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異世界帰りの野球おねえちゃん  作者: 日曜の例の人
3.前半戦

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番外編「 異世界に来た野球おねえちゃん」4-1

「数日だけ、報告義務を免除します」


 定期的に押し付けられている「きょうはげんきにがんばりました」と言いに行くだけの無駄な報告。

 露骨に嫌な顔をしながら済ませると、ワイルドピッチ王から意外な一言が出た。


 いや、ここで意外と優しい所が……とか、心変わりしたんですね!とか、純情な感情が伝わったのね!とか思ってはいけない。


 どうせ、出張行かされて城に帰れないからとかのクソみたいな理由なんだろうな。

 学駆も野々香も、ほぼそれを確信していた。


「西の森の魔物が狂暴で、しかも多数出現したのでね。君たちには野営で討伐任務に当たって貰いますんでね」

 ほらぁ。

 一行は、げんなりした顔を見合わせてため息をついた。


「免除」とか、いかにも喜んでいいんだよ?みたいな言い方する時点で、この手のおっさんは爆弾投下する気まんまんなのだ。


「小学生の頃さぁ、林間学校ってイベントがあってね」

 夜の森の中。王都の西側に位置する場所。


 "野営任務"と称された王様からの無茶振りは、ウェアウルフと言う名のウルフの上位種の討伐。

 上位種と言っても、動きが素早く狂暴であること以外は基本狼なので、火に弱いらしい。

 今回の任務はそうして野営をしながら、3日間、可能な限りウェアウルフを減らして来る、と言うもの。


 野々香たち以外の冒険者や自称勇者たちも駆り出されたので、装備も準備もない一行でもやれなくはなかった。

 アリサのファイヤーボールなら確実に一撃だし、野々香のイ・ウィステリア・フラッシュも正確に当てれば充分倒せる相手だ。


 しかし今回の問題点は、"3日間、可能な限り"この点である。

 要するに討伐の標的や目標数などがない、大雑把に数を減らして来いと言うものなのだ。……すなわち、3日間は確定拘束時間。この森の中に寝泊まりして、帰って来るなと言うことなのだ。


 わぁい、林間学校だぁ。うれしいなぁ。

 ってなるかボケ!アホ!クソ王!


 となった一行だが、単なる経験稼ぎだと思う事にして、どうにか初日の討伐を無事遂行した野々香たちは、夜の狼除けのために火を焚き、美味しくもない保存食を食べながらやっとひと息ついたところ。


 そこで野々香が、火の中に薪をくべながらぼんやりと話しだした。


「林間学校……あぁ、森の中で自然と触れながら泊まりで行くあれな」

「あれでテンションが上がり過ぎちゃってさ、夜のキャンプファイヤーで燃やせェ燃やせェ怒りを燃やせェって言いながら踊り狂って、ノリノリで足元の枝をポイポイ放り投げてたら、火がシャレにならない感じになりまして」


「どうしてだろう、10年くらい前の話だろうに、出会ったばかりのうちでも簡単に想像がつく」

「それはどれだけ季節が変わっても出会った頃のように色あせない女、燃える女ナツコと言う意味だねアリサちゃん」

「違うよののちゃん」

「薪ポイポイ放り込みながらそれ言うの怖いからやめてくんない?俺ホムラなんとかビトみたいになんのやだよ?」


 学駆が出会った高校生の時点でもまぁまぁにアホガールだった野々香だが、それ以前の思い出となれば想像を絶するものになるだろう。

 こちらの世界に来てから、彼女はさらにパワフルに生まれ変わってしまったので、野営に絡む力仕事……薪集めに薪割り、焚き火組みに火付けなども手伝って貰った。


 本人も曰く、体力がグングン伸びているので大丈夫、出来る事を出来る人がやるのに男子も女子も関係ない。とのことで。


 妙に高い声で「コンニチハ」と言いながら火にマツボックリを放り込んで、野営食をビール(の振りしてるだけの水)で流し込む素振りしながらうまぁーい!とか言ってるうちは微笑ましいものだったが。


