彼の者【短編】
作品タイトル:彼の者
作者:紙源さん
竜殺し。
浪漫だがそれゆえに誰もが語りそれゆえ陳腐になった。
では竜とはなんだったのだろうか。
災厄。圧倒的暴力。神秘。神聖。邪悪。近寄れぬ遥かな幻想。
それをひとが降した時幻想は現実に堕してしまう。
彼らがことばを持ったとき声を失う。
幻想は現実に。神秘は人格になってしまう。
『ことばから意味というものが脱落したとき、そのときにはじめてわたしたちは声を聴く』(鷲田精一)
ならば逆を問えばきっと意味がないゆえに、かのものの原初の響きそして断末魔の声こそ自然と神々の叫びのときの終焉に、人間の物語の始まりのことばのはじまりとなった。
彼の者は正しく今、獣となって地に臥せたのだ。
============
こころを得る時ひとは怖れと愛を知り、天災は物語と名を得る。
投稿日:2020年11月26日 19時38分
地震。津波。そして雷。火事に台風。
天災にはこころなどいらない。破壊して流して潰して何処へと。それは永遠不滅の真理である。
もし彼が痛みを感じるなら。
もし彼が愛を知ったなら。
怖れや愛を受けたなら。
きっと彼はその時、名前を得てしまうだろう。
ちっぽけなにんげん如きに定義される存在へと貶められてしまうだろう。
翼を広げただ通り過ぎるのみで国家をも滅ぼす存在は正しくいきものになった。彼は痛みを知った。彼は怖れを感じただろうか。それは定命の我々には推測するしかない。なのに我々は彼に名を与えて貶めんとする。怒りを抱くこともできぬ偉大な存在を少しでも自らに近づけようとするために。
これは一人の英雄による偉業と、小さな人たちがとある天災に竜と名付けるきっかけになった小さな物語である。
作品タイトル:彼の者
作者:紙源
https://book1.adouzi.eu.org/n7685gp/




