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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
4.後半戦

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番外編「 異世界に来た野球おねえちゃん」7-2

「なんか、薬の試飲やってるみたいだよ?すみませーん、あたしもいいですかぁ」


 野々香が見つけたのは、どうやら"竜の秘薬"と言うアイテムの試飲販売のようだ。

 こっちの世界で言うチャイナドレス風の衣装に身を包んだ女性が、小さい露店を構えて通行人に売り込みをかけている。


「えっ?今ならチャンスでもう一つ貰える?二箱?二箱!?」


 シーナにべったりと思えば今度は良くわからない露店販売にさらっと釣られて移動していく野々香。学駆の制止も聞かずに女性に声をかけていた。

 あらゆることを満喫できる精神は、学駆もアリサも羨ましい限りだが。

 しかし、こちらの世界での薬がどういうものかは、一行も興味はある。

 もし戦闘で命を繋ぐような品であれば、見ておきたいものだ。


「はいー、こちら"霊峰・竜山"にて取れる竜の力を持つ強壮剤よ」

「りゅ、竜!?竜いるの、ドラゴン!?」

「はいー、おりますよ。私達は薬の素材をいただくだけですが、冒険者には力試しをしてくれるそうよ」


 竜がおります。と言う女性の言葉に、学駆とアリサも少し耳が動く。

 異世界といえば竜。ファンタジーといえば竜。コメ騒動といえば竜。

 誰もが憧れるし、もし異世界に行く機会があれば、一度は見てみたいと思う存在だろう。

 それが実在するという。


「ドラゴンさんがクエスト出来るの、行きたすぎじゃない?」

「ごめん学駆さん、こればっかはうちも野々香さんに賛成」

「安心しろアリサ、俺もドラゴンって言われたら見たいわ。シーナは?」

「僕も、本当に存在するなら見てみたいな、とは……」


 4人の意見は完全に一致。

 憧れみたいなものだ、無理もない。

 情報料代わりに丸薬型の"竜の秘薬"を1箱購入すると、一行は竜山の場所を女性に教わり、そわそわうきうきしながら旅支度を整えるのであった。

 ただ、案の定、秘薬はやたらと高かった。



 道のりがわかっても、危険性に関しては細心の注意を払うべき。

 そんな学駆の意見で、竜に関しての情報を、またまたギルドや酒場を利用して聞いて回っていった。


 野々香の金髪効果か、シーナと言う新たな美少女の出現効果か、ゴキゲンなおっさん達が口を滑らせてくれる。

 まぁ、比率で言うとシーナ効果が高かった様に見えるが、それに関しては「シーナが可愛いのはあたしも完全同意だし」と野々香本人が勝手に喜んでいるので、問題なし。


 何度も行っているうちにアリサが人気キャラになりすぎたり、何故かピアノがうまくなったりして、最近は音楽界の偉いおじさんに気に入られて絡まれているのが少し気がかりだが。


