第34話 キャンプしようと思っただけなのに、家とオートマタを手に入れてしまう
これで王都イストファンともお別れか。長いようで短い生活だったな。
俺は街並みを見つめながら感慨にふける。
俺を見送りに来る奇特な奴なんていないよな。
さよなら王都。
「レインさぁ~ん!」
街に背を向けた時だった。俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「レインさぁん! 待って~!」
あれは、ギルド受付嬢のサーシャさん。と、荒くれ者ども。
そこには息を切らせながら走るサーシャさんと、ザークやガランなどお馴染みの面々の姿があった。
「レインさん、黙って行っちゃわないでください!」
「そうですよ」
「水くさいですぜ」
皆が俺との別れを惜しんでいるだと!
前世では邪魔者扱いされたり、社会から存在しない者のように扱われてきたのに。
この世界でも悪役貴族として疎まれてきたのに。
まさか俺を見送りに来てくれる人がいたなんて。
「サーシャさん……」
「レインさん、私も連れて行ってください!」
「えっ?」
サーシャさんが俺の手を取った。
「あの、サーシャさんはギルド受付嬢の仕事がありますよね」
「レインさんと一緒なら、仕事を辞めてついて行きますよ」
「それはマズいでしょ」
「私、ギルド職員の資格を持ってますから。きっと役に立つと思うんです」
えっ、本気で一緒に行く気なのか?
俺なんかと一緒に行っても、苦労するだけなのに。
「ちょっと待ってください」
「待てません!」
「わ、分かりました。じゃあ手紙を出します」
「手紙?」
サーシャさんが首をかしげた。
「まだ行く場所も決まってないんですよ。定住先が決まってからでも遅くはないですよね」
「それでしたら……」
何とかサーシャさんが納得してくれた。
行く当てもないのに、仕事を辞められたら責任重大だからな。
「では、そういう訳で」
俺が背中を向けると、今度は何やら凄い勢いの足音が聞こえてきた。
ズダダダダダダダダダダダダダダダ!
「レイィィィィーン! 待ちなさいよぉおおおお!」
再び振り向くと、銀髪を振り乱しながら全力疾走する女の姿が見えた。
「あれはヴィクトリアじゃねーか。何やってんだ、あいつ」
ヴィクトリアは、もの凄い形相で駆け寄ると、俺の肩をガシッと強く掴んだ。
「レインの嘘つきぃいい! 結婚してくれるって言ったじゃない! 何で黙って出て行こうとしてるのよぉおお!」
「言ってねえ!」
美人顔を涙でグシャグシャにするヴィクトリアを、俺は必死に両手で遠ざける。
「結婚はお前が勝手に言ってるだけだろ」
「約束したでしょ! 試合で私が勝ったら結婚して、あなたが勝ったら結婚するって!」
「それ賭けになってねえ!」
本当に困った女だ。見た目だけは最高なのに。これが残念美人というやつか。
「ちょっと待ってください!」
俺とヴィクトリアを引きはがすように、サーシャさんが間に入ってきた。
「ちょっとヴィクトリアさん、レインさんが困ってるじゃないですか!」
「何よ、邪魔しないでよ」
「レインさんは私の……す、すす……すき……友人なんですよ。勝手なことは許しません」
「知らないわよ。私はレイン……旦那様しか見えてないのよ!」
サーシャさんとヴィクトリアが不毛な戦いをしている。
今のうちに出発しようか。
「行きましょう、リズさん」
「はい、レイン様」
俺たちは城門を出て、街道を進み始めた。
はずだったのだが……。
「レイン、そこの女は誰よ。専属メイドなんて聞いてないわよ。ま、まさか、エッチな命令をしてるんじゃないでしょうね!?」
どうしてこうなった。
ヴィクトリアがついてきたのだが。
サーシャさんまで行くと言い出したけど、さすがにギルドの仕事があるので止めたけど。
「申し遅れました、ヴィクトリア様。私はリズと申します。レイン様の充実なメイドです」
リズさんがヴィクトリアに向け伝統的挨拶をしている。ヴィクトリアは見た目が高貴だけど、実は一般人だぞ。
「変なことしてないでしょうね? 何でレインのメイドに?」
「レイン様の調教が忘れられず、こうして再び雇っていただきました」
「ちょぉっとレイン! どういうことよ! 私も調教しなさいよ!」
こっちがどういうことだよ。
娘の前で変態な話はやめてくれ。
◆ ◇ ◆
思うところあって、途中でバーベキューを楽しんだ湖畔に足を向けてみた。
他の街に行くには時間がかかるし、何処かで野宿をしかくてはならない。それに、焼けた森が心配なんだよな。
