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ありそうでなかった! 三〇〇回以上 #小説家になろう に #レビュー した記事をコピペでまとめ!  作者: 鴉野 兄貴
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#蹴る #映画

蹴る

監督中村和彦

製作『蹴る』製作委員会 中村和彦 森内康博

出演者永岡真理

東武範

北沢洋平

吉沢祐輔

竹田敦史

三上勇輝

有田正行

飯島洸洋

内橋翠

内海恭平

塩入新也

北澤豪(日本障がい者サッカー連盟会長)

音楽森内清敬

撮影堺斗志文 中村和彦 森内康博

編集中村和彦

配給『蹴る』製作委員会  ヨコハマ・フットボール映画祭

公開日本の旗 2019年3月23日

上映時間118分

製作国日本の旗 日本

言語日本語

(wikipedia日本版)

 連勤記録が23連勤で止まったので見に行きたくとも行けなかった『蹴る』を日曜に梅田の第七藝術劇場で観てきました。



公式サイト。keru.pictures



 切っ掛けは朝日新聞の記事。


 新聞なんて今どき読むのかと言われそうだけど『知りたくないことを体系的に』知りたいときは新聞はいいツールだと思う。画面でかいし。



 私事だけど筆者が働かせていただいている現場の一つの近くに障害者関係の場所があります。



 そこで杖を持ったり警笛が聞けない方たちから『警備員さん。もしよかったら私たちが通るとき誘導して頂くと嬉しいです』と言われました。



 ただ歩くだけ。仕事をするだけ。友達とお茶を飲みにいくだけにです。



 勿論警備員を雇っているのは警備会社であり、警備会社に依頼を行うのはクライアントさんなので現場を離れることはできませんが、せめて現場の近くだけでも誘導してくれたらどれだけ嬉しいかということを教わりました。(※道路交通法で弱者保護義務はあります)



 私達の普通は私だけの普通かもしれません。



 これはぼくの魔法なんだ



 この映画の中には監督など制作者の思想をナレーションすることはなくただ生の声が流れているだけです。


 だけど周囲の意図とか気遣いとか自分で遠慮するとかが如何に人生を縛るか律するかあるいは苦痛に満ちたものにするかを示します。


『電動車いすに乗ったら人生が変わる』

『電動車いすにのったら身体能力が激減する』



 どちらも正しいのかもしれません。

 ただ、失ったものの代わりに得る力は前者の方が大きいようです。


 『ドラゴンランス』の作者が記した小説に『ダーク・ソード』という作品があります。 魔法(生命と表記される)を使えることが当たり前であり生殖行為ですら肉体を用いることを是としない世界で己の肉体しか使えない身体に生まれ、禁断の魔法、テクノロジーで自ら鍛えた魔法の力を吸収してしまう邪悪な剣を主人公ジョーラムはこう表現します。


『これはぼくの魔法なんだ』



 私たちにとっての魔法とはなんでしょうか。

 ただ歩くことが魔法な世界があるとしたらどう生きるべきなのでしょうか。



 死ぬから生きる。生きる以上死ぬ日は来る。


 どちらが正しいかわかりません。

 死ぬことを覚悟した時から彼らの人生が始まったのなら彼らの人生ほど濃密なものはないでしょう。



 全身が捻じれまがり細くちぎれ呼吸すらままならず歩くことも立つこともできない。



 三十歳を前に死ぬ。痰を詰まらせて死ぬ。停電で呼吸できずに死ぬ。病気で死ぬ。事故で死ぬ。海外遠征するならば飛行機の気圧変化が危険。



 生きる。それだけで偉大な挑戦。

 なのに、だからこそ。

 故に戦う。



 もう十分に生きる為に戦った。

 闘うために生きることに何のためらいがありましょう。


 ただの延命ではなく、一秒の命を燃やしてやるべきことをやりたいことに。それを彼らは見つけてしまう。そしてそれ以外を考える余地はない。



 ナレーションはありません。

 選手たちのナマの声があなたの胸をえぐっていきます。



 それは死との戦い。生きるという苦悩です。


 電動車いすは鋼のバンパーを付けた特別製です。

 高速で動き回り、激しい衝突をし、体幹が麻痺している選手がなんの受け身を取ることも出来ず頭から落下します。(最近はかなり安全対策が施されているそうですが)



