#カモノハシの博物誌 #書籍
生物ミステリーシリーズ
カモノハシの博物誌
~ふしぎな哺乳類の進化と発見の物語
2020年7月13日発売
浅原正和 著
A5判/224ページ
定価(本体2,280円+税)
ISBN978-4-297-11512-8
この本の概要
ヘンな動物の代表格・カモノハシ。
関西のicocaカードのキャラクターでもあり,巷ではけっこうな人気者。
そのわりになぜだか情報が少ない・・・。
理由はいたって簡単。
原産地オーストラリア以外で全く飼育されていないので,現地に行かないと観察できないから。
このおかげで,人気のある動物なのに類書が全くない状況。
専門書を除くと世界的にもオーストラリアに数冊あるのみという惨状。。。
一体カモノハシはどんな動物なのだろう?
カモノハシはどうやって進化してきたの?
そんなカモノハシの不思議に,気鋭のカモノハシ研究家がぐっと迫る。
謎多きカモノハシ,その魅力にぜひふれてほしい。
著者プロフィール
浅原正和
幼い頃からのカモノハシ好きが高じて,カモノハシなど哺乳類のかたちの進化を研究しています。
頭の骨や歯のかたちの進化が専門です。
京都大学大学院理学研究科修了,博士(理学)。現在,愛知学院大学で生物学を教えています。
専門はこの通り生物学分野ですが,カモノハシ好きのせいで専門を飛び出してオーストラリアが行ってきた“カモノハシ外交”の歴史を調べたりもしています。
2016年日本哺乳類学会奨励賞,2019年日本進化学会研究奨励賞受賞。
目次
Chapter1カモノハシの形態学
1-1図解 カモノハシ
1-2カモノハシの体
1-3カモノハシの消化
Chapter2カモノハシの生態学
2-1カモノハシの生態
2-2カモノハシの一日
2-3カモノハシの子育て
2-4動物園で繁殖
Chapter3カモノハシと哺乳類の進化
3-1カモノハシから考える哺乳類の進化の歴史
3-2哺乳類の誕生
3-3哺乳類らしさの進化1 子育てと授乳
3-4哺乳類らしさの進化2 胎盤の進化
3-5哺乳類らしさの進化3 恒温性と体毛
3-6哺乳類らしさの進化4 歯の形態
3-7哺乳類らしさの進化5 顎の骨と耳の骨
3-8哺乳類らしさの進化6 脊椎動物における運動様式の進化
Chapter4化石単孔類の研究
4-1さまざまな化石単孔類
4-2いまだ明かされていない単孔類進化の謎
4-3カモノハシ生存の秘訣
Chapter5カモノハシが歯を失った話と私
5-1カモノハシの研究者になるまで
5-2カモノハシが歯を失った理由
Chapter6カモノハシの発見と研究の歴史
6-1カモノハシ発見の歴史
6-2東洋の博物学
6-3カモノハシの博物学
6-4進化という考え方の歴史とカモノハシの影響
6-5戦争 & 国際社会とカモノハシ
Chapter7人間社会とカモノハシ
7-1カモノハシの危機と保護
私のカモノハシ研究の背景とこれから あとがきにかえて
カモノハシ・ファクトシート
参考文献
(技術評論社さんのサイトより)
カモノハシ。日本軍と戦う!
え、いみわかんない。
この本は比較的若年層に向けて書かれたカモノハシ好きのカモノハシマニアのカモノハシ研究者によるカモノハシの専門書である。
ぶっちゃけ人生の何に役に立つのか。
関西人である筆者にはカモノハシを直接見る機会より電子マネーICOCAのマスコットキャラクターを見る機会のほうが圧倒的に多い。年間で言えば365倍を超えるだろう。そして今調べて初めて奴がイコちゃんというと知ったよ!
