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016 どうしてyouは火山の底に?

 



 ファフニールとニーズヘッグの衣服を手に入れたサーヤは、二人を引き連れてオーレの鍛冶屋へと向かった。


「もう戻ってきたのかよお前!? ありえないだろ……」


「ちゃんと白金剛も持ってる……本当にボルカニオ火山まで行ってきたの? すごいすごいっ! これだけの量があれば、充分に剣は作れるよ。ねっ、お父さん?」


「あ、ああ、そりゃそうだが……」


 想像以上に早い帰りに驚くオーレとパーナス。


「えっへん!」


 褒められていい気になったサーヤは、無い胸を張って自慢げである。


「で、そっちの二人は何者なんだ? 角、生えてるが」


「あたしはファフニール、見ての通り火竜だ! ご主人様に負けて、弟子にしてもらったんだ」


「ニーズヘッグ。ご主人様のしもべ。私もドラゴン。ご主人様の激しい責めに敗北して、奴隷になった」


 誇示するように、スカートの下からはみ出ている太ももほどの太さはあるしっぽを振る二人。

 オーレは本物のドラゴンを目の前にして、白目をむいて気絶しそうになっていた。


「お父さんっ!?」


 慌てて体を支えるパーナス。


「ドラゴン……ドラゴンだと……? 最強クラスのモンスターじゃねえか! そんなもんに勝ったってのか、お前さん!」


「がんばりましたっ!」


「頑張ってどうにかなるもんじゃねえだろ!?」


「なんだぁ、お前。さっきからうちのご主人様にずいぶんな言い草じゃねえか」


「矮小な人間。私たちのご主人様に悪意を向けるのなら、私たちは容赦しない」


「あわわっ、二人とも落ち着いてください! 私の弟子なら、人間を傷つけたりしちゃだめですっ!」


「ちぇっ、ご主人様がそう言うんなら」


「……仕方ない」


「というわけで、二人とも安全で優しい女の子なので、安心してもらってだいじょうぶです!」


「どのあたりが大丈夫なんだよ……」


 二人から殺気立った視線を向けられるオーレはすっかり、怯えてしまっていた。


「まあまあ、とにかく白金剛は手に入ったんだし、早く製作に取り掛かろうよ。サーヤちゃんの力とお父さんのアドバイスがあれば、きっと最高の剣ができるはずだよ!」


「それなんだがな……やっぱり仕上げはオレがやりてえんだ。確かに教えてもある程度の品質は保持できるだろうが、やっぱ素人のお嬢ちゃんが作ったところで、“そこそこ”止まりだと思うんだよな」


「わたしもできればそのほうがいいと思います……ですが、ハンマーや金床がもたないんですよね」


「ああ、だからまずは白金剛でハンマーと金床を作る」


「待ってよお父さん。確かにそれなら耐えられるかもしれないけど、白金剛を加工するにはサーヤちゃんぐらいの力がないと無理なんだよね?」


「白金剛だって鉱物だ。充分に炉の温度を上げれば、オレでも扱えるぐらいの硬さになる。こんなこともあろうかと、買い込んでおいた核があるからな」


 大量のモンスターの核を燃料代わりに使うことで、一時的に炉の温度を数倍にまで引き上げる。

 それがオーレの狙いのようだった。


 自分たちと同じモンスターの核の話をされて、ファフニールとニーズヘッグは嫌な気持ちになっていないかとサーヤは心配し、振り返る。

 だが二人は気にしていない様子で、目が合うと、ファフニールは軽く首をかしげて微笑み、ニーズヘッグは頬に手を当ててなぜか熱い吐息を漏らした。


(さっき胸を押し付けられたとき、どくんどくんって鼓動を感じましたし、他のモンスターとは体が違うんでしょうか)


