第27話 世界の覇者となる男
アドラメレクが振り向き、俺はあっさり見つかった。
こっそり様子を探るつもりだったのに、まさかドスケベネタで噴いてしまうとは。
「レイン殿! いつからそこに!?」
アドラメレクの視線が俺を射抜く。明らかに俺を怪しんでいるようだ。
何とか誤魔化さねえと。
「えっと、俺はメテオラを探していたんだ」
「どこまで聞いていた!?」
「どこまでって言われてもな……」
「もはやこれまでか! 聞かれたのなら致し方ない。口を封じるまで」
アドラメレクの目が鋭くなり、殺気が増大した。
「待てよ! 文句を言いたいのは俺の方だ! 俺の娘に卑猥な言葉を教えるんじゃねえ!」
「は?」
それまで険しい顔をしていたアドラメレクの目が、急に点みたいになった。
「レイン殿は何を言っておるのだ?」
「だからさっき『ドスケベセッ○ス』とか言ってただろ! 子供に何を教えてやがる!」
「ん? 私を疑っているのではないのか?」
「疑っているさ。あんたが俺の娘をビ○チにしようとしてるってな」
俺はビシッと言ってやった。
魔族ではエッチが推奨されているのか何なのか知らねえが、俺の娘に悪影響を与えるんじゃねえと。
「くっ……この男、アホなのか? 聞いていなかったのなら都合が良い」
「だから聞いていたって言ってるだろ! 俺の娘にドスケベセッ○スを教えるんじゃねえ!」
「くっ、くくくっ……」
開き直ったのか、アドラメレクが笑い始めた。
「そうだ。私は淫魔。メテオラ様に正しきエッチの作法を教えるのも役目よ」
「ついに本性を現しやがったか! 七魔大公アドラメレク」
「ふふっ、この男がアホで助かった。スパイ疑惑も誤魔化せるというものだ」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」
やっぱり怪しい。この女は信用できねえ。
俺の娘をビ○チにはさせねえぞ。
「それはそうとレイン殿、私とドスケベセッ○スしましょう」
色っぽい仕草を見せたアドラメレクが、俺の胸に顔を寄せてきた。
「お、おい」
「気持ち良いことしましょうよ。好きなんでしょ?」
「待て! こんな道端でやめるんだ」
な、ななななな! 何をしやがる、この女!
娘の前でエッチなことをするんじゃねえ!
俺の娘に変な影響が出たらどうするんだ!
見てる! メテオラが見てる!
娘の前でドスケベセッ○スとか、何の羞恥プレイだよ!
「や、やめろ!」
俺はアドラメレクの肩を掴み、体を引き離した。
「俺は愛の無いセッ○スはしない主義なんでね」
「なんですって!」
カッコつけて言ってみたものの、実は女が苦手なだけなんだけどな。女性経験がないから、迫られると緊張しまくりなんだよ。
まあ、たとえ愛があったとしても、娘の前では絶対にしないけど。
「レイン殿……ただのスケベな種馬かと思いきや、意外と真面目で好印象……だと。いや、むしろ私の魅力が足りなかったのか……」
アドラメレクが愕然としている。
もしかして、女性からの誘いを断るのは失礼だったか?
「あ、ああ……私の色気が通用しないだなんて……。屈辱だ……。私、これでもモテる方なのに……」
まだ何か言っているが、俺はアドラメレクを放置し、メテオラと一緒に帰ることにした。
「ほら、一緒に帰るぞ」
「お、おい、何をするのじゃ」
最初こそ抵抗したメテオラだったが、俺が手を握ると大人しくなった。
「そろそろ朝食の用意もできているはずだ。それに、皆も心配しているぞ」
「わらわなぞ誰も心配しておらぬわ。わらわは魔族だからの」
「メテオラ」
俺はしゃがんでメテオラと視線を合わせた。
「そんなこと言うもんじゃない。俺は心配したぞ」
「ふん、信用できぬわ」
「エステルだって心配していた。きっとシャルだって。リゼットは……まだギスギスしてるけど、きっと仲良くなれるはずだ」
「ぷい」
メテオラは横を向いてしまった。だが、繋いだ手は放していない。
今はそれだけで良しとするか。
◆ ◇ ◆
翌日。今日こそメテオラと一緒にダンジョンクエストに行こうと思っていたのに、また勝手に家を抜け出してしまった。
俺はエステルと一緒に、ダイニングで途方に暮れているところだ。
「まいったな……」
「困りました……」
エステルと二人で溜め息をついた。お互い気苦労が多そうで、まさに親子って感じだ。
「わふっ、またメテオラちゃん居ないの?」
「まったく、あの子ったら、お父様に迷惑ばかり掛けて」
シャルとリゼットもやってきた。遊び相手がいなくてがっかり顔のシャルと、やれやれと肩をすくめるリゼットが対照的だ。
「うーん、何か親睦を兼ねてイベントをやるとか? それとも……やっぱり一緒にクエストなのか?」
メテオラが馴染むようにと色々考えながらも、俺は不安を拭いきれないでいた。
アドラメレクと関わっていたら、何か大きなトラブルに巻き込まれてしまうのではと。
そんな俺の予感は、すぐに的中することになる。
◆ ◇ ◆
買い物に出て一人で街を歩いていると、以前感じた強力な魔力と遭遇した。
感じるといってもスキルではない。強者のみが発するような雰囲気のようなものだ。
「アドラメレク……じゃねえ。これは王覧試合の……」
建物の陰から俺を見るフードの人物。あれは間違いなくあの男だ。
「仕方ねえ。こちらから出向くか」
俺はフードの男のもとへ歩を進めた。
どうやら俺を監視しているのだろう。ならば娘がいない今の方が都合が良い。娘たちに危害が及ばないように。
「よう、久しぶりだな。七魔大公ラプラス」
「なぬっ! 一瞬で我を見抜くか、人族最強レインよ」
ラプラスが口を開いた。
だから人族最強じゃねえ! こいつも俺を誤解してやがる! 勘弁してくれ!
