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永遠の誓い

 

 ふっと息を吐くことを意識した時、身体に感じる柔らかな感触と嗅ぎ慣れた優しい匂いによって、エルシュは目を覚ました。


「ん……」


「エルシュ?」


 小さく身じろぎすれば、すぐ傍で声が返ってきたため、エルシュは視線を左側へと向けた。


 そこには中腰のまま、エルシュの顔を覗き込んでくるリディスがいた。リディスはいつもと同じように銀色の仮面を付けている。


「陛下……」


「良かった……。エルシュ、そなたは丸一日ほど眠ったままだったんだぞ」


 リディスの目の前で、身体を横にしたままでいるのは気恥ずかしい気がして、エルシュはゆっくりと身体を起こした。


「……もしかして、ずっと見守っていて下さったのですか」


 自分が眠っていたベッドはいつもと同じものだ。


 視線をちらりと窓の方へと向ければ、外は暗闇で覆われている。気を失ってから一日が経っていたらしく、知らない間に迷惑をかけてしまった気がして、エルシュは視線を布団の上へと落とした。


「いや、まだ昨夜の後処理が終わっていないから、時間が空いた隙を狙って、様子を見にきていたんだ。ジークが……そなたは雪華の力を使い過ぎたことによる体力の消耗だから、寝ていれば治ると言っていてな。だが、何が起きるか分からない以上、目を離さないようにしていた」


「そう、でしたか……」


 どうやら寝顔を見られていたようだと気付き、エルシュは少しだけ口ごもった。


「エルシュ」


 名前を優しい声で呼ばれたエルシュはぱっと顔を上げた。交じり合ったのは、熱い感情が含まれた視線だった。


「……ありがとう。今回の件、収まったのはそなたのおかげだ」


「私は……。ただ、夢中で……」


 自分の行動が正しかったのかは分からない。思い返してみれば、もっといい方法があったのではとさえ思えて来る。

 それでも、リディスは首を横に振ってから微笑むだけだ。


「そなたが傍に、居てくれたからだ。だから、私は私自身を諦めることなく、ダドリウスに立ち向かうことが出来た」


「……」


 リディスはエルシュが寝ているベッドの上へと腰かけて、そしてエルシュの肩口へと額を押しつけるようにしながら抱きしめて来る。

 布越しに伝わって来る温度は温かく、その熱に生きている証拠というべき尊さを感じてしまう。


「いつか……。いつか、私は竜になってしまうのではと恐れずにはいられなかった。それゆえに生きることさえも恐れていたのだろう。……それなのにエルシュ、そなたが傍にいるだけで、強く生きたいと思えるようになってしまった。一日でも長く、共に生きたいと……そう思ってしまうんだ」


 抱きしめられる腕に力が宿る。それでも優しさだけはそこに確かにあった。

 同じ望みをリディスも抱いてくれていることが嬉しくて、エルシュは自分の腕を彼の背中に回してから抱きしめ返した。


「そのように思って下さって、凄く嬉しいです。私も、陛下と……」


「──リド、だ」


「え?」


 それは何とか聞き取れるほどの早口だった。


「そなたにも、リドと呼ばれたい。……呼んでくれないか」


 切願するようにも聞こえる言葉に、エルシュは身体を小さく震わせる。


「……リド、様」


 エルシュは顔を上げて、リディスを真っすぐ見つめながら、揺るぐことのない熱い想いを込めて名前を呼んだ。


「……ああ」


 名前を呼ばれたリディスは目を細めながら、愛おしいものを見るような優しい表情で返事を返す。


「お慕い、しております。ずっと、ずっと……。リド様が竜になってしまわれても、私は傍にいます。ずっと、一緒に……生きていきたいです。だから……」


 エルシュは一度、空気を吸い込んでから、視線を逸らさずにはっきりと告げる。自分の顔は今までで最も紅潮しているだろうと予想しながら。


「いつか、竜になる時が来ても……私を愛してくれますか」


 エルシュの告白にリディスは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに穏やかな表情で頷き返した。その表情こそが、答えだと言うように。


「誓おう。この身が人ではなくなったとしても。心は全てそなたに捧げると、永遠に誓おう」


 注がれる視線によって動けなくなってしまっていたエルシュは思い出したようにふっと笑みを溢した。

 リディスはエルシュの頬に自らの右手を添えると、薄く目を閉じたまま顔を近づけて来る。


 柔らかな唇がエルシュのものを捉え、離さないと言わんばかりに何度も重ねられていく。呼吸することが難しくなっても、口付けを止めることはなかった。


 いつの間にか、空いていた手にはリディスの指が絡められており、腰に回された右手に支えられながら、エルシュの身体は赤子を寝かすようにそっと、横たえられる。


 二人は冷たい雪が熱で溶けるように身体を重ねながら、お互いの温度をしばらくの間、確かめ合っていた。

 

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