第29話 陰謀は暴かれた
森の中から立ち上った炎と轟音で、俺は娘たちを庇うように走り出した。
「何だ! 何が起きた!」
ズシンッ! スガガガガーン!
「グギャアアアアアアアアアアアース!」
木々を薙ぎ倒しながら現れたのは、全身に火を纏った大トカゲだった。
「あれは、サラマンダーじゃないか! 何でこんな場所に!」
火蜥蜴。
火の元素を司るドラゴンの眷属。ドラゴンの下位互換のイメージだが、体に火を纏ったモンスターであり、非常に厄介な存在だ。
「クソッ! これはヤバいぞ!」
俺はすぐに娘たちに指示を出す。
「エステルとリゼットは、安全な場所まで下がるんだ! 後方から魔法で援護を! シャルは俺と前衛だ! 火を纏ってるから気をつけろ!」
三人に指示を出してから、俺はメテオラを見た。
「メテオラは……」
「わらわには期待するでないぞ。覚醒しておらぬ」
俺は素早く彼女のステータスを確認する。
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メテオラ Lv82
種族:ハーフ魔族
職業:魔法戦士
スキル
魔王の根源
氷の加護
魔の絶剣
アイススピア
ブリザード
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メテオラも凄い初期ステータスだ。まだ子供なのに圧倒的な強さとレベル。これで覚醒していないのか。
だが、氷系の魔法属性なら。
「メテオラ、覚醒していないというのは、どういうことなんだ?」
俺が問いかけると、メテオラはバツの悪そうな顔をした。
「魔王といえば、絶大な魔法を誇る存在じゃ。しかし、わらわは弱い魔法しか使えぬ。歴代魔王は獄炎で全てを焼き尽くしたというのにの」
炎系魔法だと!? そもそも習得しようとする系統が間違っていたのか?
「メテオラ、お前は氷系魔法だ」
「何故そう言い切れる」
「俺を信じろ! いいからお前は氷の槍を使うんだ!」
「はあ?」
ズガァアアアアアアアアアアアア!
サラマンダーが炎を吐き出した。
俺はシャルとメテオラを抱えて横に飛んだ。今はゆっくり話している場合じゃない!
「クソッ! アースドラゴンの次はサラマンダーかよ! こんなの偶然じゃありえねえよな!」
やはり誰かがモンスターを放ったとしか考えられない。
誰が? やはりジャスティンなのか? だが、あいつにモンスターを転移させるような力は無いはずだ。
俺の疑念は、すぐに確信へと変わる。不快な笑い声によって。
「ふぁーっはっはっはっは! 観念しろ、悪党レイン・スタッド!」
高らかに声を上げたのは、学生時代からずっと俺に嫌がらせを続けている、聖騎士団長のジャスティン・ベックフォードだった。
「ジャスティン、やっぱりお前か!」
「レイン! よくもこの俺の顔を殴ってくれたな!」
「いや、それは試合だろ」
「うるさい! この悪党レインが! 貴様のせいで大変だったんだぞ! 高級ポーションや神聖魔法で傷を癒したり」
とんでもない逆恨みだ。そもそもコイツが俺に喧嘩を売ってきたんだろ。俺を斬り殺すとか言ってやがったくせに。
負けたから俺を恨むなんて意味が分からねえ。
「おい、ジャスティン! このサラマンダーもお前の仕業か!?」
「ふははははっ! レイン、貴様は終わりだ! この俺に楯突いたこと、あの世で悔やむんだな!」
「質問に答えろ! この前のドラゴンもお前なのか!?」
「ひゃあぁっはっは! レイン死ね! この平和を乱す悪の権化め! 俺のメンツを潰した貴様だけは許さん!」
相変わらずコイツは話が通じない。質問にくらい答えろよ。
だが、そんな俺の疑問は、別の男が答えてくれるみたいだがな。
ジャスティンの後ろから、見たことのある聖職者服の男が現れたのだ。
「この男に高位魔法が使える訳なかろう!」
そう言い放ったのは、大司教ギムネムだ。
派手な司教服に身を包み、豪奢な司教冠とマントを装備した男。その手には黄金の司教杖を持っている。
もう動くキラキラみたいな奴だ。
「大司教ギムネム、もしかして、あんたがドラゴンやサラマンダーを転移させたのか?」
「いかにも! ワシの偉大な高位魔法により奇跡を行使しておるのだ!」
こいつ、認めやがったぞ。
大司教ギムネムの周囲には、何人もの神官が杖を掲げ、魔法を集中させている。もしかして、一人では転移魔法が使えないから、部下の魔力を利用しているのか。
「いでよ、ダンジョン最下層レベルより来たれし魔物よ!」
ギュワァーン!
