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050 ファンタジーといえばお祭りイベントだよね!

本当にごめんなさい、間違えて敗北者~の方に最新話貼り付けてました。

 



 戦いから二週間が過ぎ、帝都には平和な日常が戻ってきていた。


 銀狼たちは、目を覚まして数日の間は強い倦怠感で身動きも取れなかったが、一週間も経つとすっかり元気になった。

 数が数なので、宿や軍の施設で暮らすわけにもいかず、今はひとまず帝都の外にスペースを間借りして暮らしている。

 さすがに大きな狼が帝都を闊歩すると住民たちも怯えていたが、実際の中身は大きいが人懐っこい犬だったので、一種のマスコットキャラ的立ち位置で人々にも受け入れられつつある。


 とはいえ、“ただ好きに暮らすだけ”で帝都近辺の土地の一部を占領するのは、フェンリル、皇帝、両者共に面子が立たない。

 住民は気にしなかったとしても、周辺貴族などが嫌味を言ってくるのだ。

 そういった意見を封殺すべく、銀狼の群れは、その機動力を駆使して、近々運送業を始めるつもりらしい。

 長距離を馬より早く移動することが出来、それなりに知能も高い彼らにうってつけの職業に違いない。


 フェンリルがそうやって居場所を模索する中、イフリートとノーヴァも忙しそうに帝都を動き回っていた。

 人間では作り出せない高温の“炎”を生み出せる力は重宝されるらしく、とにかく必要とされる場所に、必要な時に赴く仕事を始めたようだ。

 たまに公園で子供たちと遊んでいる姿を見かけるが、それは本人が好きでやっていることらしい。


 残るティタニアとシルフィードは、サーヤと組んで冒険者をはじめていた。

 ニーズヘッグとファフニールも参加しているので、チームは5人だ。

 ティタニア、ニーズヘッグ、ファフニールはサーヤと一緒にいたいし、シルフィードはサーヤに稽古をつけてほしい。

 全員の願望を叶えるには、チームを組むのが一番だったのである。


 とはいえ、四天王を喪失した今、魔王軍はほとんど動いていないし、帝都周辺には大したモンスターもいない。

 元四天王二人に、ドラゴンが二人、サーヤが一人という戦力は、いささか過剰すぎた。

 難易度の高い依頼も早々に解決してしまうと、空いた時間をサーヤはシルフィードとの訓練に費やし、ニーズヘッグとファフニールは地上でへばり、そんな彼女たちの様子をティタニアがのんびり眺める――それが最近の日課になっていた。

 たまに、ティタニアの隣にセレナやレトリーが座っていることもある。


 勇者たちは、ひとまず魔王が動き出すまで待機しているようだ。

 とはいえ、サーヤたちほど穏やかな日々ではなく――彼らは彼らで、ラブコメってたり、夜な夜な部屋からすごい音が聞こえてきたりと、色々苦労しているようだった。


 なにはともあれ、人間とモンスターが共存し、のんびり、まったりと平和に暮らす。

 いつか、誰かが夢に見たような光景が、そこにはあった。




 ◇◇◇




 今日も訓練を終えたサーヤ一行は、何気なく帝都をぶらつく。

 もはやぜんぜん秘密じゃない結社ダークネスの会合も無いので、サーヤは珍しく午後が丸々暇らしい。

 これ幸いと、ティタニアは彼女をデートに誘い――案の定、ニーズヘッグとファフニールとシルフィードもついてきて、今に至るというわけである。

 ちなみに、ティタニアの公式ライバルであるセレナは、ギルド受付の仕事中だ。


「ここ最近、見てて思ったんだけど……ティタニアって、サーヤのこと好きすぎるよね」


 何気なく、シルフィードがティタニアに聞いた。


「はぁ!? そんなの当たり前じゃない、だってサーヤなのよ!?」


 なぜかキレ気味に答えるティタニア。

 彼女はサーヤとしっかりと腕を絡め、密着しながら歩いている。


「きししっ、気持ちはわかるけど、そういうティタニアを見てると何だか面白いねぇ。前のティタニアと言えば、『ウチに触らないでほしいし!』って誰も寄せ付けない感じだったもんなぁ」