 そこらへんから生えてくる知能の低い雑魚モンスターと、魔王軍の幹部になるような上位のモンスターでは体の作りどころか、生まれ方も異なるのかもしれない。

 そもそも、それらを同じ“モンスター”としてくくることは正しいことなのだろうか。


「でもお父さん、そんなに温度をあげたら今度は炉がダメになっちゃうよ!」


「なあに、一本作るまでなら耐えられるだろう。それとも、他に温度を上げる方法があるってのか?」


「それは……その……そうだ、サーヤちゃんならどうにかできるんじゃない?」


「そんな都合よく、炉よりも高い温度の炎を生み出すことができるはずが……」


「できるぜ」


「できるのか!?」


「できるんですか、ファフニール?」


「これでも最強の火竜を名乗らせてもらってんだ。シロコンゴーだかなんだが知らねえが、ドロドロに溶かしてやるよ! ひひっ」


 白い歯を見せて、ファフニールは笑った。




 ◇◇◇




 サーヤたちは作業場に移動した。

 まずはサーヤが白金剛を使い、ハンマーと金床を作る。


「ハイハイハイハイハイハイッ! ハイィイッ!」


 気合の入った掛け声とともに、空中に浮かんだ白金剛の塊が形を変えていく。


「ははっ、近くで見ててもやっぱわけわかんねえな! ニーズヘッグもあんな感じでやられたんだろ?」


「私はもっと情熱的で、猛々しい力に包み込まれて、一撃でやられた」


「一撃だったのかよ……」


 二人が話し、オーレとパーナスが口を開いているうちに、道具は完成。

 続けて、サーヤは別の白金剛を拳でざっくり剣の形に変える。

 もちろんプロであるオーレのアドバイスを受けて、ある程度完成形に近づくようにはしているが――まだやはり、“粗さ”が残っている。


 サーヤは未完成の剣を金床の上に乗せた。

 そしてファフニールが、それに手を当てる。


「ドラゴンの姿のときとはちょっと要領が違うが……炎とは星の核也。炎とは命の根源也。海が母なら炎は父。お前がこの世全ての父ならば、この世全てを焼き尽くしてみろ――ブレイジング・ザ・サン!」


 詠唱を挟み、ファフニールの炎のスペルが発動する。

 白金剛に当てられた彼女の腕が燃え盛る炎に包まれ、思わずパーナスが「あづっ!」と言ってしまうほどの熱気が室内を包み込んだ。

 これでも“収束”させてはいるのだ。

 実際、彼女が触れている白金剛の温度は、五桁にも迫ろうかというほどまで熱されていた。

 炉に入れてもうんともすんとも言わなかった白い金属塊は、赤熱しはじめている。


「行ける、行けるぞこれなら! ふんどりゃあぁぁぁああっ!」


 気合の入った掛け声とともに、オーレは白金剛のハンマーを振り下ろす。

 繰り返し繰り返し叩きつけ、散る火花と共にわずかに白金剛内に残った不純物を追い出し、より完璧な刃の形へと近づけるために。

 もちろんそれだけの温度の白金剛を鋏で固定できるはずもないので、熱した流れでファフニールが手で固定していた。


「なんであたしが……」


 不満げだったが、白金剛の温度が下がらないように、炎のスペルを継続発動することで、保温(・・)してくれているようだった。

 だがファフニールが不満なのには、別の理由があった。

 それは白金剛を“溶かす”ことができなかったからだ。


 最初は本気でスペルを使い、白金剛をドロドロに溶かして驚かせる――そして二個目でうまく温度調整をしてみせる。

 そうすることで、サーヤに負けて株が落ち気味の自分に対するフォローをするつもりだったのだ。


(まさかあたしの炎で溶かせない石があるなんて、自信なくしちまうなー)


 心の中でぼやくファフニール。

 確かに、他の鉱石と違ってほぼインゴットの状態で火山に埋まっていたりと、白金剛には謎が多い。

 もっとも、今は誰もが剣を作ることに夢中で、そこまで頭は回っていないが。


「せいっ! せいっ! せぇいっ!」


 掛け声とともに、一心不乱にハンマーを振り下ろすオーレ。

 パーナスはそんな父を、目をキラキラと輝かせながら見つめていた。


「お父さん、頑張れ……っ」


 自然とそんな言葉が漏れる。

 両手はきゅっと強く握られている。

 それは二人が幼い頃に過ごした光景と全く同じであった。

 ただし当時は――まだそこに、母の姿もあったのだが。


『いつかオレが一流の鍛冶師になって、白金剛の剣を見せてやるよ!』


 まだ若かったオーレは、妻と結婚する前、そんな約束を交わしたのだという。

 だが現実は厳しく、白金剛を加工する技術はいつまでも見つからなかった。

 それでもひたむきに鍛冶の道に向き合ってきた父を、パーナスはずっと憧れてきた。

 だが一方で、力になれない自分に歯がゆい思いをしたこともあった。


 だから彼女は、“人の力では加工できない白金剛”をどうにかして加工するため、魔導機械について学ぶことにした。

 しかし、ほどなくして母は死に、間に合わなかった(・・・・・・・・)父は、鍛冶への情熱を失い、酒へ溺れていった。

 それでも腕のいいオーレを冒険者たちは頼ったが、日々やる気を失っていく彼の姿を見て、冒険者たちも少しずつ離れていく。


 店に泥棒が入ったのは、そんなときの出来事だった。

 金も無いため実現不可能だった魔導機械“ブラックスミスⅡ”の設計図を盗まれ、急に出来たライバル店はそれを利用して繁盛しはじめる。

 どれだけ文句を言おうと、世間に公表されたことのない設計図が自分のものだというパーナスの主張は、『証拠がない』と突っぱねられるばかり。

 オーレも、潰れるならそれでもいいと、まともに働こうとはしない。


(見てるか? なあ、白金剛の剣だ! オレの力だけじゃねえが、やっと見せられるぞ。お前に! あの日交わした、約束を――!)