 物体には慣性があります。重いほど強いエネルギーが必要です。

 体幹によるクッションもなく、鋼のバンパーもショックを抑えきれず、シュートや仲間のファイトを讃えるだけで急な高速回転や衝突を繰り返します。



 推定総重量から考えても脳へのダメージは恐ろしい事になっているはずです。回し蹴りして目を回しましたとかそんなレベルじゃない。ボクシングのジャブを受け身もとれず頭で受け続けたらどうなるか。



 首にはショックを覆うものもヘルメットもなく滑落する場合選手を守る鋼鉄の鎧は鋼鉄の檻になって計り知れないダメージを与えてきます。



 激しいのは知識として知っていたけどこれは確実に死ぬ。


 ボクシングだってガードがある。ラグビーだって防具を付ける。



 彼らは『魔法の杖』しかないのです。



 年々強力な車いすが開発され、衝撃はどんどん増していく。

 健常者に近い選手が圧倒的な資金力と技術力で戦い障害者スポーツは実質モータースポーツになっていく。



 こんどは最強の車いすになったと喜ぶと同時に車いすに乗るのを恐れる。

 仲間の中には若くして亡くなったものは普通にいる。



 世界大会で優勝してもワールドカップでは勝てないと再認識したに過ぎないと漏らす彼ら彼女ら。勝つことすら喜べず戦うこと、その先しか見ていない。何が彼らをそこまで追い詰めるのか。



 世界の片隅で代表になり勝っても負けても知ってくれる人はわずか。

 それでも勝つ。戦う。そして生きる。



 全力でぶつかり、安全に生き残り、それを次代につなぐ。

 なにもない。何も残っていない。すべてがそこにある



 恋人と別れることになるものがいる。

 恋人と過ごす上で齟齬の原因になった食事を永遠に辞める時、人間としての喜びの一つである食べる事を彼はこう表現する。



『やっと解放されたぁ』



 金銭でも、身近な人への負担へも、職場でも。

 ありとあらゆる可能性を捨て、粉々になりねじくれそれでも見えない光を目指す。



 そう。たとえ手足を奪われることがあっても。サッカーならばできる。サッカーならばそこに行けるから。



 電動車いすサッカーが主ですが11人制の我々が『サッカー』と呼ぶ競技の他、ブラインドサッカーやアンプティサッカー、ボッチャという障害者スポーツ選手同士の交流や連携も描かれます。全てを無くしても奪われてもサッカーならばできる。サッカーだからできる。自分だからサッカーをやれる。

 敵味方も何もない。闘志を抱えて戦場に立つ。



 代表に選ばれないくやしさ。役立てない無念さ。

 代表に選ばれても勝てない苦悩。

 彼らはむしろ超一流の強いチームです。



 にもかかわらずアメリカに9-0で完敗します。

 そのアメリカですらフランスに負けます。



 しかしその戦いを私は知りませんでした。


 私に知らしめるために彼らも戦いはしないでしょう。

 ただ、生きる為に、延命するためにただ生きるのではない。



 与えられた。選ばれた。



 あらゆる可能性も偶然も死も生もひっくるめ、そこに集った人々は誰もが『日本代表とはなんだ』との答えを持っていません。


 与えられた。生かされた。


 それを次世代につなぐために。

 自分たちの生きていることを己の指先に込めて彼らは鉄の檻を鋼の鎧にして挑みます。それは相手も同じ。

 炎のように燃える闘志が生きている証。



 全身が動かない。

 だから人を炎のように愛しまた破局もします。


 それでも彼らは寄り添いまたは離れ離れたくても離れず今日も戦います。

 誰かに見られるためではなく自分が戦い悔いなく死ぬ。


 あらゆる快楽も喜びも戦いのために捨ててしまう。それゆえに残った命がほとばしる激しい試合、戦略を活かした動きそして興奮があなたを待っています。命を懸けたそのひと蹴りひと蹴りが熱く燃え上がります。


 死ぬことも怖くない。誰にも文句は言わない。


 あとはただ一つ。歩いたことも足を動かしたこともない彼女が駆ける。そして。


 【蹴る】


 是非見に行ってください。この手の映画の上映期間は短いです。後悔はさせません。

 ※こちらの記事は https://note.mu/karasuno4989/n/n111c70c19027 から転載、修正、追記しました。


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