第25話 次期魔王と次期聖女
目の前に立つ女は魔族だった。
怪し気な紫色の髪に、魔族特有のツノが二本。猫の瞳のような縦長の瞳孔。はち切れんばかりの胸や尻。
一目見ただけで精気を吸い取られそうな女だ。
この女の雰囲気、何処かで感じた気がする。
そうだ、先日の引っ越しの時だ。
教会の奴らが俺を監視していた時、別の方角から感じた殺気に似ている。
「私の話を聞いてください。これはレイン殿にも関係する話なのです」
その女の魔力が絶大だからなのか、俺と娘たちは一歩も動けない。
だが俺は、女の隣に佇む少女が気になっていた。
燃えるような深紅の髪に、印象的な紫の瞳。頭に小さなツノがアクセントとなっていて可愛らしい。
まだ幼いのに、威厳というか迫力のようなものまで感じる。
この二人……かなりの強さだ。
王覧試合のラプラスより危険かもしれねえ。奴は明確な殺気を感じなかった。
こりゃ選択を間違うとヤバいかもな。
「話を聞く前に聞きたい。あんたは何者だ?」
「私ですか? 私はただの女魔族です」
ただの女魔族のはずがねえだろ。
俺は黙って女のステータスオープンをした。
――――――――――――――――
アドラメレク Lv110
種族:魔族
職業:七魔大公
スキル
強制
執行
魔光線
炎天
裁きの車輪
飛行
――――――――――――――――
やっぱりこいつも七魔大公かよ!
どうりでヤバい雰囲気だと思ったぜ!
「タダの女魔族とか謙遜するなよ。七魔大公アドラメレクさんよ」
「何ですって!」
俺の言葉で女……アドラメレクの表情が変わった。
「なるほど、一目見ただけで私の正体を見破るとは、やはり只者ではない。さすが人族最強の戦士、レイン殿ですね」
ステータスを見ただけだけどね!
人族最強じゃないけどね!
しかしここで、娘たちが火に油を注ぐ。
「そうです! お父さんは最強なのです!」
「パパはドラゴンより強いの!」
「お父様は神の如き存在ですわ!」
おおぉい! 俺を持ち上げすぎだって!
魔族が誤解しちゃうだろ!
「くっ、やはりレイン殿は人族最強であったか。これは一筋縄ではいきませんね」
ほら、やっぱりアドラメレクが誤解した。
「少し経緯を話さなければなりませんね」
「そうしてもらえると助かる。俺は魔族とトラブりたくないのでね。平和的に解決してくれ」
アドラメレクは、静かに語り始めた。
「我ら魔族は、かつて勇者との聖魔大戦以降、力を失いひっそりと過ごしてきました。それもこれも、大戦で魔王様を失ってから、長らく次期魔王の座が不在だったからです」
その歴史は聞いたことがある。
ゲームでは魔王を倒すストーリーだったが、この世界には魔王が存在しない。それぞれの種族が、お互いを牽制してバランスが成り立っている。
「そこで魔族の間で議題に上がったのは、天帝の種共有協定でした」
ゾクッ!
俺の背中に緊張が走った。またその計画が原因なのかと。
「それぞれの種族が勇者を生み出そうとし、我々魔族も魔王を生み出そうとしました」
やはりそうか。俺の種を使って、魔王や勇者を生み出そうと。他の種族を出し抜いて、自国の権益を広げようとしてやがるのか。
そこでアドラメレクは、横の少女に視線を移した。
「その天帝の種共有協定で生み出されたのが、ここにおわすメテオラ様です」
「なっ!」
俺は既視感にも似た感覚に襲われた。
やっぱりそうだったのか。この少女が気になって仕方がなかったんだ。他の娘に対する時と同じだったから。
俺の緊張を他所に、アドラメレクは話を続ける。
「魔王の素質を有して生まれたメテオラ様ですが、いまだその力を開花させておりません。そこで魔族間で争いが勃発したのです。メテオラ様を推す主流派と、メテオラ様を廃しようとする反主流派の」
「何だと」
「反主流派の急先鋒ラプラスは、メテオラ様の命を狙っております」
「なっ!」
「このままではメテオラ様が危ないのです。だからこうして、レイン殿に会いに来ました。メテオラ様を一時預かってもらうために」
どういうことだ?
