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天気晴朗ナレドモ水ノ月  作者: 伏見 七尾
五.振りさけみれば
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二十四.

「来ちゃったんだ、先輩」

「来ないはずがないだろう。……それが、万魔の剣だな?」

 三笠は河内の握る剣に目を向けた。

 長さはちょうど大人の腕ほど。柄には血のように赤い石が埋め込まれている。唐草紋様が彫り込まれた刃は、霊気によって怪しげな輝きを放っていた。

「そうだよ。綺麗でしょ?」

「……何故こんな事をしたんだ?」

 薄く微笑む河内に対し、三笠は苦々しい思いを抱きながらたずねた。

 剣を緩く振りながら、河内は肩をすくめた。

「わかるでしょ?」

「……大体は。だが、完全に理解できたわけではない」

「くすっ、先輩は天才肌だもんね」

 一房だけ紫に染めた髪をいじりながら、河内は笑う。

 しかし一瞬で表情を消し、うつむいた。

「私は……弩級には前弩級のような栄光も、超弩級のような未来もない」

 淡々と紡がれる言葉は、香取を思い起こさせた。

 だが、何かが違う。

「はじめは、鳴り物入りだったのよ。皇国初の弩級マキナ! 新たなる強さ! ……それが、なんだってこんな雑用係になってるんだろうね」

「都市の警邏は治安維持の要じゃない。キサマは何を――」

「私だって英雄になりたかった!」

 その瞬間、嫌な風を――微弱な霊気の流れを感じ取り、三笠はとっさに刀を構えた。幾筋もの何かが全く同時に襲いかかる。そのほとんどを感覚を頼りに弾く。

 だが、全てを防ぐことはできなかった。

「っぐ……!」

「三笠!」

 スワロフが切羽詰まったような声で叫ぶ。

 切り裂かれた右肩を押さえ、三笠は唇を引き結んで河内を睨む。

「私はこのまま埋もれるつもりはないよ」

 傷ついた三笠を前に、河内の表情は凍り付いた湖面のように冷ややかだった。

 河内は無造作に右手を振るう。再びかすかな霊気が動くのを感じ、三笠は脇に転がる。直後それまで三笠がいた場所に大量の線が刻み込まれた。

 間髪入れずに三笠は袖の下に仕込んだ鉄針を河内めがけて投げつけた。

 しかしそれはすぐに、見えない何かによって弾かれる。

「……厄介だな」

 恐らく、全て霊糸の攻撃だ。攻防一体の上、ほとんど見えない霊気の糸。

 三笠が唇を噛む間も、河内は淡々と言葉を続ける。

「例えば墜ちてくるアマツキツネを、たった一人の弩級マキナが迎撃した。……これって浪漫じゃない? まさしく英雄じゃないかな?」

「自作自演のためにこんな事をしたというの……キサマ、狂ってるわ!」

「……私は正気だよ、バルチック」

「ッ――! スワロフ、避けろ!」

 三度、霊気が動く。その流れがスワロフに向かうのを感じとり、三笠は叫んだ。

 スワロフは身を翻したものの、その脇腹から鮮血がほとばしった。

「あっ、く――!」

「スワロフ!」

「キ、サマ……! どうやって避けているのよ!」

 スワロフが苦痛に顔を歪め、膝をつく。傷は浅そうだが、動きに支障を来すだろう。

 河内は皮肉っぽく唇を釣り上げた。

「先輩達の分の脚本も用意してあるんだよ。――例えば悪に堕ちた英雄がバルチックの残党と組み、アマツキツネを墜とそうとしている……とか、なかなかイケてない?」

「……なるほど。そして、お前がそれを防ぐ新たなる英雄役か」

「そうそう! はじめ考えてたプランとは少し違うけど、けっこう浪漫でしょ?」

「……いいや、三文芝居だ」

 ぼそりと言って、三笠は地を蹴った。

 直後その体は一気に加速し、一瞬で河内の眼前に到達する。腰だめに構えた鞘から刀を抜き放ち、ハッと目を見開く河内めがけて叩き込む。

 河内は右掌をひらりと返した。

 ギシッ! 張り詰めたワイヤーに切りつけたような感触が手に伝わってくる。


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