表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
111/114

三十四.

「――ッ、この馬鹿!」

 突然の罵倒に三笠の思考は一気に現実へと戻ってきた。

 すぐ足下で、怒りに燃える青い瞳が自分を見上げていた。)

「ッ! スワロフ!」

 慌てて手をさしのべ、スワロフの体を引きあげる。コンクリートの地面へと這い上がったスワロフは大きく肩を上下させつつ、三笠を睨んだ。

「キサマは本当に独りよがりだわ……! なにか策があるなら言いなさい! こっちがどう動けば良いのかわからなくなる!」

「だが」

「なにもかも一人で出来るなんて思わないで」

 ふっと息を吐いたスワロフはゆっくりと立ち上がり、三笠に鋭い一瞥を投げかけた。

 その青い瞳には、もう怒りも殺意もない。

「なにもかも一人でやるなんて傲慢よ。ワタシにもやらせなさい」

「――ふ」

 三笠は思わず口元を押さえた。

 肩を細かく震わせて笑う三笠に、スワロフのまなじりが吊り上がる。

「キ、キサマ! なにがおかしい!」

「あぁ、いや……なんでもない。私は本当に恵まれている、と思ってな」

 三笠は微笑んだまま、緩く首を振った。

「ありがとう、スワロフ。――だが、これは私がやるよ」

「……ワタシはどうすればいい?」

「下がっていてくれ」

 じっと見つめてくるスワロフから視線をそらし、三笠は左足を引いた。

 刀を腰だめに構え、低い声で呟く。

「すぐに終わらせる。お前の手を煩わせるまでもない」

 スワロフは一瞬口を開きかけたが閉じ、黙って三笠の背後へと下がった。背中にスワロフの気配を感じつつ、三笠はふっと短く息を吐く。

 獣の声が響いた。狼の遠吠えにも似たそれが、びりびりと大気を震わせる。

 ずんっと肩に掛かる重みが増し、三笠は顔をしかめた。

「――あれか」

 雲の狭間に、アマツキツネの巨体が一瞬見えた。白く輝く体表に、無数の目玉に似た異形の模様が煌めいている。おおよそキツネには見えない姿だ。

 クジラのそれに似た巨大なヒレが激しくばたついている。

 宇宙をさまよう哀れな霊獣は、迫り来る地上から逃れようと必死で抗っていた。

「かわいそうに」

 三笠は目を伏せると刀を抜き、地面と水平に構えた。

【皇國興廃在此一戦】の銘に掌を滑らせ、風の音に消えそうな声で囁く。

「完全解放――魄炉、臨界」

 瞬間、三笠の体を漆黒の霊気が覆った。赤く輝く八重桜の鬼印が左肩から一気に全身へと広がり、ぼうっと鬼火のような輝きを漏らす。

 雲の流れが急激に乱れた。影と化した三笠から巻き上がる黒い風が曇天をかき乱し、鉄塔を薙ぎ倒そうとばかりに吹き荒れる。

 風は嵐を呼び、青い稲妻が走る黒雲から堰を切ったように雨が降り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