#通勤の社会史 #書籍
『通勤の社会史 毎日5億人が通勤する理由』
著:イアン・ゲートリー
出版:太田出版
2600円+税
判型:四六判
ページ数:352ページ
ISBNコード:9784778315108
電子版発売
グーグル、ヤフーなどグローバル企業も通勤を再評価
◆通勤こそ近代社会を発展させた原動力
19世紀に生まれ、移動・職業選択の自由をもたらし、都市と生活を激変させた通勤の歴史、現状、未来を考察。
「通勤大国」日本をはじめ、世界の通勤事情も網羅。
[目次]
序章 誰もいない土地を抜けて
第1部 通勤の誕生と成長、そして勝利
1 一日に二度ロンドンへ行った男
2 郊外の発展
3 スネークヘッドと美食
4 自動車の発達
5 中間地域
6 山高帽とミニクーパー
7 二輪は最高
第2部 粛々と通勤する人々
8 超満員電車
9 ロード・レージ――逆上するドライバーたち
10 移動は喜びなのか?
11 通勤が日常生活におよぼす影響
12 流れをコントロールする
第3部 顔を合わせる時間
13 仮想通勤
14 すべては変わる
辛い、疲れる「通勤」にも意義があった!?
著者:イアン・ゲートリー
香港で育ち、ケンブリッジ大学で法律を学ぶ。ロンドンで金融関係の仕事についたあと、ジャーナリスト、ライターとして活躍。イギリス、サウサンプトン在住。
(太田出版さんのサイトより)
クラウドは石炭で始まる。
いきなりなにを言い出すおまえ。実際本書では最終章にて語られる話題だ。
化石燃料業界の提灯記事……もとい報告書によるとIT業界のデータセンターが扱う電気量は2010年から2012年間に四倍に、一時間におけるインターネット・トラフィック量はまもなく2000年時の年間量を超えるらしい。
この事態にブチ切れたグリーンピースさんは『全部クリーンエネルギーで賄え!』と各IT企業に抗議しているらしい。その電力を賄うクリーンなエネルギー源って原発かしら?
日本で田園地帯を旅すると休耕地にアホホド設置され、山地を削って設置されて土砂崩れの原因となっているソーラーパネルをけっこう見かける。
私事だが20年近く前に筆者が訪問販売員のパシリをしていた時代から再生エネルギーは浪漫産業でその実態は鴉野たち訪問販売員(というか詐欺師)のための業界に近い。なんせエネルギー効率が激しくよろしくない。
「え、つかえないのですか店長代理」
「つかえねよ。電力を得る為に維持するカネと比べて全然見合わない。あんなもん扱うのも相手してだまされるのもアホだ」
経歴をたどれば暴走族、元ホームレス、元チンピラ、ゴト師の集団の中でも『頼まれれば売るが自分からやるのはあほくさい』案件であるらしい。
つまり、自宅通勤はとんでもなく非効率極まりない再生エネルギーを用いずとも『原発何台動かさなければいかんのだかわからん』クラスのエネルギーを使う。ついでに言えば日本のニートをテレワーカーとして雇用するより台湾やフィリピンの日本語堪能な大学生を雇ったほうが給料面でも能力面でもコストパフォーマンスが高い。実際最近のコールセンターの社員は世界的にみて海外のひとがおおい。
もっと言えばテレワークを社員に頼んでも、その高給を第三国の労働者にそのまま丸投げして自分の生活を楽しみつつ、別の仕事を複数やるダブルワーカートリプルワーカーが当たり前のように発生する。例えば15万円の仕事でも13万円で人を雇っておけば差額2万円がもらえる。どこの警備会社でしょうか。
結果的にセキュリティ面でも社会全体が消費する電力エネルギー面でも『出勤してこい』(byグーグル社)がアンサーになってしまう。
最近の自動運転車の省エネルギー化予測から、連結すればさらに空気抵抗を減らせることなども考慮して社会が支払うスマホ会議代は国民全員が昔の中国よろしくチャリ乗って通勤した方がマシになる考えもある。チャリ最強である。なんせ世の中には家の隣に会社があってもチャリに乗り倒して通勤した気分で仕事を始める奴が少なからずいる。余談だが初期の自転車は前輪がバカデカく後輪が超小さいもので乗るだけで転んで首を折りかねず、その上なんと時速38キロ出る滅茶苦茶危険な代物で冒険野郎の乗り物だった。
そんなもんに乗って通勤する奴いねえ!