ラプラスは俺に『我と手を組め』と言ったはずだ。娘を廃しようとする奴と、俺が手を組むはずがない。それでは話が繋がらない。
「どうも解せないな。俺はラプラスもアンタも両方信用できねえ」
「私は信用していただかなくて結構です。メテオラ様だけ保護していただければ」
「その子が俺の娘だというなら話は別だ。アンタは信じないが娘は信じる」
「理解が早くて助かります。メテオラ様を魔族間の抗争に巻き込まないよう、お願いいたします」
交渉がまとまりかけたその時だった。
「お父様! 魔族は敵ですわ!」
それまで黙って成り行きを見守っていたリゼットが、前に出て神官杖を掲げた。
「おい、リゼット」
「どいてくださいまし!」
魔法を使おうとするリゼットに、メテオラは含み笑いをする。
「くくく、愚かな人族じゃ。わらわに歯向かうというのか。ならば見せてやろう、わらわの力をな」
「わたくしは負けませんわ! お父様から授かった欠史三代創世神話の極意がありますのよ!」
あああぁ! 俺の娘たちが一触即発にぃいい!
あとその創世神話は俺の作り話だぞ!
メテオラが剣を抜き、リゼットが魔法を行使する。
「魔力解放! 見よ、次期魔王たるわらわの力を!」
「魔族はわたくしが倒しますわ! ホーリーライト」
「やめろ、二人とも!」
ゴツン!
俺は咄嗟に間に入り、二人の頭を軽く叩いた。
「何をするか! 痛いのじゃ!」
「きゃっ、痛いですわ!」
頭を押さえる二人に、俺は教育的説教をする。
「いきなり剣や魔法で戦うとか危ないだろ! 怪我をしたらどうするんだ!」
「でも、お父様。相手は魔族ですわ」
不満顔のリゼット。そしてメテオラも不貞腐れた顔になる。
「その者が先に突っかかってきたのじゃ」
「何ですって!」
「神官など魔族の敵ではないか」
「わたくしも魔族は敵ですわ!」
「やめろ二人とも!」
また衝突しそうになる二人を、俺は無理やり引きはがした。
「リゼット、神官としての使命も分かるが、お前とメテオラは姉妹だろ」
「それは……そうですけど……」
メテオラもアドラメレクにたしなめられていた。
「メテオラ様、打ち合わせ通りにやってください」
「それは分かっておるのじゃが……」
「我らの計画をお忘れにならぬよう」
「分かっておる。人族の情報を聞き出すス○イであろう」
二人は何かコソコソ話している。小声なので良く聞こえないが。
スパイスがどうとか聞こえたな。カレーが好きなのか?
「そういう訳で、メテオラ様をお願いいたします」
そう言ってアドラメレクは帰って行った。メテオラを置いて。
残された俺たちは、気まずい空気のままだ。
「じゃ、じゃあ帰ろうか?」
「ぷいっ!」
リゼットがご機嫌斜めだ。
俺は反対側にいるメテオラにも声を掛ける。
「じゃあ、メテオラも」
「無礼者! わらわに気安く声を掛けるでない」
「あれぇ……」
俺、父親だよね?
反抗期かな?
他の娘と違って難しいぞ。
「お父さん、どうしましょう?」
エステルが不安そうな顔で俺を見た。
「大丈夫だ。俺が何とかする」
「はい」
誰も寄せ付けない態度のメテオラに、誰にでも気さくなシャルが近づいていく。
「わふっ、メテオラちゃんも一緒に住むの?」
「何じゃこのわんこは。わらわの犬になるがよい」
「わふぅ~」
「お、おい!」
俺の制止も聞かず、メテオラはシャルの背中に乗ってしまう。
姉妹は平等じゃなきゃならないのに、一方がもう一方を従わせるのはダメだ。
「ほれ、はよう走れ」
「家まで競争なの! どぉおおおおぉん!」
バビュゥゥゥゥゥゥーン!
「ぎゃあぁああああああああぁ! 降ろせぇええええ!」
シャルはメテオラを乗せたまま、もの凄いスピードで走って行ってしまった。
背中のメテオラが、落っこちそうになりながら翻弄されている。
「あれって、じゃれてるだけなのか? し、心配だ……」
魔族の意図も分からず、教会との揉め事も解決していない。更に姉妹間の問題まで。
こうして、俺に家族が増えた。
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