「わかる。すごくわかる」


「ニーズヘッグ、あんたも大概でしょうが」


「でもわたしが知ってるティタニアさんは、とってもやさしくて、いい方ですよ? あとサソリモードがすごくかっこいいです!」


「もうダメ、ウチきゅん死にする」


「ティタニア様、それ最近1日に10回ぐらい言ってねーか?」


「それぐらいきゅんきゅんしてんのよ、悪い!?」


「開き直ったよ……」


「わたしもよく聞きますけど、きゅんってどんな感じなんですか?」


「あちしはわかんない!」


「でしょーね。ウチはぁ、胸のあたりが締め付けられて、ぎゅーってなる感じ、かな」


「私も似たようなもの」


「大体一緒だな」


「へー……じゃあわたしが、みなさんとキスしたり、ハグしたりする時といっしょですね!」


 特に恥じらうこともなく、そんなことを言ってのけるサーヤ。

 その時、ティタニアたちに衝撃が走った。


(サーヤはまだ恋愛感情を知らない子供。何も感じてないからこそ、キスとか平気でできると思ってたケド……)


(気づいていないだけで、実は私たちに気がある……?)


(もしかしてご主人様、あたしらのこと好きなのでは?)


 三人分のギラギラとした視線が、一斉にサーヤに向けられる。

 だが当の彼女は、そんなことも知らずに、呑気に「うわー、あの出店で売ってあるお肉、おいしそうですね!」などとはしゃいでいた。


(もしもここで、ウチがサーヤに『それは恋だよ』って教えたら……)


(ご主人様は一気に自分の恋愛感情を自覚するかもしれない)


(でもそうなると、今までみてえにみんな仲良くってわけにはいかなくなる)


(それに、ウチとしては、今のピュアなサーヤとの幸せな日々を続けたい気もするし)


(だけどそうやって待ってたら、いずれ誰かに奪われる)


(確かにそれはそうだケド……ってあんた、何でウチの思考に割り込んでくんのよ!? まさか……テレパシー!?)


(微妙に声に出てるぞ)


(マジで!? うわ、マジだ! 恥ずっ! サーヤに聞かれてないよね!?)


(ご主人様は肉に夢中)


(ふぅ……良かったわ。だけどニーズヘッグの言う通り、いつまでもうかうかしてられないわ。少なくとも身近に、サーヤを性的な意味で狙ってるドラゴンが二体もいるんだから)


(それは私にとっても同じ)


(あたしにとっても、ティタニア様はライバルだぜ?)


(セレナはともかく、事あるごとにいやらしいことをしようとするあんたらなんて、ライバルじゃなくて敵よ、敵っ!)


(そうは言うけど、恋人になればいずれそういうこともする)


(そうそう、あたしらはそれをちょっと前倒ししてるだけだ)


(前倒しすんなつってんの!)


(とか言いながら、ティタニア様も危険なことしてた)


(はぁ? してないし!)


(してたな)


(してた)


(いや、してない……)


(してたよ)


(してる)


(うっ……してた……かも……キスの時、舌を入れようとしてたかも……)


(ほーら、やっぱりしてるじゃんか)


(人のことは言えない)


(でも、それ以上はしてないしっ! ウチはサーヤのこと、本気で、大事にしたいと思ってる! あんたら変態ドラゴンとは違うんですー!)


(だいたい、ティタニア様はあたしらのこと変態って言うけどよお、あたしらはもう何百歳だぞ? 相手が10歳だろうと20歳だろうと、年の差が変わるわけじゃない)


(そう、それに私たちには人間の法律は適用されないから、サーヤは合法)


(合法とか言ってる時点でスレスレなのわかってんじゃん!)


(合法って言葉……何かいいな。背徳感があって、興奮するよな!)


