表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
102/114

二十五.

「ちっ――」

 三笠は眉をしかめ、刀にいっそう力を込めた。

 よくよく目をこらすと、河内の周囲には無数の糸が蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。それらによって、三笠の刃は完全に止められていた。

「特攻機装を使いなよ、先輩」

 河内が薄く笑う。

 三笠は刀を手に後退し、鋭いまなざしで河内を睨んだ。

「【黒風】――超高密度の霊気を載せた黒い風を操る特攻鬼装だよね。高威力で、広範囲にまで影響を及ぼす大技。――まぁ、でも」

 河内は笑いながら、ゆっくりと両手を広げた。

 キリキリキリ――辺りで微かに響きだした異音に、スワロフが目を見開いた。

「何の音?」

 先ほどの攻撃と違って、霊気の流れは感じない。三笠は警戒を強め、刀を構える。

 その目に一瞬、ふわりと揺れる糸が見えた。

「え――?」

「私の【無明羂索】は、断ち切れない」

 河内の言葉が冷ややかに響いた。直後――視界が真紅に染まった。

「ぐ、あ、あぁ――!」

 幾百、幾千もの不可視の刃が三笠の体を切り刻む。その全身からまるで爆ぜたように血が噴き出し、床を赤く濡らしていった。

「三笠ッ!」

 スワロフの叫びが空気を震わせた。

 三笠は崩れ落ちた。ほどけた黒髪が血の池に広がり、露わになった肩を隠した。

「わからなかったでしょ?」

 河内はぴちゃぴちゃと濡れた床を踏んで歩き、三笠に近づいた。

 三笠は首を僅かに動かし、河内を睨みあげた。

「……なにをした」

「私の特攻鬼装――【無明羂索】だよ。正体は、超々極細の霊糸。あんまり細いから、先輩みたいに霊気に敏感な人でも感知できない」

 倒れ伏した三笠の側にしゃがみ込み、河内は小さく笑う。

 スワロフはさっと顔を紅潮させると、サーベルを手に襲いかかろうとした。

 しかし、その体はぴくりとも動かない。

「これは……くっ、霊糸ね! いつの間にッ……!」

「最初からだよ。全ての霊糸は私の指先によって操作される。……つまり、先輩達はこの階に入ってきた時点で私の手の中にいたってわけ」

「キサマッ……く、このッ!」

「下手に動くと手足がばらばらになっちゃうよ?」

 河内は冷ややかに笑うと手を伸ばし、床に広がる三笠の髪を掴んだ。

 そのまま頭を引きあげられ、三笠は呻いた。

「ぐっ……」

「降伏しなよ、先輩。――いや、三笠。そうしたら命だけは助けてあげるよ」

 紫の瞳を細め、河内は冷徹に言い放った。

 三笠はきつく眉を寄せる。

「……一つ聞きたいが、お前は本当にアマツキツネと戦えると思っているのか」

「戦えるよ」

 三笠の問いかけに河内は即答した。

 スワロフの舌打ちを背後に聞きつつ、三笠は緩く首を振る。

「無謀にもほどがある。あれほど巨大な霊獣を打ち倒せると本気で思っているのか? ――こんな事はもうやめるんだ」

「やだね。こうでもしないと、私はあんたに勝てないじゃん」

「そんなはずはない。魄炉の性能はお前の方が上だ。こんな無謀な真似をせずとも、お前が活躍できる場はいくらでもある。皇国臣民や自分の身を危険にさらす必要は――」

「……甘いね、三笠。こんな状況でも私の心配をするんだ」

 くつくつと河内は笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