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式典

 

 ダドリウスとの接触はあったものの、それから式典の日までは特に何かを仕掛けてくるようなことはなく、妙な緊張感を持ったまま、当日を迎えてしまっていた。


 昼間は謁見の間で、リディスが即位して一年経ったことを祝う式典が行われていた。


 まず、自国の宰相や大臣からリディスに向けて祝いの挨拶が始まり、次に諸外国からの外交官や外務大臣が一歩、前に出ては流れ作業のように挨拶を述べていく。


 式典というものは型通りに進めることを良しとされるため、滞ることなく行われているのは順調だと言えるだろう。


 白地のドレスという正装を着たエルシュもリディスのすぐ近くに控えており、式典が進行する間はずっと背筋を伸ばしたまま、流れに沿うように参加していた。



 その後は王城から城下町を見渡すことが出来る露台に立って、今日一日だけ解放された王城の庭や城門の前にお祝いするために集まって来ている自国民達に向けて、リディスから挨拶が述べられた。


 即位してからこの一年間についてのことや、これからも国の繁栄と安寧を願って励んで行きたいという言葉が響き渡ったことで、どこまでも広がっていくような国民達の歓声と拍手が王城を揺らすように響いていた。


 それからエルシュもリディスの隣に立ち、半年後に結婚式を挙げることを国民達に伝えれば、熱狂するように祝いの言葉を述べる者が溢れていく。


 エルシュとリディスが立っている露台は国民達が見上げている場所からかなり離れているので、表情が相変わらず無表情のままだということはどうやら覚られてはいないようだ。


 出来るだけ王妃らしくあろうとエルシュはドラグニオン王国の国民に向けて、ゆっくりと手を振り返した。


 自分がアルヴォル王国から嫁いで来たということは国民にとっては周知であるらしく、両国間の仲は悪くはないため、国民達に悪い印象を与えていないことに安堵していた。


 もし、王妃として受け入れてもらえなかったならばどうしようと不安だったため、その心配が過ぎ去ったこともあり、エルシュはまだ式事が半分しか終わっていないにも関わらず、少々気疲れしてしまっていた。



 国民に向けての挨拶の後は祝宴の夜会までは時間が少し空いており、休憩をするための部屋の長椅子に腰かけるや否や、深い溜息を吐いた。


 このあとお色直しをして、祝宴の夜会用のドレスに着替えなければならないと分かっているが、ずっと立ちっぱなしだったことで少し足が疲れてしまっているようだ。


 だが、弱音を吐いている暇などないため、気合を入れ直そうとしていると、すぐ隣にリディスが腰掛けてきたのである。


「……朝からずっと、顔が強張ったままだぞ」


「え……」


 自分を見つめて来るリディスの表情には疲れは一切見られない。さすがに堅苦しい式典には慣れているのだろう。


 アルヴォル王国に居た頃でさえ、エルシュは式典らしい式典には数度程しか参加していなかった。

 そして式典に参加しても夜会などには欠席して、一人静かに夜を過ごしていたのである。


「申し訳ありません……」


「いや、構わない。……夜会まで少し時間があるから、休んでいるといい。私もここで少し休んでから、着替えるとしよう」


 どうやらリディスもこの休憩室で休んで行くらしい。二人で長椅子に座っている間に、侍女達によってお茶とお菓子、そして軽食の準備が目の前で整えられていく。

 最初からこれらは準備されていたらしく、食べてもいいものらしい。


「夜会の場では挨拶ばかり受けて、食事を摂ることが出来ないだろうからな。今のうちに食事を摂っておくといい。……ああ、食べすぎないようにだけ、気を付けてくれ」


「まぁ……。私が大食いみたいな言い方ですね。……でも、食べなければ力も出ませんから、少し頂くとしましょう」


 エルシュがつんっと顎を上げながらそう答えると、隣のリディスから苦笑するような声が上がった。

 まだ、笑う気力があるうちは大丈夫だろう。途切れない緊張感の中、休まる時間は極端に少ないため、リディスにも心を休めておいて欲しかった。


 用意されていたお菓子や軽食は全て毒見が済まされているものらしく、わざわざこの休憩のために料理人達が作ってくれたのだろう。


 エルシュはそのことに感謝しつつも、少しだけ空腹感を感じたお腹を満たすために、綺麗に並べられていたサンドウィッチに手を伸ばすのであった。

 

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