1-25 ありきたりな伝説を目指して
モルルは冒険者の女の子である。
冒険者とは世界を巡り主神たるハヴォスより受けた祝福を人の為に振るう者らの総称。
故郷の村を飛び出して、モルルとその幼馴染達は冒険者として名を上げる為に旅をしている。
その旅の最中、モルルはとある二つ名を得た。
[人類戦略兵器]
もちろん本人は不本意だけれど、二つ名を冠す冒険者なんてそう多くない。これだって立派な一歩。
伝説に至る旅路はまだまだ長いけど、いつかは。
主神たるハヴォス様へ祈りを捧げる。
教会には聖なる気が満ちていて。
私達四人の成人を祝福してくれている、気がする。
だって今日は成人の儀。
主神様から祝福を与えられるんだから。
「クルス。前に出なさい」
一人目は、クルス。昔からガキ大将なのは治らなかったけど、実は人一倍人情に厚いリーダー。
「クルスの祝福は筋力と耐久が高く前衛向きじゃな。スキルは[片手剣術][片手盾術][不屈耐久]の三つとクルスには良く似合っておる。これからも皆の事を守ってやるのじゃぞ」
「おう神父サマ!主神サマの名に恥ねえ戦いをするぜ!」
「その意気じゃ。では次は、ナイプ」
二人目は、ナイプ。物静かだけれど1番頭が良くて、すばしっこい。たまにイジワルしてくるのは、嫌だけど。
「ふむ……ナイプの祝福は敏捷と精神、次いで幸運が高いと少し変わっておる。スキルも[投擲戦術][高速移動][環境探索]の三つ。斥候が向いておるのかとは思うが……」
「素晴らしい祝福です。少し引いた位置から敵を把握し牽制して皆を助けられるのですから。主神様、感謝します」
「そうじゃな。ナイプならば卒なく熟せるじゃろう。次は、ナオ」
三人目は、ナオ。読書が好きな女の子。引っ込み思案で小動物みたいな子だけれど、怒らせるとすごく怖い。クルスが勝手にお菓子を食べた時なんて、恐ろしくて思い出したくない。
「ナオは……ほう。魔力と精神が高い上に[治癒魔法][高速詠唱][魔力充填]の三つを持っておる。これならば怪我をしやすい主の友人を大層癒してやれるじゃろう。よい祝福をもらえよかったの」
「はいっ……よかった。みんなと旅に出て、世界を見てまわるの……ずぅっと、すっごく、楽しみだったから」
そして、最後の四人目。
「──モルル。前に」
神父様に呼ばれ前に出る。
祭壇へ跪いて祈りを捧ぐ。
「我らが天より見守りし 主神なるや全能のハヴォス様 この者にあなた様の祝福のあらんことを──!」
すぅ〜っと何かが私に流れ込んで、体を巡り始める。力が溢れてやる気が満ちていて、本当に強くなったんだと実感できる。
「モルルの祝福は魔力が大層高い。そして筋力が次いで大きく高いの」
まるで魔法戦士みたい。けど私は足も速くないし、身体は強くないはず。前衛になるには向いてないはずなのに。
「そしてスキルは[筋力強化]と[魔力放出]と──」
筋力強化は筋力値の上昇スキル。魔力放出も魔力値の上昇スキル。たしか魔力は身体強化に使えると読んだことがあるけれど、前に出ないといけないのはやっぱり……
「──[迫撃魔法]」
…………?
「神父様。私、冒険者に憧れて色々なスキルを調べた事があります。けど、[迫撃魔法]なんてスキルは見たことがありません。神父様は知っていますか?」
「すまぬが儂も存じ上げぬスキルじゃ。自分の目でも確認すると良い」
「わかりました」
神父様に促されるまま自分の祝福を確認する。
――
個体名:モルル
筋力:24+
耐久:13
敏捷:17
魔力:33+
精神:16
幸運:14
スキル
[筋力強化:21][魔力放出:23][迫撃魔法:EX]
――
「なにこれ」
魔力がべらぼうに高くて現役の魔法使い並み。けどそれ以上に目を引くのは[迫撃魔法:EX]。祝福も、スキルも、数字で強さが表現されるのにこれは文字で表されている。訳がわからない。
「神に愛されておる者は、ユニークスキルという前例のないスキルを戴くと聞く。つまりモルルも、神に深く愛されているのじゃろう」
愛されて、いる……そっか。
「よかったな」
「毎日欠かさずお祈りしていましたからね」
「おめでとう、モルルちゃん」
「やっったぁぁ〜っ!!」
早速外に出て、[迫撃魔法]を試してみよう──
〜〜〜〜〜
「懐かしい夢を見た……ふぁぁ」
「モルルちゃん、朝ごはんできてるよ」
「ありがとナオ。二人は?」
「今から叩き起こすところだよ」
私たちは今、城塞前線都市[フォート]にいる。ここは隣の不浄魔瘴大地[タルロス]から人類領域へと侵攻してくる集団魔物暴走を抑えるために築かれた、謂わば人類の最前線。
故郷の村から飛び出した私も、今や20歳。成人の儀が5年前だって思うと、私達のパーティーも腐れ縁だって思うよ。ナオの作るごはんにすっかり胃袋を握られちゃった。
『おきろ〜っ!!』
「「痛〜〜っ!?」」
寝坊気味な二人がナオに叩き起こされるのも耳に馴染んで驚くことはない。シチューに黒パンを漬けてうまうま。