「そこで案の定、あたしは先生から怒られまして」

「案の定って思うんならやめときなよ」

「いやぁ怒られちゃったよぉ、って友達に笑いながら話したら友達が言うんですよ。え?先生ならさっき体調不良の子を宿舎に送って行ったから今はいないよ?って……」

「急に真夏の怪談に切り替えるのやめてもらえる?」

「ちょっとちょっとちょっと、ののちゃんやめてよ、眠れなくなるじゃん。狼だって怖いってのに」


 あまりの不意打ちにアリサがすっかり怖がって耳を塞いでいる。


「だいじょーぶ、火さえ焚いてればひとまず狼は寄って来ないし、そうだ。せっかくだし人狼ゲームやろうよ!学駆は初日に殺される人ね」

「3人でそのルールだと初日に滅ぶんだよなぁ村」

「月を壊せばなんとかなるよ」

「立て続けに違う話に切り替えないでもらえます?」

「へへー、いやぁちょっと林間学校思い出してさ、楽しいんだもん。シャイニーデイズなんだもん」


 野々香はいつにも増して饒舌にはしゃいでいる。

 もちろんこれは大変な任務の中ではあるが、こういう非日常はやはりテンションが上がるものだ。

 その日の夜は、三人で談笑しながら、のんびりした時間を過ごした。


 ……夜までは。



「ね、眠い……」

「見張りが必要なキャンプって……超しんどいな……」

「は、話相手がいなくなってからの辛さが半端ない……」


 初日終了時点で既に、睡眠不足によるエネルギー切れが三人を襲った。

 ウェアウルフは火を嫌う。逆に言えば、火は付いていないと危険なのである。

 そもそも火がなければ魔物避けも出来ない、明かりもない、寒いと三拍子そろった地獄だ。


「そういやお父さんが昔ソロキャンプにハマって、ノリで薪ストーブを試したんだけど、ソロだと寝たら薪くべる人がいなくなって極寒地獄だったって言ってたわ」

 と、これは野々香が語る昌勇(まさとし)の思い出話。父、ろくな思い出がない。


 よって、火の番兼見張り番が必須となり、三人は交代で数時間ずつ、夜中に起きて周囲に注意を払う事になった。

 これが、現代に慣れた人間にはめちゃくちゃしんどい。ゲームもない、スマホもない。そんな場所でじっと火を見つめながらただただ数時間を過ごす。


 単にぼーっとしていれば良い、とかならそれもキャンプの醍醐味と考えられなくもないが、危険と隣り合わせとなれば緊張感を失うわけにはいかない。ゆえにかかる負荷は想像以上のものだった。シャイニーデイズさん息してない。

 早くも三人はほのかな眠気に襲われながら任務に当たる事となる。


 これが、3日続くとなると、しんどいなんてものではなかった。


 食料もしょぼい携帯食しかない。

 街へ買い出しになどと言う余裕はいくら何でもないし、いつも通り仕事をしているかのチェックに人を割くと言うクソ効率な王様によって、街の西門には見張りが立てられている。


