第33話 もう遅い
俺たちは、王城で開かれた裁判のようなものに出廷させられていた。
石造りの巨大な広間。立ち並ぶ騎士や兵士たち。手枷こそされてないが、弁護人もおらず、俺と娘たちは立たされたままだ。
「被告人レイン・スタッドよ、貴様は魔族と通じて国家の転覆を謀った嫌疑がかけられている。素直に真実のみ語るのだ」
オズワルド陛下の前に立つ騎士団長みたいな奴が、声高らかに言い放った。
だから俺は何も知らないのに。
「疑惑その一、レイン・スタッドは、魔族の幹部と度々密会を重ねていたのは事実か?」
「事実かと言われれば事実だけど」
俺の返答で、広間内がざわついた。
「つまり罪を認めるのだな?」
「罪? 俺……じゃなくて、私は何も知りませんよ。相手が勝手に会いに来ただけです」
「どういうことだ?」
「私を仲間にしたいとか、協力しろとか言われました。もちろん断りましたけど」
また広間内がざわつく。
「魔族は貴様を引き入れようとしているのか?」
そんなの魔族に聞いてくれよ!
「知りませんよ。そもそも七魔大公ラプラスは、王覧試合に出場してましたよ。闘技場で会ったのが初めてです。そもそも魔族幹部を王都に侵入させ、なおかつ王の御前試合にまで出場させるってのが問題なのでは?」
ザワザワザワザワザワ――
俺の発言で、空気が一気に張り詰めた。
「ま、まさか、魔族幹部が王都に入り込んでいたのか!」
「国王の御前にまでだと……」
「これは由々しき事態ですぞ」
「警備はどうなっておるのだ」
「なぜ誰も気づかなかった」
あれ? 大問題になってるような?
言っちゃマズかったか?
「魔族幹部の件は、一旦不問とする。次の疑惑だ」
騎士団長は、気まずそうな顔で口を開いた。
「続いて疑惑その二、魔族と共謀し、国家転覆を謀った件だ!」
「だからそれは断りました」
「ぐぬぬ」
騎士団長が、苦虫を嚙み潰したような顔になった。
だから何度も同じ話をするんじゃねえよ!
「さ、最後に重要な件だ。疑惑その三、レイン・スタッド、なぜ貴様は魔族の子供を匿っておるのだ!?」
騎士団長がメテオラを指差した。
帽子でツノを隠してはいるが、魔族特有であるネコのような縦長の瞳は誤魔化せない。
「なぜって言われましても、この子は私の娘です」
「まさか、天帝の種共有協定の子か?」
「そうです」
ザワザワザワザワザワ――
「魔族の子を育てるとか背信行為ではないか!」
「それを言うのなら異種族の子もだ。いつ敵に寝返るのかも」
「異種族の子は追放すべし」
また場内がざわつきやがった。
俺の娘を悪く言うんじゃねえ! 腹が立つな!
「他の子も全て俺の娘です。国や種族の都合で、子供を兵器や道具にしようとしたのかもしれませんがね。思ってた効果がなかったとか、利用できないからって、追い出したりするのはどうなんですか。全て俺の大切な子供です。俺が育てるのに何も問題はないはずですよね。誰にも渡すつもりはない」
俺がそう言い切ったら、騎士団長が気色ばんだ。
「なっ! なんだと! 貴様はそれでも元男爵家の人間であろう! 国家に忠誠を尽くす貴族でありながら、国の政策に歯向かうとは何事か!」
「もう私は貴族じゃありません。ただの冒険者です」
「よさぬか」
騎士団長が掴みかかろうとしたところで、オズワルド陛下が制した。
「レイン・スタッドよ、そなたは王覧試合優勝という輝かしい成績を残した戦士である。もし魔族や異種族の子を引き渡すのなら、再び貴族の位と褒章を与えよう」
「謹んでお断りいたします」
ザワザワザワ――
「何だと!」
「無礼者!」
「陛下に対して何だその態度は!」
お断りしたら場内からブーイングが飛んだ。
「わたくしもお断りですわ!」
その時、俺の横で控えていたリゼットが前に出た。
「ここに居るメテオラは、わたくしの妹ですのよ! エステルもシャルも! 姉妹を引き渡すなどできませんわ!」
王の御前でリゼットが言い放ち、メテオラがハッと顔を上げた。
「リゼット、おぬし……」
「メテオラさんは、わたくしのプリンを食べたりと生意気ですが、妹には違いないですわ」
「こら、それはもう許されたのではないのか! あと、わらわが姉じゃぞ」
まだプリンの件で揉めているけど、二人の仲も深まっているようだ。お互いを姉妹と認めている。
ただ、リゼットが出たことで、騎士団長は困惑の表情を浮かべた。
「リゼット様! 貴女は聖女見習いですよね。大聖堂に戻ってください」
「嫌ですわ」
「嫌と申されましても……。教会を私物化していたギムネムは排除いたしました。もう心配はいりませぬ」
「嫌ですわ」
リゼットは、にべもなく断った。
これには騎士団長も肩を落とし、オズワルド陛下は溜め息をついた。
「ふうっ、もうよい。レイン、そなたには失望した。王覧試合優勝者ということもあり、せっかく目をかけてやろうと申しておるのに」
オズワルド陛下の目に失望の色が浮かぶ。