 そして、一行は竜山へと向かっている。

 聞くところによると竜は、魔王も手出しできないほどの実力を持ちながら理性的で、無闇に人間を襲わないらしい。


 中立の立場を保ちつつ、尋ね来る者とちゃんと交流し、気に入ってもらえれば協力的であるそうな。

 そんなボーナスステージみたいな場所に夢のドラゴンさんがおわすのに向かう者がいないのは何故か。

 それは、実力試しで戦闘することが多いからで、生半可な冒険者はビビって近寄らない、とか。


 街で売っていた強壮剤も、竜が落とす鱗の破片などを煎じると出来る、漢方の様なものらしい。

 露店の女性も、それを採取しているだけで、直に竜に会うことはないそうだ。


「けど、この情報が流れている以上、無闇に命は取られないってことになるよな」

 と、学駆は多角的に判断する。


「え、なんで?」

 野々香は当然のごとくピンと来ない顔。見ればアリサも表情がいまいちだ。


「戦闘することが多いのに、人を襲わず理性的、という情報が出ている。その時点で、生還者が複数名いて、情報に整合性が取れている……と言うことになりますね」

「やるなシーナ、その通り」

 唯一理解したシーナに、学駆が感心している。わからん二人組も、それで納得した様子だった。


「なるほど、あれだ、あー、製図用コンパスってやつ」

「生存バイアスとか言いたかった?」


 納得した感出してただけでわかっていない野々香には、とりあえず頭が痛いポーズ。


「いま改めて、俺もシーナにずっと仲間にいてほしい気持ちになった」

「ちょっと学駆、何すか、浮気っすか。シーナちゃんはあたしんだぞ」

「ののちゃん、そっち?」

 方向性が迷子な嫉妬でシーナにしがみつく野々香だが、学駆は真横にいる野々香に聞こえるのも構わず、


「ちゃんと建設的な意見交換が出来て頭が回せる奴が、俺はずっと欲しかったんだ。残念ながらこれはだめだ」

 ため息まじりに言い放った。


「あはは……」

「うおっ、シーナちゃんが笑った!笑顔も可愛い、僕らのステキ。やっぱあたしのだから学駆にはやらん」

「ほら、だめだろう」


 笑った、と言っても苦笑いのシーナに、大袈裟な反応を示す野々香。

 何を取り合っているのかすらだんだんわからなくなるやり取りをしつつ、一行は先へ進んで行った。




「ほう、じかに来客とは珍しい」

 険しい山の中、やや熱を帯びた空気のある洞穴の奥。


 そこに、大きな竜がいた。

 体長は5~6メートルというところか。緑の鱗に包まれた硬い皮膚、長い胴体に長い尻尾と翼を持ち、四つ足で佇む姿はまさにファンタジーの竜そのもの。


 吐息から感じる熱は、ともすれば人を焼き払えそうな圧を感じる。

 低音で脳に響くような声、しかしやけに面白そうな口調で、それは呟いた。

 正面から見下ろされた四人は、それだけで圧倒されてしまう。


「ぎゃ」

 思わず、野々香が何かを言いかける。

 ……学駆は瞬時に理解した。これだめだ。


「ギャルのパンティおく」

「止めろぉー!」


 さすがに学駆の反応が早い。野々香が言い切る前に雄叫びでかき消しながらデコピンが炸裂。

 学駆が見ればアリサも、後ろから頬を両手でぐっと抑えて発言を防いでいた。


「ののちゃん、正直言うと思った」

「ふぉえん(ごめん)」

 盗むスキルで盗って押し付けてやろうか、と学駆は一瞬思ったが、自重した。


「この野々香を不労所得にしろー、とかのが良かったかな。メデメデメーデー」

「まず願いを叶えて貰いに来たんじゃないよ、ののちゃん」

「はっ、そだった」


 竜の前でもバタバタをかます野々香たちを見て、しかし竜はまた満足気な声で言う。

「旅の者か。楽しそうで、良いではないか」

 話に聞いた通り、その言葉に敵意はない。むしろ、好意すら感じられる。


「暇をしていてな、私の"試し"に付き合ってくれたら、新たな力を授けてやるぞ」

 それが本当なら願ってもいないことだ。しかし、明らかに強大な力を持つ存在である竜に、簡単に頷くわけにはいかない。

 実質、試しに死んでみようか、でもおかしくはない。


「あなたは、どうしてこのような生活を?」

 ふと、前に出て尋ねたのは、学駆ではなくシーナだった。自分以外に必要な質疑を進められる人間がいる、その事実に学駆は横で少し感動している。


「強大な力をお持ちなのは見てわかります。しかし、魔王側……魔物に属する立場の方と推測します。失礼ながら、その好意的な態度に、力の弱い人間としては畏怖を感じざるを得ません。本当に実力試しをしていただけるなら、願ってもいないことですが」

 きちんと理屈を固め、勇気を持って竜に語りかけるシーナに、一行だけでなく竜の方も、さらに興味深い声で言葉を返す。


「はっはっは、聡明なお嬢さんだ。簡単な事だよ、おぬしらにも伝わると思うぞ」

 竜が、笑った。

 珍しいものを見られている感動と、力ある者の底知れぬ不気味さに四人は少したじろいた。

 しかし。


「王も魔王もなんというか……アレなものでな」

 急に緊張感が吹き飛ぶ、しかし説得力の強い一言が耳を突き抜けた。


「馬鹿と馬鹿が馬鹿をやっとるのに、わざわざ関わりたくないのだよ」

 あ、この竜さんいいひとだ。一行は瞬時にそう確信した。

 いや、違った、いい竜だった。


 表情、と言うものまでは読めないが、その口ぶりで何となくわかる。賢明なものだからこそ生まれる「付き合いきれない」と言う嘆きだった。

 聞けば竜は魔王も易々と攻められないほどの実力があるらしい。よってどちらにも従えられない。


「ここにいて気ままに過ごしながら、訪れる勇気ある者に力を与え、その者らが世をわずかでも正していければ……そんなところだ」

「そういう事なら、よろしくお願いしたいです!」

 野々香が率先して手を挙げた。


 恐らく竜を信じることにしたのは単なる勘だが、野々香の勘は割と当たる。特に、善悪や真偽に関するものは。

「ならば。……これは勝負ではない、試しだ。勝負なら私には勝てん。私が満足するまで、戦い抜いて見せろ。……行くぞ」


 竜の試練が、始まる。

異世界番外編、シーナ絡みのお話からは少し長くなってしまいました。

80話の後にまた続きを書きます。

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― 新着の感想 ―
「コメ騒動といえば竜」 昨今米の価格が高騰している中、時代を先取りした事件でしたね。 日本人は年間100回以上『竜』を見ることができて恵まれていると思います。
 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 番外編7-2」拝読致しました。  竜の秘薬の試飲販売。危ない香りがするんですけど。  でも、こういう世界だから、スゴイ効果がある…
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