「あれっ、どうなってるんだ……」
湖畔に出たら、予想外の光景が広がっていた。サラマンダーに焼かれたはずの森が、何故か綺麗に整備されているのだ。
まだそんなに月日が経ってないにも関わらず。
「森が再生されています」
俺の横にきたエステルがつぶやいた。
「魔法によるものだろうか?」
「どうでしょう……。木を植えたというより、新たに作り替えたような……」
エステルが言うように、焼け焦げた森林は綺麗に撤去され、芝生や花壇が色鮮やかに整備されている。まるで庭園のようだ。
湖畔の一角には、建造物まである。
「まるで錬金術のようじゃな」
メテオラが胸を張る。物知りだと主張するように。
「錬金術?」
「うむ、この世のありふれた物質から、希少な物質を錬成するスキルじゃ」
「ドワーフが得意としているあれか」
「それじゃ。これほど大規模なものは、かなり高名な錬金術師によるものじゃろうが」
錬金術といえば、希少な金属を生み出したり、強力な武具を作ったりというイメージだけど、庭園を造るなんてありえるのだろうか。
もうそれは錬金というより創造魔法に近いような。
「これ、どうやって部屋に入るのかしら?」
リゼットが建造物の中を覗いている。どうやらドアを見つけたらしい。
「お菓子の家みたいですわね」
「わふっ、美味しいものあるかな?」
リゼットとシャルが家に入ろうとしている。
「おい、勝手に入ると危険だぞ。誰が建てたのかも分からないのに」
「きっと私とレインの結婚を祝して建ててくれたのね」
ヴィクトリアが何か言っているがスルーだ。
「ここに魔法陣がありますわね」
リゼットの見つめる先には、ドアに書かれた小さな魔法陣がある。
俺は顔を近づけてみた。
「何だこれは。この魔法陣に手を当てると鍵が開く仕組みかもしれないな」
「当ててみたの」
シャルが手をかざしてしまった。
「おい、危ないぞ」
「わふっ?」
シャルの手を掴んで離そうとしたその時、魔法陣が光り始めた。
ギュイーン!
『パスワードを入力してください』
「きゃっ!」
「しゃべったの!」
ドアから音声が出て、リゼットとシャルが飛びのいた。
「何だこれは。魔法の扉なのか? パスワードを入力するとドアが開く仕組みのようだな」
明らかに怪しい。数日で建築した技術も不思議だが、パスワードを必要とする魔法の家など、普通の人間が作ったとは考えられないぞ。
「パスワードはきっと、お父様の名前ですわね」
「そんな訳あるか」
リゼットにツッコミを入れてしまった。
まさか俺の名前で開くはずがないだろ。
「レイン・スタッド」
『パスワード照合、自動迎撃システム解除、入り口を開放します』
そんなバカな!
本当に俺の名前でドアが開きやがった!
「お父様が建てたんですの?」
「俺じゃねえぞ」
「やるじゃない! 私と旦那様のスイートホームね」
「ヴィクトリア、ちょっと黙っててくれ」
俺に寄り掛かるヴィクトリアに、リゼットが切れそうになっている。
「ちょっとあなた! わたくしのお父様に色目を使わないでくださいまし!」
「聖女ちゃんこそレインの娘でしょ。つまり私の義娘よね?」
「義娘にはなりません! わたくしは、お父様と結婚するのですわ!」
おーい、どっちも結婚しないぞ……。
「先ずは俺が様子を見るよ」
俺はゆっくりと家に足を踏み入れた。
娘に危険なことをさせられないからな。
ガタッ!
「生体識別コード確認、照合、対象をレイン・スタッドと認識しました」
「うわっ!」
突然現れた不審な影に、俺は戦闘態勢を取りつつ距離を置いた。
「誰だ!」
「私は高知能自立防衛型自動人形、アハツェーンです」
「は?」
その人影は、人間ではなかった。
顔の造りは十分に美人だが、目は人形のように感情を感じない。額には『18』と数字が書かれている。
姿かたちこそ女性に見えるが、メイド服から覗く手は、機械のような関節だ。
「自動人形だと……。こんな精巧な。信じられない」
この世界にこんなオーバーテクノロジーな自動人形が存在するなんて。まるでオーパーツだ。
元ゲームの世界には、こんなキャラは居なかったはず。
「アハツェーンとかいったか。何で俺を知っているんだ?」
「私は偉大なるマスターに造られました。その際、マスターであるモグミ様と、もう一人、レイン様に仕えるよう設計されております」
意味が分からない。
王都を追放され、湖畔でキャンプをしようと思っただけなのに、何故か家と自動人形を手に入れてしまったのだが。