実際こんな珍妙な生き物はいない。
視力が鈍い。獲物をとる時は目を閉じる。
聴力も鈍いらしい。少なくともオーケストラは聞き取れないらしい。
嗅覚も怪しい。水中に適応した哺乳類は意外と臭いに鈍感? らしい。
味覚もどうも受容体が少ないらしいし、皮膚感覚が鋭敏かどうかはわかりかねる。ちなみに小柄な割にめっちゃ毛がある。
進む時は右足右手同時にドタドタ。かわいい。
意外と人間に慣れてモップとかにしがみつく。
大人でもちっこい。1キログラムくらいしかない。
最初に発見された時は『そんな生き物いないだろ』と言われた模様である。
生物学的に発見とはただ見つかっただけではなく、他の生き物と比較検討の結果新種族と判明して初めて新種として『発見』されたことになる。当時は人魚の木乃伊とか普通に売られていたのでなおさらだ。
けずめがかかとにあって毒がある。
柔らかいくちばしは電気を感知する受容体を持つらしい。
乳首は退化した模様で身体から出る体液的な乳に多くの鉄分を含み、子供に与えることができるらしい。
でっかい水かきに脂肪たっぷりのしっぽ。愛嬌のあるフォルム。
犬ぐらいなら倒せる毒もしっぽを握られると無力化する。どたどた。
さっきかららしいらしいだが実際わからないことが多い生き物でそもそもこんなニッチな分野の研究者をやっていたら生きていけないので作者もカモノハシだけでなく口周りの骨格を調べるのが一応本業ではある。
だが、カモノハシのかわいいイラストを描いて解説したりぬいぐるみで解説していたりして講義にはぬいぐるみが出て来る。
科学誌に『可愛いイラストを描いた』というと『写真はないのですか』と言われるらしい。外国人には日本のキャラクター萌えがわからないのか。
外国にもカモノハシのキャラクターがいるのだが作者は『ああああ! 歯がある! きっとこの子はカモノハシの原種の……!』(※大興奮)単なる資料不足からくるデザインミスと思われます。
そんなニッチな研究なので他の異分野の研究者とよくボランティアで助け合っている。
結果的に昔の貴族宜しくお茶会で新しい研究が行われる。カモノハシ外交ってなんだ?!
結果的に政治、科学、宗教、歴史。別分野でのカモノハシ知識も増える。なってこった!
実は戦時中、日本軍にシンガポールを落とされ、通商妨害に苦戦していたオーストラリアは英連邦の元締めイギリスさんにカモノハシを届ける秘密任務を行っていた。冒頭はその話である。今語られるパンダ外交ならぬカモノハシ外交史!
デリケートないきものであるカモノハシを資料として外国に送るくらいならキャラクタービジネスをしようと作者さんは提案している。実際カモノハシの都を名乗る街は実在し主力観光産業となっている。あなたの作品にもマスコットキャラクターにどうでしょうか。
今でこそオーストラリアの一部にしかいないカモノハシだが種の成立段階で拡散したおかげでいまだ生きながらえていることも興味深い。彼ら弱弱しい生き物の生存戦略は我々になんらかの示唆を与えてくれるとしつつ、作者さんの主張は『同じ研究しようぜ!(キラキラ)』である。ひと狩り行こうぜのノリだな?!
さて、この手の本は前書きと称しての作者略歴と称した自慢話があるのだがいきなり図解から始まって怒涛の解説。著者略歴は本書の中盤についでに語られるので著者にとってはカモノハシ>自分の健康に違いない。実際著者曰く研究職というのはポスト争いと本業しつつやりたい研究して雑務して予算奪ってきてと雑務が恐ろしく忙しいため不摂生の塊となり何度も死にかけたらしい。『生きねば』風立ちぬでしょうか?!
圧倒的なカモノハシへの愛情と解説。
多分人生において一ミリも役に立たないだろう新たな知識の連続。
あごの構造が違うとか、あごの骨周りから聴覚が発生してるので同じ哺乳類でも種によって聴覚の起源が違うんじゃないかなとか祖先とくちばしの形が違うので目を使わず電気センサーで泥の中で餌を探す方に進化したのだろうなどなど、本当にいつ役に立つのかわからないが、そうやっていろいろ講義のネタをさがしているうちに新発見が生まれると著者は述べている。
発見は日常の中にある。賢者は毎日が新たなる人生であり一日だけなら人は正しく生きる努力ができるとかつてDカーネギーは語っている。
それは小さな、たとえ珍獣を追求する珍しい生活でもあなたの普段の日常でも変わらない。
あなたの『カモノハシ』はなんですか。




