第30話 我が娘ながら恐ろしい
「グギャアアアアアアアアアアアー!」
横っ面に氷の槍を受けたサラマンダーは、苦し紛れに炎を明後日の方向に吐いた。
「おおっ! 本当に氷系の魔法が仕えたのじゃ!」
俺たちの前に降り立ったのは、先ほどまでとは違い、自信に満ち溢れたメテオラだった。
これにはリゼットも信じられないといった顔をしている。
「メテオラさん、あなた……」
「勘違いするでない! お前を助けたのではないぞ。そこの男を助けたのじゃ」
そしてメテオラは俺を見つめる。
「おぬしの言う通りにしたら魔法が使えたのじゃ。おぬしは役に立つからな」
「おぬしじゃないだろ、メテオラ。お父さんだぞ」
「なっ、そんな恥ずかしいセリフは言えぬのじゃ」
恥ずかしそうに顔を背けるメテオラに、俺とリゼットは首をすくめる。
「素直じゃありませんわね」
「ああ、素直じゃないな」
「何じゃと!」
前より良い感じになった気がするが、今はゆっくりしている場合じゃない。先ずは目の前のサラマンダーを何とかしないと。
「リゼット、俺の背中に乗るんだ」
「は、はいですわ」
素直に乗ったリゼットを背負うと、俺はエステルの方に走った。
「エステル! シャル!」
「はい!」
「はいなの!」
シャルの背中にエステルを乗せると、俺は迫りくる魔獣を前に言い放つ。
「俺たちパーティーでサラマンダーを倒すぞ! 俺たちは強い! 皆で生き残り、家族になるんだ!」
「はい!」
「なの!」
「ですわ!」
「しょうがないの」
ゴバァアアアアアアアアアアアア!
四方向から浴びせられる炎をかわしながら、俺はサラマンダーが一か所に集まるように誘導していく。
よし、勝機はある! バラバラだと厄介なサラマンダーだが、一か所に集めればメテオラのあれで。
「メテオラ、お前は無詠唱魔法が使えるはずだ」
「むえいしょう? 何じゃそれは」
メテオラは、きょとんとした顔をする。
「お前は魔王の根源を持つ俺の娘だ! 魔法詠唱を省略して、直接魔法を叩き込めるはずなんだ!」
「そ、そんな話は聞いたことがないのじゃ」
「お父さんの助言は適切です」
エステルが後押ししてくれた。
「仕方がないの。おぬしを信じてみるのじゃ」
「よし、メテオラ。サラマンダーが密集したところに猛吹雪をぶちかますんだ!」
「そんな大魔法は使えぬのじゃ」
「メテオラならできる! 俺の娘だろ!」
大丈夫だ。メテオラのステータスには、確かにブリザードがあった。
これまでの経験を考えれば、ステータスに書かれているスキルは必ず使えるはずなんだ。
「メテオラ、俺を信じろ!」
「う、うむ」
メテオラが両手をかざす。
「今だ、メテオラ! イメージしろ!」
「むむむ! 猛吹雪!」
ビュバァアアアアアアアアアアアア!
俺たちの前方に超低温の空間が出現し、猛吹雪が暴れまくった。それは湖を凍らせて木々を雪化粧に変え、サラマンダーの纏っている炎を消してしまう。
「よし、今なら攻撃し放題だ! 一斉に行くぞ!」
俺の合図で、娘たちが猛攻撃を開始した。
「龍雷撃!」
「重力打撃なのぉおお!」
「ホーリーライトですわ!」
「魔王の力を思い知るがよい!」
圧倒的脅威であったはずのサラマンダーが、次々と打ち倒されていく。連携がとれた俺たちは強い。
「なっ! 何だと! し、信じられぬ! ダンジョン最下層から転移させた魔物がぁああ!」
ギムネムは愕然と天を仰ぎ、崩れるように膝をついた。
「これで終わりだぁああ!」
ズガガァーン!
最後に残っていたサラマンダーの頭を、真上から剣を叩きつけカチ割ってやった。
圧倒的勝利だ。
ザンッ!
俺は腰を抜かしているギムネムの前に立つ。
「おい、そこの金ぴか野郎! 聖職者でありながら、子供を殺せとはどういうことだ! 俺は子供を虐待する奴が一番嫌いなんだ!」
「ひぃいいいいっ!」
ギムネムは、這いつくばいながら逃げようとする。
「逃がさねえぞ! お前が全ての黒幕だろ!」
「ま、まま、待て! ワシは大主教であるぞ! ワシに危害を加えたら貴様は斬首だ」
「そんなの知ったことか! 暴力は全てを解決するんだよ!」
俺は拳を握り力をこめる。
「ま、待てぇええ! いや、待ってください! か、金をやろう! いくら欲しい? あっ、奴隷もやるぞ! 若い女だ! 獣人族が良いか? それともエルフ族か? 人族もおるぞ! まだ年端も行かぬ若い娘だ! どうだ? グハハ!」
ガタガタガタガタガタ!