いやいやいや。
初期の列車は爆発しまくった。
レールも構造が弱く、車体を支えられないので時々ちぎれ、車体に刺さりサメの背みたいに床を突っ切って人間を両断していった。
列車の環境もよろしくない。最近の『上にコンクリの重りをたくさんぶら下げて列車の上に登る客を迎撃するシステム』導入したどこぞの国の列車や、『車体に客を押し込むためのスタッフがいる』どっかの先進国も大概だがトイレは無いわご飯は不味いわ。
こんな環境の列車で通勤していたのだから人類は偉大だ。なんせ爆撃受けても通勤はしていた。どんどん郊外の快適な家は労働者階級の密集住宅になり、景観は破壊され、劣悪な異臭が都市を汚染した。
キレた当時の詩人は『この街を爆撃してくれ』とうたっている。図らずしも彼の願いは実現してしまって今では整備された電車が通ることが可能になった。世界大戦やばい。
列車が通る時代ならまだいい。
その前は都市の環境がどんどん劣悪になっていた。
移動の自由が通勤を生み出したと考えればそれは快適な郊外に金持ちが移り住み、仕事は馬車で都市にて行うことがスタイルとして確立してもおかしくはない。通勤は金持ちに仕事と快適なプライベートを与えてくれる。
今でも『世界平和と環境保護のために』運行されるIT企業の超快適バスは劣悪なバスに乗って通勤するサンフランシスコ住民のヘイトを煽りまくっているし、ロシアでは共産党時代の青パトランプ(要人用)がいまだビカビカ光って『聖人に道を譲れ』ばかりに無茶苦茶な運転をしているので対抗して青バケツを車体に乗っけた庶民がスマホで悪辣運転晒上げ。
通勤の自由とは移動の自由がもたらした。つまり通勤は金持ちがはじめた。
どういうことかというと昔は道路がまともに整備されていなかったので馬車もろくに走れない。街道に人間がまるまる落ちる穴が開いていてもおかしくない。ある程度時代が進むと定時運行馬車や線路付き馬車トローリーが登場するがその定時運行馬車がもたらす馬糞の量も加速度的に増えていき、もはや馬糞が人類を駆逐する勢いだった。道路は複雑怪奇に曲がりくねり、大きな馬車が通るための道が都市にはなかった。その中で自動車や列車が普及するのは現代の道路にセグウェイを通すように別の困難が立ちふさがったのである。
馬糞を駆逐するために自動車が増えた。そうしたら前より自動車が増えたので駐車スペースをめぐって人殺しが起きたりするようになった。もう人類の知恵はワニに劣るのじゃないか。うっきー!
また、本書では車に乗ると攻撃的になるロード・レージについても触れている。『日本にはロードレージを表す言葉が存在しない』とあるが本書が編まれたのは2014年で『煽り運転』が一般化する前だ。
なんか紀元前の戦車競走時代からロードレージはあったらしい。
人間云うほど進化してねえ。
そんな本書は『人道的見地から家畜保護のスペースより劣悪な』通勤車両で生まれる新たな娯楽や恋愛、痴漢犯罪、あるいは小説家になろうのような創作活動が列車内で行われている等多彩な通勤にまつわる見解を示してくれる。通勤は楽しみも苦しさも与え、かつて生存圏(※人間の生存圏は古代の村の時代から一日10キロ動ける範囲でだいたいおさまるそうだ)から狩猟地に向かっていた本能的にもいいものらしい。
本書はコロナのように『接触を禁止する感染症』が世界的に広まらなければ通勤の需要は減らないだろうと予見している。
通勤とは何か。我々は通勤時間を如何に過ごすべきか。今一度見直してみてもいいかもしれない。
ナーロッパは主人公が色々無茶苦茶してくれるので中世というよりどちらかといえば産業革命期に近いが、もっと言えば革命後道路を作る必要がほぼ全然なかったソビエト連邦や今からインフラを作るアフリカ諸国に近いかもしれない。主人公最強だし。
アフリカにいきなり携帯電話が普及したように、いきなり道路を築いて(※なろうには主人公のチート能力でいきなり都市建設が終わってしまう作品も存在する)すべての主要道路交差点に右折の危険予防のためラウンドアバウトが導入されていてもおかしくもなんともない。
ハリーポッターシリーズでは郊外から暖炉を用いた瞬間移動魔法による通勤が描かれているが魔法使いならざる我々にはそのようなことは出来そうもない。イーロン・マスクが提唱したハイパーループは理論上超高速だが輸送人員にまだ課題がある。
このような通勤にまつわるお話を移動制限があった中世の終わりから現在まで網羅した書物が『通勤の社会史』である。
あなたの書庫の資料に加えることを検討されてはどうだろうか。




