を聞かない奴だな!」

 三笠は頭を抱えつつ、ぴしゃっと叩きつけるようにしてふすまを閉じた。


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