表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
排水溝につまったスライムを日々かたづけるだけの底辺職、なぜか実力者たちの熱い視線を集めてしまう  作者: 北川ニキタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/68

―68― さてと……

 さてと……。

 オレの名前はセツ。趣味はどぶさらいと、平穏な日常を追い求めることだ。

 前世では社畜として過労の果てにトラックに撥ねられ人生終了……なんていう、実に残念な最期を迎えたオレだが、幸か不幸か異世界に転生してからは「いかに面倒事から逃げて、楽して生きるか」だけをモットーに生きている。

 その結果、選んだのは万年F級のどぶさらい冒険者というポジション。だって、強い魔物と戦うのは疲れるし、目立つとまた前世みたいに「あれもこれも」と仕事を押し付けられるのがオチだからな……。

 だから、オレは誰にもバレないように、こっそり魔術を鍛え、こっそり生活を豊かにし、こっこり趣味に生きる……それが理想だ。


 そして、オレのささやかな趣味の中でも、最近もっとも情熱を注いでいるのが、コーヒーだ。

 豆の種類、焙煎具合、挽き方、淹れ方……それらを変えるだけで味が無限に変化する。まさに沼。底なし沼。

 今日も今日とて、朝から最高のコーヒーを淹れるためにキッチンに立っていた。

 まず豆を選ぶ。今日は先日バーラットの旦那からもらった、オルトラ大陸産の「サンライズ・レッド」にしよう。やや酸味が強く、フルーティーな香りが特徴の豆だ。こいつを浅煎りにして、爽やかな風味を引き立てたい。


「さてと……手動の焙煎釜を準備して……と」


 前世の記憶を頼りに、見よう見まねで作った小型の焙煎釜。魔導コンロの火力を微調整しながら、豆を投入し、カラカラとハンドルを回す。

 豆の色が徐々に薄茶色からシナモン色へと変わり、パチッ……パチパチッ……と1ハゼの音が聞こえ始める。この瞬間がたまらない。香ばしい匂いがキッチンに広がり、期待感が高まっていく。


「よし、いい頃合いだな」


 狙い通りの浅煎りになった豆を急冷し、ミルでゴリゴリと挽いていく。部屋中に広がる芳醇な香り……ああ、これだけで人生に充足感のようなものを感じてしまう。

 挽きたての粉をドリッパーにセットし、魔導ケトルで沸かしたお湯を、少し温度を下げてからゆっくりと注ぐ。

 最初は少量のお湯で蒸らし、ぷっくりと粉が膨らむ「コーヒーのドーム」を作る。この蒸らしが肝心なんだ。ここで豆の持つポテンシャルを最大限に引き出す。


 ふぅ……。

 琥珀色の液体が、ぽたり、ぽたりとサーバーに落ちていく。その光景を眺めているだけで、心が落ち着いてくる。これぞ大人の贅沢。

 抽出が終わったコーヒーを、お気に入りのマグカップに注ぎ……。


「んー……完璧な香りだ」


 思わず笑みがこぼれる。さあ、この至福の一杯を……と思った、その時だった。

 背後から、ふわりと甘い香りが近づいてくる。


「ダーリン、なんだかとってもいい匂いがするじゃない!」


 気づけば、絶界の魔女シーナが、オレの背中にぴたりと寄り添うように立っていた。いつの間に鍵を開けて入ってきたんだか……。まあ、いつものことか……。


「シーナ……驚かすなよ。というか、また勝手に入ってきたのか」


「えー? だって、ダーリンの淹れるコーヒーの香りがしたら、いてもたってもいられなくなっちゃったんだもん。ねぇ、それ、あたしにも飲ませてくれるんでしょ?」


 シーナはオレの肩越しに顔を寄せ、オレが淹れたばかりのコーヒーカップを、キラキラした目で見つめている。吐息がかかって、ちょっとくすぐったい。こいつの嗅覚と侵入スキルは、本当にどうなってんだ……。


「はぁ……。まあ、お前の分も淹れてやるけどな。少しは大人しく待ってろよ」


「やったー! ダーリン大好き! ダーリンのそばで、いい子にして待ってる!」


 そう言って、シーナはオレの腰にぎゅっと腕を回して抱きついてくる。料理の邪魔なんだが……まあ、これもいつものことか……。

 オレはため息をつきながら、もう一杯コーヒーを淹れる準備を始める。シーナはというと、オレの背中に頬をすり寄せながら、「はぁ~、ダーリンの匂いとコーヒーの香り……どっちも好き……」なんて、とろけた声をだしている。


 二人分のコーヒーが揃い、リビングの小さなテーブルを挟んで向かい合う。

 シーナは熱いのも構わず、ふーふーしながら一口すする。


「んんーっ! おいしーい! なんだか、ちょっとすっぱいけど、それが逆に爽やかで、後から甘い香りがふわってする感じ! やっぱりダーリンの淹れるコーヒーが世界で一番おいしいわ!」


「そりゃどうも。今日の豆は酸味が特徴だからな。浅煎りが合うんだよ」


 オレも自分のカップに口をつける。

 うん、狙い通りの味だ。口の中に広がるフルーティーな酸味と、鼻に抜ける華やかな香り。そして、後味はすっきりとしていて、朝の一杯には最高だ。

 シーナは「もう一杯!」と空になったカップを差し出してくる。本当に遠慮がないやつだが……まあ、今更気にする仲でもないか。


「ったく、しょうがないな」


 苦笑しながらも、オレは再びケトルにお湯を沸かし始める。

 なんだかんだ言いつつ、こうしてシーナとコーヒーを飲む時間は、案外嫌いじゃなかったりする。騒がしいのはいつものことだが、オレの淹れたコーヒーをこんなに嬉しそうに飲んでくれる相手がいるってのは、悪くない。むしろ、このやかましさがないと、少し物足りなく感じるくらいには、オレも毒されているのかもしれない……。

更新いたしました。

皆さんの応援があるからこそ書けています。改めてありがとうございます。


また、それに伴い新作も投稿しました。


『わたしだけ、魔物じゃなくて【人間】を殺害しないと経験値をもらえないんですが?~『癒やし系大天使』とバズった幼女、実は配信の裏で『虐殺』しています~』


というタイトルの新作です。

超絶おもしろい本格ダークファンタジーです!


ご興味がありましたら、こちらも読んでいただけますと嬉しいです。


下記のURLからコピペするか、下の方にスクロールするとリンクがありますので、そこから飛んでいただければ幸いです。


【https://book1.adouzi.eu.org/n1857lt/】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