 酒ばかり飲んで怠けてきた体には、もうガタがきている。

 ファフニールのスペルが発する熱と、通常の鉄よりも重い白金剛のハンマーは、容赦なくオーレの体力を奪った。

 しかし、それでも彼は、自らの体のことなど忘れて、体に染み付いた工程をこなしていく。


 頬を伝う透明の雫は、汗なのか涙なのか、本人にもわからなかった――




 ◇◇◇




「できたぞぉーッ!」


 ついに白金剛の剣が完成し、吼えるオーレ。

 時間はすでに深夜である。

 まだ子供なサーヤや、規則正しい外での生活を送ってきたファフニールやニーズヘッグは、店の傍らで三人ひっついて眠っていたが、オーレの声で目を覚ました。


「うわぁ……これが白金剛の剣ですか……! 白くて、キラキラしててっ、すっごくきれいです!」


「だろう? んじゃ早速だが……」


「通行人で試し切り」


「するわけねえだろうが! うちの嫁に報告すんだよ。それぐらいいいだろ?」


「本当は依頼人に真っ先に渡すべきなんだけどね」


「どうせコーンマンさんとの勝負もありますから、報告が先でもいいとおもいますっ」


「ありがてえ。じゃあ早速行くか!」


 よほど待ちきれないのか、真っ先に店を出るオーレ。

 パーナスは苦笑いしながらも、嬉しそうに彼を追いかける。

 そして二人の前に、スーツを着た大柄な男が立ちはだかった。


「行かせませんよ、オーレさん」


「コーンマン、てめえ……勝負は一週間後だったはずだ!」


「ええ、ですがワタクシの準備はすでに済んでいますから。そちらの剣が完成したのなら、すぐさま勝負開始で問題ないでしょう」


「どちらが強いか比べるにしたって、こんな深夜に、一体誰が見てくれるっていうのよ」


「見る? そんな必要はありません。シンプルに、強さを比べたらいいだけなのですから。さあやってしまいなさい、ソードゴーレムよ!」


 ゴガアァァンッ!

 舗装された道を破壊し、地下より現れる、三階建てのアパートメントよりも大きな鉄の巨人。

 両腕に巨大な剣を取り付けたずんぐりむっくりなソードゴーレムは、月明かりを受けて妖しく輝いていた。


「まさかあれは、魔導機械っ!?」


「機械とはかくあるべし。人を越えた力とは、白金剛を加工するためにあるのではありません。それそのものが、破壊のための力なのですから!」


「そんな……私から設計図を盗んだってことは、あんなものを作る技術は無いはずなのに!」


「設計図を盗んだだけじゃ魔導機械は作れねえよ」


「最初からコーンマンさんには、うさんくさい後ろ盾があったってことですね!」


 遅れて店から出てきたサーヤが言った。


「個人じゃなくて、組織で動いてたってことか。あたし、そういうプライドのないやつは嫌いだな」


「汚いし、醜い。ご主人様の目の前に存在するだけですでに罪」


「ふっ、言いたいだけ言うといい。“彼ら”が私を利用しているように、私も“彼ら”を利用しているに過ぎませんがね。さて、それでは力比べといきましょう」


「なっ、まさかこれが勝負だっていうの!? どこが剣なのよ!」


ソード(・・・)ゴーレムと言ったでしょう」


「名前に剣って付いときゃいいと思ってー!」


「ははは、勝てばどうでもいいのですよ! 伸びよキャプチャーアーム!」


 ソードゴーレムの背中から触手が伸び、オーレの腕に絡みつく。


「くっ……なんだこりゃあ!」


「お父さんっ!」


「あぁ、白金剛の剣が奪われてしまいました!」


「さあソードゴーレムよ、そのおもちゃを破壊してしまいなさい!」


 ギギギ――体を軋ませながら、ソードゴーレムは両腕で剣を持ち、それを勢いよく膝に叩きつけた。

 バキィインッ!