 何故か帰ろうとしたら怒られるらしい。実際にキツくなって帰ろうとした他の冒険者が言っていた。


 そこに立て続けの戦闘、そして夜は見張りの負荷に晒されながら半端な睡眠しかとれず。2日まではかろうじて耐えきったが、3日目はもうすっかりグロッキーだ。


「今日の夕方まで……頑張れば……終わりだよね」

「夕方まで頑張った後、城で報告をして、終わりだな」

「うわぁ。城、超行きたくない」


 確認する野々香と学駆に、アリサが露骨に嫌な顔をした。

「超行きたくないね」「超行きたくねぇわ」と、二人も完全に同意であった。


 それでもどうにかウェアウルフを3体討伐。

 唯一良かった点は、経験値とステータスの上昇具合だけはとても良かった事だ。

 おかげで野々香のSTRとVITがガンガン伸びている。全員しんどい中、彼女の体力が上昇しているおかげでかろうじて戦い抜けていた。


「さて……来たぞ、おそらく最後の2匹が」

 時間もやっと昼を過ぎて夕方近くなる頃。帰り道を歩みながら、それを阻む様に出現したウェアウルフ2体に、学駆たちは身構えた。


「アリサ、まだ今日はファイヤーボール使ってないよな。2発で、何とか仕留められないか」

「OK、野々香さんも魔力きついだろうし、二人で上手く動きを止めて。うちが倒すよ」


 そもそも2人の武器はまだ銅剣だ。頑張れば倒せるが、いちいちトドメに使える武器でもない。

 よって、基本トドメは魔法に任せていた。前回2発で魔力切れしたアリサだが、その2発をこの2匹に使えば、任務完了だ。


「ファイヤーボールっ!」

 剣で狼の攻撃をしのぎつつ、アリサの声が聴こえたのを確認すると野々香は剣を支えにくるっと回転。

 狼の脇腹に蹴りを打ち込み怯ませると、そこにいつもより大きめの火球が着弾。まずは1匹が絶命した。


「えっ……あれっ?」

 ところが。


 たった1発打っただけのアリサがよろけて、その場にへたりこんだ。

 この状況はもうわかっている、魔力切れ。

 まさか、たったの1発で?


「そうか、睡眠不足……?」


 充分な睡眠が取れてなければ魔力も回復しきらない。そのため、2発目が打てないのだ。

 瞬時に察した学駆は、その場で戦術を切り替える。


「こっちだ、狼野郎」

 敢えてアリサと逆の方向へ跳躍しながら、狼に向かって枝を投擲するなど、注意を引いている。

 戦略は崩れたが、一匹だ。学駆はその場で攻撃を回避しながら狼を足止めすると、


「野々香っ、ぶっ叩け!」

「おうっ、ぶっ叩く!」


 視界に入らない後方から全力で振り下ろした銅剣が、ウェアウルフを叩き潰した。

 ……割とシャレにならないくらい潰れていた。どんだけパワーアップしてんだよ、こえーよこの女。

 ハイタッチをしながら、学駆は少しだけそう思った。



「魔力制御が出来ない?」


 地獄の野営任務からの地獄の報告業務を終えて、やっと布団で熟睡出来た学駆たち。

 翌朝、やっとありつけた暖かい朝食を半泣きで噛みしめながら、アリサがそう切り出した。


 野々香がうめ、うめ、とか言いながらずっとパンやスープを口に放り込んでいるが、聞いていると思っておく。前言撤回、どうせ理解出来ないから聞いてなくてもいいや。


「うん……なんか、うちの祝福は"炎"なんだけど……放出量が上手くコントロール出来ないんだ」


 魔法には基本、消費魔力や威力も一定の基準があるらしい。野々香の場合はアリサほど威力があるわけではないが、代わりに確実に3~4発は打つことが可能だった。


 しかし、アリサの"炎の祝福"はその基準を飛び越える事が出来る。その気になれば一撃で魔力の全てを解き放つ事も出来るのだ。

 ……それが制御出来れば便利なのだが、今のアリサにはそれが出来ない。

 魔力が回復していなかったのでなく、睡眠不足による集中力の欠如で、一撃に全魔力を込めてしまった……と言うのが、魔力切れの顛末らしい。


「……言いにくいことなんだが」

「……いいよ学駆さん、遠慮なく言って」

「使いづらっ」

「ですよね」


 いつか強敵等に出会った時、この能力は必殺技になり得る。しかし、雑魚を何匹も倒して行く、そういう冒険中にはあまりに不向きだ。

 この制御方法も、今のアリサには見当が付かないらしい。これでは魔術師としては、あまりにピーキー過ぎる。


「んで、幸いうち、STR……力は結構あるみたいなんだ」

 どうするか、と学駆が考え出したところに、アリサは自身のパラメーターを確認しながら、言った。


「だから、武器の練習しようかと思う。魔法なしでも、少しは戦える様にしないとだからね」


 こうして、一行の依頼報酬の使い道と、次の行動指針が決まった。

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 日曜の例の人さん、こんにちは。 「異世界帰りの野球おねえちゃん 番外編「 異世界に来た野球おねえちゃん」4-1」拝読致しました。  そうか、番外編の時期なんですね。あっというまですね。  数日だ…
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