空間に転移の門が開き、その中から新たなサラマンダーが現れた。しかも三体も。
湖畔の周辺には、計四体のサラマンダーが炎を吐き出し、さながら地獄絵図のようだ。
「どうだ、レインよ! このワシの力、思い知ったか! ガハハハッ!」
「はははっ! そうだ思い知ったか、レイン!」
ギムネムに続き、ジャスティンまで高笑いする。
お前は何もやってないだろ。この金魚のフンが。
「クソッ! 何しやがる! 俺の娘を危険にさらしやって!」
「ガハハッ! そんなガキなど知るか! ワシに楯突き聖女見習いのリゼットを奪ったのを忘れたのか! この不心得者が!」
「何だと!」
ギムネムの横柄な態度に、俺は奥歯を噛みしめる。
「リゼットは教会の道具じゃねえ! 俺の娘だ!」
「知ったことか! 失敗作の道具など廃棄処分だわい! 新たな種を手に入れ、もっと優れた聖女を作るのみよ! ハハハッ!」
「な、何だと!」
怒りで眩暈がしそうだ。こいつらは、天帝の種共有協定で生まれた子供を、人とは思っていないのか。
「サラマンダーたちよ、こ奴らを殺すのだ! この用済みになったガキどもを皆殺しにせよ! 骨も残らず焼き尽くしてしまえ! おっと、レインの種だけは必要だったわい! レインだけは生きたまま捉えよ! 生きておれば四肢が無くても構わぬ!」
ギムネムは言ってはならねえことを言いやがった!
用済み? 皆殺し?
俺は子供が虐待されているのを見ると、抑えようのない怒りが湧き上がってしまうんだ!
実験で子供を生み出し、利用価値が無くなったから廃棄処分だと!?
それは絶対に言っちゃあいけねえ言葉だ!
「ギムネムぅうううううううううう!」
「やれ! 奴らを殺すのだ!」
ズガァアアアアアアアアアアアア!
ギムネムの合図で、サラマンダーが一斉に火を噴いた。モンスター四体の同時攻撃は、凄まじい威力だ。
俺は炎をかわしながら、娘たちに声をかける。
「シャル、距離をとるんだ! 近づきすぎると危険だ!」
「はいなの!」
俺の声で、シャルが後方へと走った。
これは厄介だな。強さだけならアースドラゴンの方が上だが、サラマンダーは炎を纏っていて危険だ。
しかも四体も同時に相手するとはな。
「ふあぁっはっはっは! どうだレイン・スタッド! 貴様は俺がボコボコにしてやるぞ!」
しかもジャスティンがしゃしゃり出てきやがった。俺の前を塞ぐように。
「邪魔だ、退け!」
「うるさい! 俺に命令するんじゃない! 貴様はここで終わり――ぐはぁああああ!」
スガァーン!
ジャスティンが喋り終わる前に、サラマンダーの尻尾が彼を薙ぎ払った。
吹っ飛ばされたジャスティンは、木に体を打ち付け動かなくなる。体が捻くれて再起不能っぽい。
あいつは何をしに来たんだ?
「クソッ! うおぉおおおおおお!」
ガキンッ!
「熱っ!」
近くにいる一体に剣を撃ち込むも、サラマンダーの炎で致命傷を与えられない。燃え盛る炎で近づけないのだ。
「きゃああああ!」
その瞬間だった。サラマンダーの一体が、いつの間にか後方に回り込み、リゼットを襲おうとしていた。
「リゼット!」
「お父様ぁああああ!」
「間に合えぇええええええ!」
大地を蹴り、全色力で走った。
あと少し、あと少しでリゼットを。
俺がリゼットの手を掴むのと、サラマンダーが炎を吐くのとが同時だった。
マズい! 回避が間に合わない! せめてリゼットだけでも守らないと!
ズババババババ!
俺が致命傷覚悟でリゼットに覆いかぶさったその時、何処からともなく放たれた氷の槍が、サラマンダーの側面に突き刺さった。
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