 金属が音を立てながら無惨に砕け、破片を飛び散らせる――


「ふははははははっ! あまりにあっけない終わりでしたねぇ!」


「確かにあっけない終わりだったなぁ」


「……は?」


「砕けたの、ゴーレムのほうだから」


 ニーズヘッグが、破損したゴーレムの脚部を指さした。

 コーンマンは、ボロボロにひしゃげたパーツをみて、あんぐりと口を開く。

 ソードゴーレムにとってもそれは予想外の出来事だったのか、「ギ、ギ、ギ」とどこからか機械的な音を出しながら、プルプルと震えていた。


「隙ありっ!」


 パーナスは動作不全を起こしているソードゴーレムに近づき、剣を奪い返す。


「くっ、ならばせめて、その小娘だけでも潰してしまいなさい!」


 ソードゴーレムは大きな動きで、腕部に取り付けられた巨大な剣を、パーナスに叩きつけた。


「パーナス、あぶねえっ!」


「え? きゃああぁぁああっ!」


 ブオオォオンッ!


 空を切り裂く鉄の塊が、無情にも少女に迫る。

 パーナスはとっさに目をつぶって、無意味とは知りながらも握った白金剛の剣を振るった。


 ズシャアァァァアッ!


 そして、白の刃から放たれる、サーヤのエクスカリバーを彷彿とさせる輝く力場――

 刹那、帝都全体は光に包まれた。

 それは地面を蒸発させえぐり取り、ソードゴーレムの鉄の体を軽く切り裂き、貫通してコーンマンの真横を掠め、さらに彼の店の玄関付近を真っ二つにぶった切る。


「は……はへ……っ?」


 ぺたん、と地面に尻もちを付くパーナス。

 そんな彼女に寄り添い、「大丈夫だったか!?」と必死に声をかけるオーレ。

 サーヤは離れた位置からソードゴーレムを破壊しようと構えていたが、その必要すらなかったようだ。


 完全に動かなくなったソードゴーレムが、ズシンと地面に倒れる。

 同時に、コーンマンも膝からへたり込み、ギギギ……と壊れた機械人形のように、パーナスのほうを見た。

 しかし彼の視線が向けられたのは彼女自身にではない、握られた剣に対してである。


「なんですか……今の、光は……まるで神器ではないですか……!」


 コーンマンもエクスカリバーの本物を見たことがあるわけではない。

 しかし、“そういう力がある”という話は聞いたことがあった。


 オーレもパーナスの無事を確かめると、自らが打った剣を見つめる。


(オレが作ったから……? いや違う、そんなわけがねえ。今の力は、白金剛に秘められてたって可能性もあるが――それだけじゃねえ)


 そして、サーヤに視線を移した。


(あの嬢ちゃんだ。あの嬢ちゃんが振るった拳に込められていた力。あれに、なにか(・・・)が宿ってやがったんだ……!)


