#大坂堂島米市場江戸幕府vs市場経済 #講談社現代新書
すっげー面白いものがある。これは是が非にでも皆に勧めなければならない。是が非でもとは善悪問わず手段を選ばずということだ。
著者は名古屋大学出版会から類書を出しているようだがお値段なんと税抜六千円。
(『近世米市場の形成と展開―幕府司法と堂島米会所の発展』)
著者は世界初の先物取引を成した大阪堂島の米市場の研究をしている。この面白い研究を次世代に繋げなければならぬ。
なのに、経済史に学生が興味を持ってくれない。沼に引き込むためには面白いことを証明し、親切丁寧に良さを布教せねばならないのだ。
なに。面白いこと『だけ』は正義だ。
たとえ沼にハマった学生が、古文の崩字と経済学の数式、統計学を覚えねばならないと知るのはもう少し先でも良い。
本書は崩字わかんない。数学嫌い。統計学なんていくら必要でも学びたくないあなたを経済史沼に引き込むために書かれた本である。新書の情報量で沼にハマらせる、充分な情報がある真の意味で使える新書としては北島一真氏の『英語の読み方』に匹敵するがこちらはあくまで沼にハマらせるための本である。
あなたは知っているか。
当時の取引所は現物なしに取引され、今のビットコインのような投機と思われていたことを。
君は理解しているか。
幕府はこの取引で爆安にされたり高騰するのを防ぐべく、庶民の首を絞めない程度になるべく高値を維持せんとしたことを。
この時代、開墾地が広がり、生産力も跳ね上がり、米は相対的に価値が下がった。困ったのは開墾地がなくなっているのに外国との貿易を禁じられていた諸大名である。
「米があ! やすくなったらぁ!? 俺らのぉ!? 収入が減るだろうがあああ! 他に財源よこしてお願い致しますオナシャース?!」
と、言ったかはさておき、各藩は年貢米を大阪の町屋敷にて売るのである。
面倒なことに藩の屋敷とするには問題があるので町人が借りている名義だが、こういった豆知識は作者が学生たちを歴史学沼に引き込む上であまり意味がない。読者がタイムスリップして相場で儲けるなら別だが、作者にしても読者をこの時代の短期売買の達人にする気はない。
売ると言っても米は作物なので、腐るし水に浸かるし砕けるし運送に時間がかかる。そして育つまでに時間がかかり不作な時も火災がおきてなくなることもあった。
なのに「傷のある米だから交換した」が罷り通る不思議。燃えたはずの米が国元にある! 米の引き換え券のはずなのに藩は信用創造とばかりに米の引き換え券を米の量より出して財源にする。
幕府当然おこ!
規制規制規制! さっさと規制!
と、思いきやこれが各藩の財政に関係あるので、釘を刺しつつ民間にできることは民間に。民間が儲けているからと市場の失敗を民間に払わせたり臨機応変。民間だって負けていない。米の価格が落ちる時期に供出を分割払いする。
米市場は加熱し大阪の相場を各地に知らせる専用の飛脚が走る走る。
明治になって郵便局の専業になった郵政だが大阪の相場情報が一日遅れると奈良の商人がキレた程度には大慌てでお知らせいたします。
インサイダー取引はこの時代ないが、飛脚なんて待ってられないと旗振り信号鳩とばし。手を替え品を替え飛ばせ飛ばせ最新情報。時々首も飛ぶ。
相場情報を商う人まで出てきて大混乱。一銘柄だけど万単位の取引案件がコンピュータもないのに滞りなく行われるシステム。
世界初ゆえ前代未聞大混乱。そしていい感じの落とし所。
こんなに興味深く面白い大阪堂島取引所。しかし歴史の授業では世界初の先物取引所としか学ばなかった。
しかしこの話、一度はじめたらこんなに面白い。六千六百円を沼にハメるべく新書サイズに最高に再構成。読者が沼にハマったらご報告ください。
大坂堂島米市場 江戸幕府vs市場経済
オオサカドウジマコメイチバエドバクフvsシジョウケイザイ
著: 高槻 泰郎
講談社現代新書
海外の研究者が「世界初の先物取引市場」と評価する江戸時代、大坂堂島の米市場。米を証券化した「米切手」が、現在の証券市場と同じように、「米切手」の先物取引という、まったくヴァーチャルな売り買いとして、まさに生き馬の目を抜くかのごとき大坂商人たちの手で行われていた。このしばしば暴走を繰り返すマーケットに江戸幕府はいかに対処したのか? 大坂堂島を舞台にした江戸時代の「資本主義」の実体を始めて本格的に活写
発売日
2018年07月19日
ISBN
9784065124987
判型
新書
価格
定価:1,210円(本体1,100円)
通巻番号
2487
ページ数
320ページ
シリーズ
講談社現代新書
(出版社様サイトより)
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000312418