(私もちょうど同じことを考えてた)


(やっぱり変態じゃないのよ……)


 ティタニアとファフニール、ニーズヘッグのドラゴン二人がバチバチと火花を散らす中、


「シルフィードさん、こっちもおいしいですよ!」


「ほんとだな! なあサーヤ、そっちの一口もらえないか?」


「じゃあ交換です。あーんっ」


「あーんっ」


 いつの間にか出店巡りを始めたサーヤとシルフィードは、仲睦まじく料理を頬張っていた。




 ◇◇◇




 サーヤたちが宿に戻ったのは、夕方頃のことだった。

 セレナはすでに帰宅しており、いつもどおりなら、食堂でレトリーとくつろぎながら、サーヤたちの帰りを待っているはずだ。

 だが、今日は様子が違った。

 サーヤが宿の扉をくぐると、一番に目に入ってきたのは、眼鏡を装着した男性の姿。


「キャニスターさんじゃないですか!」


「二週間ぶりだな、サーヤ」


「げっ、鬼畜眼鏡」


「随分と口が悪いな、ロリコンクソ蠍女」


「そっちの方が口は最悪だっつーの! ウチよりよっぽど毒吐いてるし」


 毒使い同士、ティタニアとキャニスターはあまり仲がよくないらしい。

 しかし彼は別に喧嘩をしにきたわけではない。

 キャニスターはサーヤを同じテーブルに手招きすると、腰掛けた彼女に書類を渡した。


「何ですか、この紙は」


「帝都では例年、この時期に建国祭が行われている。今年は余裕が無いので中止になる予定だったが、急遽開催が決定してな」


「いつあるんだ?」


 ファフニールが尋ねると、キャニスターはため息を挟んでから答えた。


「二週間後だ」


「何度聞いても絶望的な数字よね……」


「お嬢の言う通り、思いつきもいいところですよぉ」


 すでにセレナとレトリーは話を聞いていたが、何度聞いても苦笑を抑えられない。


「私も止めたんだがな。帝国を活気づけるとかで、グランマーニュが強行したがっている」


「準備はどうするんですか?」


「軍まで参加して、すでに急ピッチで進められている。だがな、どうしても足りない資材が出てくるわけだ」


「そりゃそうでしょうよ。人間たちの交易路のほとんどはウチらに潰されてるし、帝都だってそんなにヨユーあるわけじゃないみたいだしー」


「その通りだ。だから私は反対したんだが……なぜか陛下は『絶対に成功する』と断言するんだ。何故かわかるか?」


 誰も答えはしないが、視線はサーヤに集中する。


「わたし……ですか?」


 首を傾げながら言うサーヤ。


「そうだ。お前だけではなく、元四天王の連中も使えば、物資はどうにか集まるだろうという計算らしい。いささか平和ボケが過ぎるし、他人任せな計画だとは思うが――どうする、受けるか?」


「わたしががんばれば、お祭りが開かれるってことですか?」


「簡単に言えばそうだな」


「でっかいお祭りなんですか?」


「そうだな、世界最大の祭りとは言われている。もっとも、二週間でどれぐらい準備できるかはわからんが」


「それやったら、みんな元気になりますか?」


「まあ……活気は出るだろうな」


「わかりました。もちろん、受けさせてもらいますっ!」


「……いいのか? まだ報酬の話もしていないんだぞ」


「わたしもお祭りを見てみたいので」


「はぁ……これもグランマーニュの計算通りだろうが、あまり褒められたものではないな」


「まったくだし。あの帝国が10歳の女の子に全部丸投げとかさ」


「丸投げじゃない。あちしたちもがんばるんだろ?」


「そりゃそーだけど……」


「ふっ、受けてくれるのならそれでいい。報酬は、ギルド相場の倍は支払おう。納品された数に応じての支払いになるが、それでいいか?」


「倍って……ちょっと、私たちの商売あがったりなんですけどー」


「セレナとやらか……確かギルドの受付嬢だったか? 安心しろ、他の冒険者にも声をかけてある。しばらくは仕事が暇になるぞ」


「余計に良くないじゃん!」


「よしよしですよ、お嬢」


 レトリーに慰められるセレナ。

 そんなこんなで、サーヤは帝国からの依頼を引き受け、祭りのための資材集めをすることになった。




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