 それは鍛冶師としての勘であった。

 保証は無い。

 だが時にそれは、“説明できないもの”を“理解”するのに役に立つ。

 今がそういう瞬間なのだと、オーレは理解した。


 ほどなくして、大きな音と光に導かれ、寝静まった町にちらほらと人の姿が見え始める。

 やがて帝国軍の衛兵も呼ばれ、ソードゴーレムの持ち主であるコーンマンは連れて行かれた。

 念のためとっさに隠した白金剛の剣は見つけられず、軽く事情を聞かれて、サーヤたち五人はすぐに解放されたのだった。




 ◇◇◇




 帝都でそんな騒動が起きている頃、ボルカニオ火山の地下深くにて――


「オイ、起きロ、イフリート! 頼むカラ目を覚ましてクレ、オレのダチなんだロォ! だっタラ寂しい思いをさせんじゃネーヨォ!」


 ノーヴァは、気絶したイフリートに必死に話しかけていた。

 彼がそんなヤワな存在でないことは、ノーヴァは重々承知している。

 だから必ず目を覚ますだろう――そう確信はしていたが、心配なものでは心配であった。

 大きな瞳に涙をたたえて呼びかけるノーヴァ。


「う……ううん……」


 その声のおかげだろうか、ようやくイフリートは目を覚まして、体を起こした。


「ここは……」


「イフリート! 心配したゾ! オレ、このままイフリートが目を覚まさなかったらどうしようッテ!」


「ガハハハハ! 心配性だなノーヴァは。このオレ様が高い場所から落ちただけで死ぬはずがないだろう!」


「ギャハハハハハ! それもそうダナ! 心配しすぎだったナ! でも目を覚ましてくれて嬉しいゾ、イフリート!」


「オレ様も心配されて嬉しいぞ、礼を言う」


 イフリートがノーヴァに向けて親指を立てると、ノーヴァはハイタッチするように赤い翼をその親指に当てた。


「ところでノーヴァよ、ここはどこだ?」


「わかんネエ、たぶん火山の地下だとは思うんダガ……」


「ボルカニオ火山には、まださらに奥があったということか。確かに、白金剛が埋まっていたりと謎の多い場所ではあったからな」


「つまり、ここにシロコンゴーの元になるモノがあるってこトカ?」


「オレ様の推理が正しければな」


「イフリート……なんか今のセリフ、スッゲー名探偵っぽかっタゾ! 知能派を極めちまったんじゃねエカ!?」


「かもしれんな。そしてさらにオレ様の推理が正しければ――」


「正しけレバ……?」


「白金剛が埋まってる原因は、アレだな」


 イフリートは、ノーヴァの背後を指さした。

 すると岩の壁に埋め込まれるようにして、20メートルほどの、白い巨人が立っている。


「なんだこれハッ!」


「ずっと後ろにあったぞ」


「イフリートを心配しすぎたセイで全然気づいてなかっタ!」


「ふっ、つまり優しさゆえにということか。さすがだノーヴァ、それでこそ我が友というもの!」


「そこをドジと言わないお前も優しイナ!」


「ガハハハハハ! オレ様たちは優しいコンビだからな! 強さも頭脳も優しさも魔王軍ナンバーワンだ!」


「ギャハハハハハハ! 違いネエ! 違いネエ!」


 ゴゴゴ……。

 二人が愉快に話していると、急に地面が揺れ、天井からパラパラと小石が落ちてくる。


「な……なあイフリート」


「どうしたノーヴァ」


「今、この巨人……動かなかったカ?」


「奇遇だなノーヴァ。オレ様にもそう見えた」


『ウオォォオオオオオン……』


 腹の底に響くような、不気味な鳴き声が洞窟に響き渡る。


「なあイフリート」


「奇遇だなノーヴァ。オレ様にも聞こえた」


「まだ何も言ってねーゾ! でもそのとおりだ、よくオレの心がわかったナ、さすがイフリートだナ!」


「ガハハハッ、褒めても炎ぐらいしか出ないぞ! ところでノーヴァよ」


「どうしたイフリート」


「あいつ、壁から出てこようとしているように見えるのだが」


「奇遇だなイフリート、オレもそう思ってルゾ」


「頭脳派なオレ様の、知性に満ちた脳がこう告げているんだ。『逃げたほうがいいぞ』と」


「奇遇だなイフリート、オレの脳もそう言ってる!」


「だがオレ様は四天王のイフリート。この最強の炎があれば、いかなる巨人とて恐ろしくはない!」


「よぉシ、イフリート見せてヤレ! 最強の火竜と言われたファフニールよりモ、さらにキョーレツな炎ってやつヲ!」


 ノーヴァの期待に、イフリートのやる気が燃え盛る。


「炎、それはすなわち全ての目覚め!」


 イフリートは右手を前にかざし、スペルの詠唱を始める。


「響け、轟け、宇宙の果てまで! そして聞け、あまねく命よ!」


 続けて左手をかざす。


「これこそが、新たなる世界の誕生を告げる爆轟也!」


 両手の間で、途方もない量の魔力が熱量へと変換され、渦巻いた。


「ビッグバン・ブレイザアァァァァァアアッ!」


 そして――叫びと同時に放たれる。

 それはファフニールが白金剛に向けて放ったスペル、それを威力と温度そのままで、範囲を広げた強烈なスペル。

 いかなる金属の体とて、このスペルの前には溶ける以外の行為は許されない。


 着弾。

 爆裂。

 炎上、溶解、蒸発――その煙が晴れるとき、ありとあらゆる物質はその存在を許可されない――はずであった。


『ウオォォオオオオオオンッ!』


 しかし巨人は、健在を主張するように咆哮した。

 そして音の波動に煙は吹き飛ばされ、無傷の体が大股でイフリートとノーヴァに迫る。


「ノーヴァよ……オレ様は頭脳派だから、こういう言葉を知っているぞ」


「こんな時だからこそ聞かせてくレヨ、イフリート」


「三十六計逃げるに如かず、だ! うおぉおおおおおおお!」


「ぬおぉおおおおおおおおっ!」


 イフリートは全力で走り、ノーヴァは全力で翼をはためかせる。

 巨人とスピードの差はほとんど無い。

 だが、この洞窟は一体どこまで続いているのか。

 そしていつまで全力で逃げ続ければいいのか――そんなことを考える余裕すらなく、二人は暗く蒸し暑い地下空洞を走り続けた。




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