怒りで俺の拳が震える。
「年端も行かぬ若い娘の奴隷だと!? 俺は子供を虐待する奴が一番嫌いだと言ったはずだぜ!」
「うぎゃああああ! し、しまったぁああ!」
墓穴を掘ったギムネムは、見苦しいほどに狼狽えている。
「観念しろ、このゲスが!」
「お待ちください、お父様!」
振り上げた俺の拳を、リゼットが止めた。
「放せリゼット、俺はこのゲスを殴らねえと気が済まないんだ!」
「放しませんわ。わたくしは大司教ギムネムを許します」
「おまっ、何を言っているんだ!?」
リゼットは俺の前に出て、ギムネムの前に立った。
「このわたくし、神の代行者たる聖女リゼットが命じます! 大司教ギムネムよ、これまでの悪行、悔い改めるのです。もし反省し二度としないと誓うのなら、その罪を許しましょう!」
リゼットから神々しい光が放たれている。まるで本物の聖女……いや、女神の使いのようだ。
まさか、聖女の力が覚醒したのか?
この神の奇跡のような光景に、ギムネムも頭を地面に擦り付ける。
「ははぁ! このギムネム、心を入れ替えまする! 聖女リゼット様ぁああ! これ、貴様らも頭を下げぬか!」
「「「ははぁ!」」」
ギムネムの一喝で、他の神官も一斉に土下座の体勢になった。
「そ、それではワシはこれで」
「おい、ギムネム! そこのジャスティンも拾っていけよ!」
そそくさと逃げようとするギムネムの背中に、俺はボロボロのジャスティンを指差しながら声をかけた。
あんなのを残されたら環境に悪いからな。
奴らが去って、そこに残されたのはレアっぽい魔石と大量のドロップアイテムだ。
またゴールドがたんまり入りそうだが、俺はスッキリしない気持ちだった。悪党を野放しにするなど、新たな犠牲者が生まれるだけだ。
「おい、リゼット。何であんなクズを許したんだよ」
リゼットは振り返ると、満面の笑みで口を開く。
「許していませんわよ。わたくしは、悔い改めるのなら許すと言っただけですわ」
「えっ?」
「どうせあの男が悔い改めるとは思いませんわ。わたくしは、ずっと近くで見てきましたから」
そこでリゼットの瞳がキラリと光った。
「殴ってスッキリなんて生ぬるいですわよ。あの男には、死よりも辛い裁きを与えてやりましょう。聖職者でありながら、奴隷の売買に関与。自ら幼い子供を奴隷として虐待。寄付金の横領。その他もろもろ。その全ての証拠をわたくしは握っておりますわ」
怖っ! リゼット、怖っ! そこまで考えていたのか!
ただぶっ飛ばすだけじゃなく、犯罪の証拠を白日の下に晒し、その地位から突き落としてやるという訳か。
やっぱりリゼットって、ちょっと怖いよな。こんな断罪方法を思いつくなんて。
確かに俺が殴ってスッキリしても、逆に俺が大司教に暴力を振るった大罪人として裁かれてしまう。
奴を破滅させ蛮行を止めさせるには、元から断たねばならないってか。
我が娘ながら恐ろしいぜ。
「ふむ、その証拠とやらは、大聖堂にあるのじゃな。ならば、わらわが盗んでこよう」
話を聞いていたメテオラが、とんでもないことを言い出した。
「あら、メテオラさん。たまには良いことを言いますのね」
「わらわは最初から腐敗しまくった聖職者が大嫌いじゃ」
「わたくしもですわ。気が合いますのね」
「女神官と馴れ合うつもりは無いがの」
「わたくしは聖女ですことよ。うふふ」
あれっ? 二人の仲が良くなっているような?
まあ良いか。仲が良いに越したことはない。
◆ ◇ ◆
数日後、大司教ギムネムの悪事は白日の下に晒された。
それは俺の想像を遥かに超えるものだった。
奴隷売買に関与し、多くの幼い子供を虐待。
貧しき者からの寄付金を横領し、自分だけ贅沢三昧。
至高神アモリスの力を偽って、ただの水を『奇跡の健康水』と高額販売。
その全ての証拠書類が王都中央広場の掲示板に貼られ、多くの国民が目にするところとなったのだ。
想像していたより何倍も酷い聖教会の不敗に、国民の怒りも爆発。
国王はギムネムの地位を剥奪した。奴の牢獄行きが決決まりだ。暗くジメジメしたゴキブリが巣食う地下牢で、残りの人生を過ごすことになるのだろう。




