第31話 悪党どもの末路1
レインと娘たちが自宅でのんびりしている頃、イザリル王国中枢はパニックになっていた。
事もあろうに、王国の教会を束ねる大主教ギムネムの醜聞が白日の下に晒されたのだ。
しかも、幼い子供を奴隷とし暴力を振るっていた非道極まりないものから、詐欺行為や横領に至るまで。
以前から教会の醜聞が噂になっていたこともあり、国民の不満は頂点に達していた。庶民は貧しい暮らしの中から税金を納めているのに、貴族や聖職者など上流階級は、公金を盗み乱痴気騒ぎなのかと。
国民の怒りを重く見たイザリル王オズワルドは、大司教ギムネムを捕らえ、直々に尋問を行うことにしたのだった。
「ギムネムよ、何か申し開きはあるか!?」
玉座に座ったオズワルドが、手枷をはめられているギムネムを問いただす。白髪交じりの髪を逆立て、険しい顔を怒りで染めながら。
対するギムネムは、醜く歪んだ顔に精いっぱいの媚びた表情を作り、猫なで声で話し始める。
「め、めっそうもない。噂は誤解でございます。あれは奴隷市場の調査監督をしていたまで。そのついでに、女子供の具合を確かめていたのでございますよ。ほれ、ちゃんと夜伽に使えるかどうか」
余りにも身勝手な釈明に、オズワルドは顔をしかめた。不快極まりないといった感じに。
ギムネムがいくら言い逃れしようとも、すでに調べはついているのだ。
先日、ギムネムの屋敷に捜査が入り、傷だらけの子供が何名も保護されていた。中にはおぞましい虐待を受けた者まで。
奴隷売買自体は公然と行われているのだが、清廉潔白を掲げる聖職者がやるのでは訳が違う。同時にアモリス聖教会自体が犯罪の温床になっていたこともあり、大規模な綱紀粛正が必要となったのである。
「ぐへぐへ、やはり子供の叫び声は最高でありますなぁ。痛くしてやると泣き叫びましてな。これが最高の美酒となりまして。陛下にも若い娘を献上いたします。どうか、ここは穏便に」
まだ喋り続けているギムネムに、オズワルドの我慢も限界のようだ。みるみるうちに怒りで顔が紅潮していく。
「もうよい! そなたは教会の印象だけでなく国家の威信まで傷つけた。この者を地下牢に入れておけ」
オズワルドの宣言で、顔色が変わったのがギムネムである。
「なっ! お、おお、お待ちください、陛下! それはあまりにもご無体な!」
「もうよいと言ったはずだ! これ以上の尋問は無駄である!」
「陛下! よろしいのですか? この国で陛下が権力を持てるのも、我ら教会の後ろ盾があってこそでありますぞ! ワシを敵に回して、玉座が安泰でいられますかな。グヘヘ」
このギムネムの発言に、オズワルドの我慢も限界に達した。
「無礼者! こ奴を終身刑にせよ! 二度と陽の当たる場所に出すでないぞ!」
「「「ははぁ!」」」
オズワルドの命令で、兵士がギムネムを抱えて引きずって行く。
なおもギムネムは喋り続けるのだが。
「陛下! 陛下ぁああ! これは冤罪ですぞ! ワシは奴隷市場の調査をしただけ! 下級国民は、上級国民の肥やしとなるべきなのです! 陛下ぁああああ!」
必死に抵抗を試みるギムネム。ついには広間から引きずり出されそうになる。
しかし最後の抵抗で、苦し紛れの一言を発した。
「あああぁ! そ、そうだ! レイン・スタッドですぞ! あの者が全ての元凶なのだ! あの者の側に魔族の子供がおった! しかも魔王のように強力な魔法を使っておったのだ! レインは裏切り者だ! 魔族を使って国を乗っ取る気でありますぞ! 陛下ぁああああ!」
バタンッ!