これはしくじったか。明らかに俺を断罪する流れだろ。
「レイン・スタッドよ! そなたを王都追放とする! 速やかに荷物を纏めて出てゆくがよい! これはかなり譲歩した処分である」
堅牢な造りの広間に、オズワルド陛下の声が響いた。
「お待ちください、父上!」
ここで王の横に控えていたエドガー王子が立ち上がった。王位継承権一位の次期国王だ。
「父上、それはあまりにも酷い仕打ち。レイン殿は王国最強の戦士であり、天啓のスキルを持った人物ですぞ」
「もう決めたことだ」
エドガー王子が詰め寄るも、オズワルド陛下の下知は変わらない。
「世界最強のスキルと噂された天帝の種であったが、さしたる成果も出せなかったと聞く。伝説はただの噂だったようだ」
「陛下!」
「その男が魔族の子供を庇うというのなら、いつ裏切るか分からぬではないか」
「しかし……。後に大きな国家の損失となるやもしれませぬぞ」
「くどい、追放は変わらぬ! それより魔族の侵入に対応するよう、警備を強化するのだ」
こうして、俺たちは王都を追放になってしまった。
◆ ◇ ◆
自宅に戻った俺たちは、引っ越しの準備を進めていた。
先日引っ越したばかりなのに、もう二回目の引っ越しとは。
「さて、何処に行こうか」
鞄に服を押し込みながら、ふとつぶやいてみた。
幸いにも金貨とレア素材はたんまり有る。当分の生活には困らないだろう。
問題は住む場所だが。
近くの街に引っ越すのか、それとも農地でも開拓するのか。
まあ、元ゲームのバッドエンド、『ゴブリンの苗床』と比べたら天国みたいなもんだ。
むしろ、しがらみから解放されて清々したぜ。
「すみません、お父さん。私たちのせいで……」
エステルがしょげた顔をしていた。
「エステル、お前らのせいじゃないぞ。魔族とか異種族とかどうでもいい。気にするな」
「シャルはパパと一緒なら、どこでも良いの!」
シャルは元気そうだ。むしろ、王都追放を冒険みたいに楽しんでいる。
「ふん、やはり父上は凄いのじゃ。わらわを売ることなく、王にもキッパリ言い切ったのじゃ」
「そうですわ! お父様は素晴らしいのです。わたくしもスッキリしましたわ」
メテオラとリゼットが俺を褒めている。何だかくすぐったい。
そこに家財道具をまとめたリズさんがやってきた。
「レイン様、調理器具をまとめました」
「ありがとうございます。リズさん、これを」
俺はリズさんに金貨の入った袋を手渡した。
「これは?」
「退職金です。短い間でしたが、ありがとうございました」
「えっ?」
リズさんは首をかしげる。
「私も一緒に行きますよ」
「ええっ! リズさんまで追放される必要はないですよ。この金で新たな職場を見つけてください」
「いいえ、私も行きます」
リズさんの考えは変わらない。
「せっかくレイン様と再会できましたのに。まだまだお世話をさせていただきますよ」
「リズさん……」
「お嬢様方とも仲良くなれましたし。それに、まだレイン様に調教していただいておりません」
「それは勘弁してください」
せっかく良い感じだったのに、リズさんってば。
「分かりました。一緒に行きましょう。でも、どうなるか分かりませんよ」
「はい、デンジャラスなレイン様には、私のようなメイドが必要なんですよ」
「誰がデンジャラスやねん」
まあ、リズさんがいれば何かと助かるけど。
「とりあえず行くか。何とかなるだろ」
「何とかどころか何でもできそうじゃな」
メテオラが口を挟んできた。
「ん? どういうことだ、メテオラ」
「気づいておらんのか? 先日の戦闘で分かったのじゃが、父上の娘は皆最強クラスの強さじゃぞ」
「は?」
「一人一人が七魔大公にも引けを取らぬレベルじゃ」
「はは、まさかな」
「たく、父上め。何でアドラメレクが引いたのか、分かっておらぬようじゃ」
まだメテオラが何か言っているが、まさか最強なんてことはないよな。
こうして、六人になった俺たちは、王都を出発するべく城門へと向かった。
俺たちの新しい門出だ。
不思議と不安はない。娘と一緒なら何処でも大丈夫だ。
前世では得られなかった、俺の家族と一緒だから。
◆ ◇ ◆
これで王都イストファンともお別れか。長いようで短い生活だったな。
俺は街並みを見つめながら感慨にふける。
見送りに来る奇特な奴なんて居ないよな。
さよなら王都。
「レインさぁ~ん!」
街に背を向けた時だった。俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「レインさぁん! 黙って行っちゃわないでください!」
あれは、ギルド受付嬢のサーシャさん。と、荒くれ者ども。
そこには息を切らせながら走るサーシャさんと、ザークやガランなどお馴染みの面々の姿があった。
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