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炭素文明論―「元素の王者」が歴史を動かす―
前表紙
佐藤健太郎
新潮社, 2013/07/26 - 255 ページ
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農耕開始から世界大戦まで、人類は地上にわずか〇・〇八%しか存在しない炭素をめぐり、激しい争奪戦を繰り広げてきた。そしてエネルギー危機が迫る現在、新たな「炭素戦争」が勃発する。勝敗の鍵を握るのは……? 「炭素史観」とも言うべき斬新な視点から人類の歴史を描き直す、化学薀蓄満載のポピュラー・サイエンス。
(Google Play の書籍情報転載)
地球構成物質の1パーセントにも満たない物質。元素記号C、炭素。
しかしそれは英雄であり悪魔でありそして人類と共にあった。
この新書では炭素を通して人類の歩みや暴走、そして炭素の乗り物として生物を描く壮大な実験作である。
いうまでもないがご飯などの生物に必要なエネルギーとして炭水化物の摂取は必要だ。不足したら体内のタンパク質を分解してでも持っていく。当然それにはエネルギーが余分にかかりそれもまた炭素が必要だ。筋トレの食事が学問になる理由であり食事専門のちゃんとしたトレーナーが必要とされる理由である。
人類はただ動くだけでなく活動エネルギーの実に半分くらい脳みそがチューチュー横から持っていく。筆者の元知人だけであろうが筋トレやダイエットにハマって炭水化物抜きを始めた子は男女問わずネズミ講や怪しい宗教や情報商材やオンラインカジノなどのスピーカーに堕落した。多分脳みそに糖分が足りなくなった挙句炭素供給のため脳みそのタンパク質まで文字通りスカスカになり自分で考える力が退化したわけでもあるまいが案外彼ら彼女らは適応力が高いのかもしれない。
人類どころか生物の構成物質としてほとんど水が挙げられるが翻して生き物は炭素のために生まれ炭素の乗り物として炭素を求めて炭素を奪い合い炭素を求めて進化したと逆説を張れなくもない。主人公はほとんど水である生物ではなくそのガワを作り出す炭素なのだ。
このようなアプローチは後日『図説火と人間の歴史 (シリーズ人と自然と地球)』の紹介で語りたい。
生物を構成するタンパク質は炭素が不可欠でありDNAの構成にも炭素は大きく関わる。
かくも小さな物質がここまで人類や生物起源、歴史に深く関わるのだ。
物質化学は地味と筆者は自嘲してみせる。
周期表を覚えどのように反応するかを記憶し予想しと、実に学ぶにあたって面白くないと考える学生が多いかと。
しかしこの本によって筆者は物質化学の世界には小さくそして燦然たる輝きを放つ存在があること、それがどれほどのときめきをもたらすかを生き生きと語り出す。それが炭素なのだ。
圧が加わることで真っ黒なそれは不思議に、熱く透明に光り輝く。
墨に炭。他の元素が加わることでその形態は激しく華やかに変わりゆく。
モルヒネや化合物。デンプン。砂糖にスパイス。うま味にニコチン。
すこし一息カフェイン。
尿酸にエタノール。
そしてニトログリセリン。
硝石争奪戦から総力戦。
アンモニアの奪い合いが領土戦争になり人類の食料危機が迫る。
人類の存続は絶滅寸前になる。そこに燦然と現れるハーバーボッシュ法。
その後の陰鬱な毒ガス戦。
人類発展の切り札化石燃料。
やがて物語は炭素を用いた新素材、人口光合成の可能性につながっていく。
小さな炭。
小さな円環。
その輝きを手にするものはあなただ。
もし江戸時代に帰れというものがいたら疑わなければいけない。ハーバーボッシュ法前の時代において人類の糊口を養う手段は限られる。19世紀以前の生活に人類を対抗させるということは今いる50億の人間に死んでもらうことを意味する。
石油化学にて生み出された食料や調味料の組成は既存の食品と変わらないどころか純粋かつどんどん旨くなるし生き物を余計に殺すわけでもない。もっと食って良いぞ!