煩わしい男が連行され、大広間に静寂が訪れる。
ただ、オズワルドは、ギムネムの発した最後の言葉が気になっていた。
「レイン・スタッド……王覧試合優勝者の? 恐るべき強さであったな。ふむ、天帝の種の男か。魔族の子供だと……。もしや……いやまさか」
オズワルドの脳裏に、ほんの微かな疑念が浮かんだ。
圧倒的な強さを持つ男が、あらゆる種族を束ね、国に反旗を翻すのではないかと。
苦し紛れに放ったギムネムの言葉だったが、後に面倒事となってレインに降りかかるとは、誰も知る由もなかった。
◆ ◇ ◆
一方、サラマンダーに跳ね飛ばされ大怪我をしたジャスティン・ベックフォードだったが、病院のベッドでぐだぐだと管を巻いていた。
「ええぇい、腹が立つ! なぜ正義の俺が、こんな目に遭わねばならぬのだ! おのれレイン・スタッドめ!」
レインに全く非は無いのだが、今日も今日とて悪いのは他人のせいだ。
「サラマンダーを使って俺を襲わせるとは、許しがたき蛮行だ! あの悪党レインめぇええ!」
そもそもサラマンダーを使ったのはギムネムであり、レインは全く関係ない。
「レイン・スタッドめ、学生の頃からムカつく男だった。俺が奴の悪評を流して、学院に居場所を無くしてやったというのに……。それなのに奴は、俺を卑怯な手で殴りやがって。あれは不意打ちだぞ」
正々堂々と一騎打ちのはずなのに、不意打ちとはこれ如何に。しかも自分が毒を盛ったのも忘れているのか。
「そして王覧試合の件だ! 俺が正々堂々と毒を盛ってやったというのに、奴は娘を使って俺の作戦をバラしたばかりか、また不意打ちで俺を殴りやがって!」
ジャスティンは怒りに震える。
「あの聖女見習いの娘を手に入れて、俺がグチャグチャにしてやるつもりだったのに! 尽く俺の邪魔をしやがって、あの悪党レインめぇええええ!」
もはや意味が分からない。正義を標榜する者は、時にその正義が暴走し、多くの過ちを犯すものなのだろう。
それは歴史が証明している。
そう、このジャスティン・ベックフォードも。
しかし、その正義の標榜者にも、遂に終焉の時が近づいていた。
バタンッ!
「元近衛軍聖騎士団長ジャスティン・ベックフォード、貴様を逮捕する!」
突然、ドアを開け入ってきた兵士に、ジャスティンは気色ばむ。
「なっ、何だ貴様たちは! 俺は聖騎士団長だぞ! 貴様らとは格が違うんだ!」
しかし兵士は一歩も引かない。
「ジャスティン・ベックフォード、貴様の称号は剥奪された! 今はただの平民だ!」
「なああっ!」
ジャスティンは愕然とした。何かを喋ろうとするも、言葉が出ない。
「国王陛下からの正式なお達しだ。ジャスティン、貴様は元大司教ギムネムと共謀し、違法な転移魔法によるダンジョン及び森林の破壊。更に、教会と騎士団の私物化。更に、聖女見習いリゼット様を手に入れんがため、王覧試合関係者に毒を盛った罪、その実行犯を殺害した容疑がかけられている!」
罪状を読み上げられ、ジャスティンは茫然自失だ。
「これらの罪により、全ての称号を剥奪し、罪人としてひっ捕らえよとのことだ! 神妙にお縄につけ!」
「あ、あああぁ! ああああぁああああああぁ!」
手枷をはめられたジャスティンが連行されていく。
落ちるところまで落ちたのだ。
己の自己中心的な正義と陰謀で聖騎士団長まで上り詰めた男は、一瞬で最下層まで転落した。
まさに自業自得だろう。
「嫌だぁああああああああ! 俺は正義の使者だぞ! 他人がやれば犯罪でも、俺がやれば正義のはずなんだ! こんなのはおかしいじゃないか! ああああぁあああああぁ!」
最後まで反省もせず、ジャスティンは引きずられていく。己の正義を信じたまま。
他人がやったら不倫、自分がやったらロマンスとでも言いたいのか。
こうして、レインに敵対していた者どもは、勝手に自滅した。
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