「ふっ、俺を買い被りしすぎだな。俺はただの男だぜ」
「くくく、謙遜するな。そなたの強さは、我の折り紙付きだ」
どいつもこいつも俺を過大評価しやがって。
俺は静かに暮らしたいんだ。
「そんなことはどうでもいい。何しにきやがった?」
「そなたに話があってな」
「話だと?」
「ああ、以前我が『そなたは狙われている』と言ったであろう」
あれか。ジャスティンが俺を狙ってたやつか。教会まで俺を監視してやがったけどよ。
「聖女見習いを失ったアモリス聖教会は、新たな計画のために、そなたの種と命を狙うであろう」
「ほう」
さっぱり分からん!
「そして、時を同じくして魔族まで動き始めた。次期魔王と目されるメテオラ様を使ってな」
「何だと!」
どういうことだ? アドラメレクは魔族の闘争に巻き込まぬよう、メテオラを俺に預けたんじゃねえのか?
「我は魔族の強硬派を止めようとしておるのだ。レイン、そなたに協力を仰ぎたい」
「どういうことだ?」
「アドラメレクを筆頭とする魔族強硬派は、このイザリル王国と戦をするつもりだ」
は? 魔族と人族が戦争だと!?
「元から魔族は人族と戦いたがってたんじゃねえのか? 何であんたは止めようとしているんだ?」
「今のままでは勝てぬからだ」
ラプラスはそう言い切った。
そこには計略めいたものはなく、ただ冷静に状況を分析しただけに見える。
「先の大戦で魔王様が亡くなり、七魔大公も半減した。かつては絶大な力を誇っていた魔王軍も、今は衰退し人族と力は拮抗しておる」
「ほう」
「そこで現れたのが、天啓のスキルを持つレイン、そなたよ」
ラプラスの目が俺を見据えた。
「そなたは世界のバランスブレイカーであるぞ。そなたを手に入れた勢力が、この世界の覇者となろう」
な、なな、何を言ってやがる、ラプラス!
どいつもこいつも俺を買い被りすぎだって! 俺は種だけ強い、ただの男なんだよ!
「レインよ、我と手を組め。この国を出て、我のもとへ来い。さすればメテオラ様を救うことにもなろう」
ラプラスが手を差し出した。
「悪いが俺はあんたともアドラメレクとも手を組むつもりはない」
「そうか、残念だ……」
ラプラスは手を引っ込めると、背中を向け歩き出す。
去り際に一言残しながら。
「それにしても、この国も教会も愚かなことよ。レインの価値を何も理解しておらぬ。味方にするどころか、害しようとするとはな……」
そのままラプラスは、霧のように消えてしまった。
手早く買い物を終えた俺は、家路を急いでいた。
ラプラスの言葉が気になっているのだ。何か厄介なトラブルに見舞われるのではないかと。
「ん、あれはメテオラ?」
その時、メテオラが何かを抱えたまま、裏通りから姿を現したのが見えた。
周囲を警戒するその様子を見て、胸の奥に嫌な予感がよぎった。
「メテオラ」
「ひゃ!」
バサバサバサ!
後ろから声を掛けると、メテオラは驚いて手に持っていた書類を落とした。
「何だこれは……」
「み、見るでない!」
「なっ!」
それは城の見取り図と兵士の配置図だった。
「な、何でこれをメテオラが……」
俺は愕然とし、その場に立ち尽くした。
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