「早く座って食べて。冷めたら美味しくなくなるから」
「叩くなって、起きてるからよ……」
「騒がれると逆に目覚めが悪くなります」
「なら、叩かれないよう早くに起きればいいのに。二人とも毎日酒を飲んで寝るから遅くなるんだよ。私みたいに健康に生きな」
私は8時間きちんと寝てる。ぶいぶーい。
「うるせえ 男にゃ酒は水なんだよ」
「僕はクルスに付き合わされただけ」
「はいはい。私は散歩してくるから言い訳は後で」
「ギルドで待ってるね!」
手を振るナオに二人の世話を押し付けて外に出る。
雲一つない青空の下、レンガの建屋が並ぶ石畳の通りを歩いていると色んな人と会う。
露天鍛冶屋のおじさん。
「よう[人間戦略兵器]の嬢ちゃん。今日も頑張ってくれよ!」
「ありがと〜」
パン屋のおばさん。
「[人間戦略兵器]ちゃんこれ持っていきな!あんたの魔法カッコいいんだから、もっと食って元気出し!」
「うん、もらってく」
近所の子供。
[[人間戦略兵器]の姉ちゃんって強いの?」
「そりゃあ強いよ。派手に魔物たちを吹き飛ばせちゃうんだから」
他にも色々な人々。
「[人間戦略兵器]さん」
「[人間戦略兵器]君」
「[人間戦略兵器]様」
「──ねぇ」
確かに私は強い。強くなったけど。
「もう少しカッコいい二つ名にならなかったのかなぁ〜っ!?」
――
個体名:モルル
二つ名:人間戦略兵器
筋力:41+
耐久:15
敏捷:18
魔力:42+
精神:16
幸運:16
スキル
[筋力強化:31][魔力放出:34][迫撃魔法:EX]
――
爆炎の魔女とかウィッチオブプロードとか、もっといいものがあったと思うのにな。半ば酒の席で決まっちゃったから絶対悪ふざけだよ。
「はぁ……」
詰所のベンチに座って足をぷらぷら。パンを片手に時間を潰してたら三人が追いついてきた。
「待たせたな、仕事の時間だぜ。今日も沢山魔物をぶっ殺そう」
「安定して稼げるからこの街は好きですよ。絶対に潰させません」
「もうっ!二人とも真面目に戦ってよ!?」
「任せといて。全部吹き飛ばすから」
なんて話してたら十二を知らせる時報の鐘が鳴る。防衛隊の人が部屋へと入ってきた。私を特注の杖を肩に乗せて持つ。
「冒険者の諸君!これより防衛依頼を開始する!配置は──」
「今日も壁上じゃねえか……飛行型はやりにくいのによ」
「私の迫撃魔法は高い方が強いから仕方ない」
「ククク。さぁ行きましょう。今日もキルスコアは僕の勝ちですが」
「喧嘩しないで。怪我しないように頑張ろう」
隊の指示通り、私たちは階段を登って壁の上へ。この街にいる冒険者達は防衛隊から発布される防衛依頼を受けて生活している。内容は単純で魔物を倒して街を守ること。単純に戦闘の機会も増えるから、成長にはもってこい。同僚の噂話を聞いてやってきたけど正解だったと思う。二つ名以外は。
「あとは任せた」
「オヤツでも食って寝なよ」
先にいた朝番とハイタッチして交代。杖を構えて合図を待つ。下を見ると壁下では大楯を持つ兵士や冒険者達が壁を壊さんとする魔物を返り討ちにしているのがよく見える。
「いつも魔物がいるよね。あんなに走って疲れないのかな」
「俺らみたいに人間じゃあないし疲れねえんだろ」
その分打ち甲斐のあるいい的になる。なんだかんだ気に入ってはいるんだ、[迫撃魔法]。
「って、そんなことより何処に飛ばすべきか教えてよナイプ。私バカだからわかんな〜い」
……何その溜息。蹴るよ?
「僕の目にはあの辺りにオーガチャンピオン、そこから斜め後ろにゴブリンキングが見える。対空は俺に任せてカッ飛ばすんだ」
「ありがと」
よく目を凝らすと指揮級魔物が見える気がする。角度と距離を指で測って、バッチリ。
「配置に付いたな。魔法使いらは第一射準備!」
「[魔力放出]」
丁度指令も出たところで魔力を放出。私の全身から無色の風が吹き出して、荒れる。実祝福値50を超える魔力の奔流が方向性のないまま周囲へ拡散したから。
「用意!」
「[迫撃魔法]」
そして圧縮、圧縮、魔力を圧縮。広げた私の掌の上に生まれた真っ白な球へ、無色の風が殺到。そして、封入した魔力をそのまま上にトス。
「撃て!」
「[筋力強化]ァァ!!」
落ちてきた球を私専用の──握りやすいようブラックサーペントの革でグリップに加工が施された球技に使える形状をしたミスリル製の──特注杖で打つ!
『カァッッ──キィィンン!!』
狙いは良さそう。球はそのままオーガとゴブリンの集団へ飛んで飛んで飛んで飛んで……
『チュドォーンッ!』
着弾っ!無惨に魔物は吹き飛んだっ!
「ナイスだモルル!」
「ふふ、もっと褒めてもいいんだよ?」
「流石[人間戦略兵器]と呼ばれるだけのことはある」
「ねぇ!だからそれやめてよ!?」
「ほらモルルちゃん、[魔力充填]するからジッとして」
「……むぅ」
消耗が多いのだけが玉に瑕だよね、[迫撃魔法]は。





